リッチじゃないと知ってた
大袈裟に答えたところ、
「そんなにすごい内容なんですかっ!?」
メチャクチャ食い付いてきた。やばい、どうしよう。
今から「冗談だ」というのは簡単だが……
この優越感…………もうちょっとだけ感じていたいっ!
と言うわけで、
「あぁ。なんせ神様が書いた本だからな。世界が造られたところからキッチリ丁寧に書かれてる」
大風呂敷をさらに広げることにした。
まぁ収集が着かなくなることはないだろう。
それに、嘘はついてない。ちょっと大袈裟に言っているだけで、嘘はついてない。
「そ、それは……今日、帰ったら読ませてください」
「別に構わねぇけど……読めるのか?」
「試してみないと分かりませんが、『リーディング』という魔法を使えば、種族の違う文字でも読めるようになりますよ?」
「おい」
「な、なんですか? そんな怖い顔をして」
そりゃあ怖い顔にもなるだろう。
「俺のステータスを見たとき、そういう魔法があることを教えろよ……!」
なんで必要なことを教えてくれねぇの?
世界どころか、人すら俺に厳しいの? 泣くよ? 本当に、そのうち、泣くからな?
近いうちに、声に出して泣き叫ぶ未来を想像しながら、俺はある現象に気付く。
現象というか、実験の成果に。
「……金額で三分ということか」
マリィとの雑談で、少なくとも三分は経過しているはず。
だがポケットに入れていた銅貨は二枚のまま。その状況から、今俺が口にした通りだと思っていいのだろう。
これは嬉しい結果だ。結果だが、それと同時に問題でもある。
今は『コール』という翻訳の魔法だから問題ないが、これがすぐに解除しなければいけない場合は、銀貨一枚を最低限で捨てることになるかもしれない。
例えば、『コール』なら三十分分の効果を捨てることになる。
これはかなり痛い。財布と精神的にかなり痛い。
「あとは明日だな」
『ボックス』という別次元の場所に格納していたらどうなるのか。これも検証したい。
もし問題なく発動するなら、紛失する心配がなくなる。盗賊とかに襲われても大丈夫というわけだ。
「……そうなってくると有効範囲が気になるな」
くそ、魔法一覧だけは持ってくれば良かった。
一応、マリィに手渡したら俺の所持金ではなくなったらしいから、使いたくない硬貨があれば、他人に預ければ問題ないはず。
そういう意味で言えば、銀行に預けた金は減らないことになる。
「そもそも、マモルの所持金というのは、なにが判定基準なんですかね?」
「どういうこった?」
俺にも分かりやすく説明するためか、俺が手渡した銅貨だけの袋を持ち上げて見せるマリィ。
「私が持っているコレ。これはマモルの所持金ですよね?」
「あぁそうだな。俺が預けた金だな」
「所有者はマモルですが、私が持っていたら銀貨が減りましたよね?」
「あぁ……あぁ、そういうことか」
マリィが言いたいのは、俺の身に付いている必要があるのか、それとも別の条件があるのか。ということだ。
確かに、今のところ消費しているのは、ポケットに直接入れた硬貨か、腰につけていた布袋のどちらかだ。
「あ、床に置いた状態でも発動できたな」
ということは有効範囲があると考えていいのか?
「それも明日だな」
「ですね。なら、さっさと薪拾いをしましょう」
明日の予定を組んだところで、俺とマリィはしゃがんで枝を拾い始めた。
「なぁ?」
村長宅に帰宅した俺は、借りている部屋に入るなり、いきなりマリィに、
「もっと金になる仕事ってねぇの?」
転職先の斡旋をしてもらうように交渉し始めた。
交渉とは到底呼べないだろうが。
「魔法が使えるなら問題ないんですけどね」
「使えるだろうが」
「……ショボい魔法だけじゃないですか」
「ショボい言うな。というか、翻訳に関してはマリィが腑甲斐ないせいだろ?」
ちゃんと翻訳されてるなら、俺だって銅貨を消費しないで済むってのに。
というか、
「その翻訳のせいで、収入の四倍が出費になってるんだが?」
今日にいたっては銀貨一枚と銅貨を七枚。
薪拾いで得られたのは銅貨四枚。
日本円に直したら、とんでもなく悲しくなる。
「瞳を潤ませても、私では無理ですよ?」
マリィは勘違いしているようだが。
まぁ、今日は実験で消費したから、銀貨一枚に関しては仕方がないんだが。
「まぁいいや。それよりも本を読むんだろ? ほら、『リーディング』って魔法を使ってみてくれよ」
そのために銅貨一枚を消費しているんだしな。
「分かりましたよ。貧乏人のためにも、私の魔法をお見せいたしますよ」
「貧乏人は余計だ」
本を受け取ったマリィは、ペラペラとページを適当にめくっていく。
「……全く読めないですね。どこの国の文字なんですか?」
「日本って国の文字だ。たいていの転生者は日本人だと思うし、とんでもない力を持っている場合が多い」
「……ではさっそく」
「おい、何か言いたいことがあるならハッキリ聞くぞ?」
胡散臭いみたいな眼で見るんじゃねぇよ。まったく。
「『リーディング・スタート』!」
俺の不満を無視して、マリィは解読の魔法を発動させた。
「分かりましたっ!」
「早ぇなぁ」
魔法を発動させて一分も経ってねぇのに、もう読めるようになったのか?
「私の魔法では解読できません!」
頭を叩いてやりたくなった。
そんな怒りを抑え込んだ俺は、翻訳魔法を解除してベッドに潜り込んだ。
もう寝る。これ以上は金の無駄遣いでしかない。
俺の布団を剥ごうとしているマリィに抵抗しながらも、俺は瞳を閉じた。