村に着けばリッチになれると思ってました
村にたどり着いた。
人によっては、それがどうしたんだ? と言われそうな些細なことかもしれない。
しかし俺は、マリィという方向音痴の後ろをついて行くことしかできない状況下で、果たして村にたどり着けるのだろうかと不安になっていたんだ。
だからこそ、木の柵に囲まれている村を見つけたときは、泣きそうになった。
あぁ……やっと着いたって…………!
だがしかし。
俺の感動は、村人の態度によって急激に冷やされた。
もうね。急速冷凍より早く冷めたと思うぞ? いや急速冷凍されたことはないが。
「めヾ鮫犖゜¢」
「ゕヾゕぬ〕〼〾〃コガぬゕ痏英ゔ゜¢」
うわぁ~……完全に俺が原因ですね。
何を言っているのかは分からねぇが、全員が俺に怯えた視線を向けて、一目散に逃げていく。
「ふソシゥ緟枯岴ゔぽ哮ゴセめエへス」
そんな村人たちを放置して、マリィは俺を引っ張っていく。
引っ張るなら腕にしてほしい。バランスを崩して倒れちまうだろうが。熊の毛皮とか、肉とか、結構重いんだぞ?
村の中にも店はある。
そりゃあそうだろ。なんて言われそうだが、集落みたいな小さな村に、まさか看板が立ってるなんて思わねぇだろ? まぁ読めねぇけど。
マリィは店の前で立ち止まり、
「………………」
俺に向けてジェスチャーを開始する。
今までは一方的に話しかけてきていたというのに、なんでここだけジェスチャーなんだよ。
と疑問に思うが、会話以外の意思疎通方法はボディーランゲージを使うしかない。
ハンドサインとか、軍隊じゃない俺に分かるわけもない。もちろんマリィも同じだろう。
で。マリィのジェスチャーを要約すると、
「待てってことか?」
手を前に突き出して、手の平をこちらに向けてくる。
多分、間違いない。待てだ。
「分かった分かった」
俺は軽くうなずいて、親指を立ててやる。
そのポーズに不安げな視線を見せてくるが、出会って一日も経っていない間柄ならしょうがないよな。
ギャグマンガかなんかだったら、マリィの後ろについて店の中に入るんだがな。
俺は体を張ったボケをしたくない。頭脳的な感じで笑いを取りたいんだ。
店の前でコントのネタ作りみたいなことを考えていると、すぐそばを三人組の子供が通りかかる。
そして、俺に気付いて立ち止まる。
「「「………………」」」
呆然と眺められる俺と、初めて見るものに瞳をキラつかせている三人組。
言葉が通じるなら、俺から話しかけるところなんだが……絶対通じない自信がある。
かといって、金貨を消費してまで『コール』をとなるのは……銀貨だったら迷わねぇけど。
いや。諦めるのはまだ早い。
外国語という壁が存在する地球でも、その壁を乗り越える強者だっているじゃないか。
そう! ボディーランゲージという武器一つでっ!!
それに、マリィとのボディーランゲージは通じていた。
簡単で、一方的なものではあったが、間違いなく通じていた。
今度は俺の番じゃないのか? なぁ、羽賀守。
「よし……!」
俺は膝を折り曲げ、子供たちと同じくらいの高さになる。ちょうど膝立ちみたいな格好だ。
そして、右手を軽く振る。バイバーイみたいな感じで。
その仕草につられたのか、三人組もこちらに手を振ってくる。
そして、その場から立ち去っていく子供たち。
「………………」
そりゃあ、バイバーイってやったら、家にでも帰っていくよな。
意思疎通に失敗し軽くへこんでいた俺。そんな俺の頭が、誰かに叩かれる。
「いて。なにすんだよ?」
叩いた犯人はマリィだった。
その美少女犯人を半眼していると、布の袋を突き出される。
ちょっと乱暴に受け取って、中身を確認した俺は、
「『コール・スタート』! マリィ様、ありがとうございますっ!!」
即座に翻訳用の魔法を発動させ、その場で土下座を刊行した。
「やっとまともに話が出来るようになりましたね」
「いやぁ~まっすぐ村にたどり着けたら良かったんですがね。そうすれば、仕事を見つけて銅貨の一枚でも恵んで貰えたかもしれないんですけど」
「……今渡した銅貨。全部かえ「美少女マリィ様、素敵っ!! 抱いてぇ~!!!」嫌ですよ。気持ち悪い」
冗談だと分かっていても、汚物を見るような目で言われると傷付く。
俺のメンタルは、高野豆腐より柔らかいからな。マジで。もっとそっと、優しく包み込むように扱ってほしい。
まぁそれはさておいて。
「これ、何枚あるんだよ?」
「ざっと三十枚です。だから最長で九十分はお話しできますよ?」
にこやかに言ってくるマリィ。
だが俺は、悠長に話をしている場合でないと考えている。
というのも、現状の俺は収支のバランスが破綻してるからだ。
端的に言えば、
「仕事探しをするぞ」
ということになる。この村で一万相当は稼いでおきたいところだ。