薪はさすがにリッチではない
無事生還。
村に足を踏み入れるのは、二日後だと思っていたが、想像よりも早くたどり着けた。
その時間は約半日。半日ぶりに村を見ることができ、マジでホッとしている。
「やヾやぶ゜ヿ社ゐ敆哮霌甋ゕセ諃曱オびめエ゠ぷ゜」
恐らく村の灯りを見て、マリィもホッとしたのだろう。
翻訳をしていないと言うのに、妙に嬉しそうというか、安心したような表情をしてくる。
「なんとか帰ってこれたが……」
もう崖を登ったりはしたくねぇ。
森の中に崖があるとか以前の話なんだが、この村にたどり着く数時間前に崖登りを強要された。
そもそも行きに崖なんかを見た覚えがねぇのに……。
これ以上は思い出さないようにしよう。体と心が悲鳴を上げそうで困る。
「……明日は単独で行きてぇえなぁ」
まぁ無理な話だろうが。
そんな絶望的な期待を胸にし、俺とマリィは村長宅へと帰宅した。
やって来ました! 薪拾いの精算っ!!
……と、テンションを高めにしたものの、崖登りをした時点でわりに合わないことは確定している。
もうタダじゃなければいくらでもいいや。って気分だ。なんならマリィを残して部屋でくつろぎたい気分ですらある。さすがに待つけどな。そんなに時間もかからねぇだろうし。
「ゕぴやゖヽゐヾ曱攚业隲ゐアゑ鮫犖ゔぽ気懰ねエ゙サゲめウを」
「ソゾ剖ゴぴぷヽセグぶ舚グぽヾ鮫犖ゔゐ斊ばゕセゴぶゕゾ」
なんか知らんが、意外と長引いているな。少しでも高くなるように交渉してくれているのか?
……もしや、意外とすごい金額になるんじゃ……!
そんな期待をしていた現金な俺の肩をマリィがつついてくる。
翻訳をしろって合図だ。
「『コール・スタート』。で? いくらになった?」
「いきなりですね。まぁ重要なことですけど。はい」
文句を言いながらも、銅貨を数枚……
「う、嘘だろ?」
半日でたったの四枚っ!? わりに合わねぇどころの騒ぎじゃねぇ!!
これなら村長宅で一日中ゴロゴロしてた方がまだマシだっ!!
「ホントですよ。そもそも薪は足りているそうなんですよ。それをわざわざ買い取ってくれてるんですから。ほら、そんなところで寝てないで、ちゃんと起きてくださいよぉ」
爺さん……
「だったら薪拾いよりも賃金の高い仕事をよこせよ。これでも魔法は使えるんだから、魔物…………ってそういや、魔物の毛皮とかって売れねぇの?」
この村にたどり着く前に、ウサギと熊の毛皮を手に入れている。
それらは借りた部屋に置きっぱなしにしているが、それを売れば金になるんじゃないのか?
あ、オオカミの毛皮も手に入れたから、それなりの金額になるはずだ。
「素材ならもう売りましたよ?」
「……は?」
「ですから、素材は売り払いました」
「いつだよっ!? 俺、その金を受け取ってねぇけどっ!?」
「そんなの、あたりまえじゃないですか」
あ、あたりまえって。
「だって、どの魔物も私が倒したんですよ? 私の手柄になりますよね?」
「……ま、マリィさん? お願いがございます」
「大体想像がつくので棄却しますね。それじゃあ夜も遅いことですし、寝るとしましょう」
「おい待てよ。せめて、いくらになったかだけでも教えろよ。おいって」
両耳を押さえて部屋に立てこもったマリィを 諦め、俺も寝ることにした。
もう疲れた。体も心もボロボロだ。
翌朝。
結局、この日も方向音痴を連れて森の中に入ることになった。
しかし俺は、昨日の反省を十分にしてきた。
「そもそも、木に目印をしたのが間違いだったんだな」
ということで、今日の作戦は有名童話でも用いられていた、
「村の出入り口から大体の間隔で小石を置いていく。という名付けるなら、足跡作戦だ」
「……それ、どれが置いた小石か分からなくなりませんか?」
「その辺も抜かりはない。ちゃんと着色してるからな」
赤やピンクの小石なんて、道端に落ちてることはないはずだ。
魔物や動物の血が付着したってなら話は別だろうが、そんなもこを見つけようものなら、即座に帰ればいい。
戦えるのが実質マリィ一人だからな。いくら強くても、相手が分からねぇと戦い辛いだろうし。
「というわけで、今日からは俺の実験にも付き合ってもらうぞ?」
主に金銭面で、だが。
「そうですね。その辺りは魔法を扱う者として興味がありますから」
「ってなわけで、早速だがこの銅貨が入った袋を渡すから、銀貨を一枚くれ」
「本当に早速ですね。まぁいいですけど。はい」
マリィは特に抵抗することなく、俺から銅貨だけが入った袋を受けとり、銀貨一枚を俺に差し出してくる。
まずは銅貨がない場合で、『コール』を使った場合はどうなるのか? からだ。
これで銀貨を消費するのか。はたまた、『コール』が解除されるのか。
『フレア』みたいな単発で発動する魔法の場合はどうなるのかも、今日中に確認しておきたい。
「じゃあ行くか」
「そうですね」
「おい、森は逆方向だぞ」
今日中に帰れるかなぁ……マジで不安。