空が落ちた次の日に〜1~
ああ、またこの夢だ。
周囲のビルが倒壊し、瓦礫の山になっている。
住民は逃げ出したのか、周囲には誰一人いない。
少し開けたところに出ると少女が倒れこんだ少年を抱き上げている。
少女が泣きながら正面に佇む武装した制服姿の男に声を荒げているようだった。
だが少女が何を叫んでいるのかは聞こえない。
男は目をつむり、歯を食いしばりただ少女の叫びを聞き入れているようだ。
少女は何を叫んでいるのだろう...
3人に近づこうとしてみる。
「高槻!」
その時、名前を呼ばれ耳を引っ張られる痛みに襲われて一気に覚醒する。
「コラ、高槻!あんたまたあたしの授業で寝やがって!」
女の教師が少年の名前を呼びながら耳を引っ張っていた
「イテテテテ!まり子先生それ体罰ッスよー!」
先ほど高槻と呼ばれた少年が反論する
「うるさい!高槻が毎回のようにあたしの授業で寝息立てるのが悪いんでしょうが!!!」
周囲の生徒から教師と少年のやり取りを見て笑いが起こる
「次の授業で寝たら反省文1000文字書かせるからね」
「うぇ~、それは勘弁してよまり子先生~」
「まったく...」
そうこうしているうちに授業の終わりを告げるチャイムが鳴る
「ああっ!まだ今日のノルマ全部終わってないのにぃ~」
教師はそう言いながらうなだれていく、そして生徒たちからは歓声が上がる
『イエーイ、今日の授業終わりー!』
『まり子先生、高槻の相手してくれてありがとーねー!』
「くうぅ...どおしていつもこうなるのぉ...」
教師は完全に落ち込んでしまったようだ
「もう...いいわ、続きは来週ね、ハァ...」
「先生そんなに落ち込むなよー」
先ほどの高槻と呼ばれた少年が教師に励ましの声をかける
すると教師は振り返り怒りの形相で
「...だぁ~れ~の~せ~い~だ~??」と一言。
「ひいっ!!」
女教師の怒りの様相に高槻は青ざめていた
『ごほん!池淵先生?』
「あっ...上原先生、すみませんすぐに出ますので...」
クラスの担任が他クラスの授業を終えて戻ってきていたのだった。
女教師は慌てた様子で教科書を教壇から片付ける
「来週の授業までにテキストの23ページの例題、宿題にするから忘れないでね!それじゃ!!」
女教師はそれだけ言ってそそくさと教室から退室していった。
生徒からは先ほどの歓声とは打って変わって悲鳴に近い叫びが上がっていた。
『なんだ~?お前ら、池淵先生の授業また妨害したのか~?』
担任がにやにやしながら聞いてきた
『先生、妨害したのは私たちじゃなくて高槻だよ、また寝てたんだよ~』
『なんだ高槻、寝不足か?だめだぞ最低でも6時間は寝ないと集中力持たないぞ』
「いやーしっかり寝たつもりなんですけど、ダメっすね。まり子先生の授業だけじゃなくてほかの授業も眠たいですから」
高槻は伏し目がちに答えた。
すると担任は
『俺の授業で寝たら漢検1級に出てくる難しい漢字書き取り10ページだからな』
さらりと恐ろしいことを言ってのけた
「...善処します」
精一杯引きつらないように笑顔を作ろうとしたが若干口元が緩んでいた。
『さあ、帰りのホームルームだ』
そう言って担任は帰りの連絡事項を伝えさっさと挨拶を済ませて教室を後にした
「和馬ー帰ろうぜー」
高槻のもとへ2人の男子生徒が近づいてきた
「俊哉、健吾、OK今行く」
「和馬いいなぁ、まり子ちゃんとがっつり絡めて」
健吾が軽口を言う
「絡めてって、俺怒られただけなんだけど」
「うるさい、しゃべってることに変わりはない!」
健吾はカバンで殴ってきた
「妬くなよ、俺は憂鬱なんだ。さっさと帰ろうぜ」
荷物をまとめて席を立った、すると、
「ちょっと和馬トイボックスでバイトでしょ!?」
1人の女子生徒が声をかけてきた
「晶...わかってるよ、着替え洗濯して持ってきてないから一回帰るんだよ」
「わかってるならなんで昨日のうちに準備しとかないのよ、一回帰るなんて時間の無駄じゃない」
晶は痛いところを突いてくる
「いろいろあるんだよ、じゃあ後でな」
「ギリギリじゃない、遅刻しちゃだめよ」
「わぁーったよ」
友人2人を引き連れて家路につく。
「晶ちゃん、相変わらず世話焼きだな」
俊哉がニヤニヤしながら茶化してくる
「まり子先生といい晶ちゃんといい、なんでお前のまわりはそんなに華やかなんだよ?」
健吾は相当悔しがっている様子だった
(俺は迷惑してるんだけどな...)
ふと池淵先生に引っ張られた耳をさわってみる
そして授業中に見た夢を思い出す
(そういえばあの夢時々見るけどなんなんだろう...)
睡眠中に見た夢は割とすぐに忘れてしまう
しかし連日のように同じ夢を見れば嫌でも覚えてしまう
しかし考えても答えは出ない
「…ぃ、おい和馬!」
俊哉に肩を揺さぶられて和馬は我に帰る
「…悪い、ちょっとボーッとしてたわ。」
「どうしたんだよ?最近のお前、なんか変だぞ?」
健吾にも心配される
「そうか?早めの夏バテかもな。」
和馬ははぐらかすような返事をする
そしてまたぼんやりと家路につくのであった