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プアリッチー  作者: シバトヨ
不死身の借金王(シャッキング)
1/20

リッチに転生

「ですからね? そこで畑をしようとしても、植物の種とか持ってないですよね?」


 何度目になるのか分かんねぇけど、目の前のふくよかな女は、俺に向けて説得をしてくる。


「種はねぇけど、植物ならそこら中に咲いてるじゃないか。それでいいし」


 俺の横には、地面が見えるくらい澄んだ綺麗な小川が流れており、向こう側には死んだはずの爺ちゃんが手を振っている。

 俺が耕したところは、すでに地面が盛り上がっている状態で、緑なんて一切ない。

 ないのだが、少し離れたところによく分からないが、色とりどりな花が咲いている。


「水も植物もあるなら、のんびり畑をしていてもいいだろ?」


「そういうのは天国へ行ってからにしてください。………いやそうじゃなくてっ!」


 なにが言いたいんだ、このぽっちゃり女は。

 そんな脂肪という浮き袋をまとった女は、腰? 腰だよな? ……たぶん腰に手を当てて、俺に向かい、


「あなたは選ばれたのです!」


 と、今どきの詐欺にしては低レベルな切り出しかたをしてきた。

 これで何度目になるのか。数えるつもりがなかったから、もう分からん。


「そういうのは、俺より正義感溢れる奴に任せてやってよ」


「いえ、別に正義感とか要らないんで。ただ適当に見繕っただけですから」


 適当な人間を転生させとったのかよ。

 まぁ、ほとんどが創作の話だろうから、別に気にしないが。


「それよりも、なんで畑なんですか? お爺さん、少し寂しそうに笑ってますよ?」


「だって……この川を渡ったら、俺、完全に死ぬんだろ?」


 そんなのは嫌だ。

 まだやりたいこともあるし、見たいアニメとか、続きが気になるマンガとか、そもそも俺は高校生活を満喫しようとしていたところなんだぞ?

 それが、不注意で突っ込んできたトラックに()かれて死ぬとか……


「マジでやってらんねぇー」


「やってらんねぇー……じゃないですから。せめて天国に旅立ちましょう? それが嫌なら、私の力で日本とは別の世界にお送りしますんで」


「いやいや。ここで粘れば、凄腕のドクターとかが治してくれますから」


 もちろん、そんな知り合いはいないし、あてなど全くない。

 だが、川を渡りきれば確実に死ぬ。それだけは分かる。

 なら、生還できるレベルまで治療してもらうまで粘るしかない。


 これは、俺が生き残りをかけた、ぽっちゃり女との戦いなんだ!




「違いますよ? なにも戦いませんよ?」


「………………」


 ダメだわぁ~この女、本当に分かってないわぁ~。


「その、分かってないわぁ~みたいな眼で見ないでくれます? すごく感じ悪いですよ? だから彼女なし童貞なんですよ?」


「うるせぇよ、ほっとけよ」


 彼女も童貞も関係ねぇだろうが。こいつ、死人のプライベートを覗くか? ふつう?

 ただでさえ蘇るような様子もなさそうだというのに、さらにプライバシーまで土足で踏みにじるとか、本当になんなの?


「なんなの? って……そう言えば名乗っておりませんでしたね」


 そういやそうだな。

 まぁこの流れから、自分は女神で迷える清らかな魂を転生させに来ました。とか言うんだろう。


 若くてイケメンでモテモテだったあなたには、是非とも、異世界で華やかな人生を謳歌(おうか)してください。とでも言うのだろう。


「……言いませんよ? 確かに女神ではあるんですが、そんな嘘は言いませんよ?」


「ちっ、駄女神かよ」


 最近の流行りだしな。まぁ仕方ないよな。


「誰が駄女神ですかっ!? 駄はいりませんよっ!?」


「うるせぇぞ。ここは心の清らかな人たちが訪れる整地であって、駄女神が騒ぐ場所じゃねぇんだよ!!」


「あぁ、すみません…………いや、ここ、三途の川の土手ですからっ!? 心が清らかでもそうでなくとも、死んだ方々はここを通過しますからっ!?」


 瞬時に我に戻るところを見るに、若干の天然が入り交じった駄女神らしい。


「誰が天然なんですかっ! 私は養殖ですよっ!」


「なんの話だよ? それより、(くわ)とかねぇの?」


 もっと綺麗に耕したいんだけど、さすがに素手じゃ限界があるし。


「ありませんっ! というか……いい加減、畑を諦めてくださいませんか?」


 ちっ。つかえない女神だ。


「分かった分かった。それなら転生について教えてくれよ」


 これ以上話をしていても前に進まない。

 というか、助かる見込みはほとんどないんだろうなぁ……。

 未練だらけだから、悲しくなるが。


「そうですね。何度か説明したような気もしますが、改めて説明いたします」


 そう言うと、ふくよかな駄女神はホワイトボードを何処からともなく引きずってくる。

 キャスターが付いてるとはいえ、よく土の上を転がせるもんだ。


「ではでは……羽賀(はが)さんは、異世界と聞いたら何を想像しますか?」


「魔法だろ? それに魔物? モンスターとか。それから魔王だな。あとはハーレムだったり、俺が無茶苦茶強かったり、金持ちになって人をアゴで使うような人生をおくれたり、一国の姫さんとかが俺を取り合ったりするような世界がいいですっ!」


「……要望を聞いた覚えはないんですが」


 半眼で見てくる女神様。


「まぁ、魔法と魔物は存在します。その他は……頑張ってください」


「ケチだな」


 俺は挑発するように、


「そんな出っ張った腹回りの癖に、死んだばかりの人間にはケチだなんて、さすが神様ですねぇ!」


「なんですかっ!? お腹回りは関係ないじゃないですかっ!?」


「そうですね! しょせんは脂肪の塊ですもね! 肉団子女神様!!」


「言いましたねっ!? 言っちゃいけないことをっ! とうとう言いましたねっ!!」


「もう一度言いましょうか? 肉団子女神様ぁあ!!」


「もういいです! 頭にきましたっ!!」


「おっ? なんですか? これから転生させようとしてる人間に、暴力でも振るうんですかぁ?」


「あなたなんか、アンデットにでもして送り出してやりますぅう!!」


 そう言い出した肉団子女神は、俺に向かってブツブツと唱え出す。

 まさか三途の川の土手で魔法と対面することになるとは……予想外にもほどがある。


「あなたなんか、冒険者の方々に狩られればいいんですぅう!」




 その言葉を最後に、俺の視界は真っ黒になった。

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