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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

洒落怖秘封霖【非公式】

作者: ND

【八尺様】


とある村から発症した噂


八尺ほどの身長の女性であり、男の低い声のような『ぽぽぽ・・・』が特徴的の笑い声を出し、


その女性に魅入られると、数日のうちに取り殺されてしまう。という


特に、成人前の男性が狙われやすい。










とある噂を手に入れた。


なんでも、八尺様が住んでいる村があるというのだ。


だが、奇妙な事にその八尺様は男性でなく


特に女性が狙われる事が多いのだという。


『きっと、男の八尺様なのよ』


蓮子が、得意気に僕に向かってそう言った。


『まぁ、確かに・・・八尺”様”であって、”娘”でも”男”でも無いから、有り得ない話ではない・・・』


『そそっ!つまり、美人の私たちに出会う確率が高い・・・って話?かな?』


蓮子が、はにかんで僕の顔を覗く。


何故、今僕は現代世界の中で女子大生二人に付き添っているのかと言うと、


この世界での僕の肩書きは、とある大学に通う一介の学生・・・という事になっている。


理由は、宇佐見蓮子、マエリベリー・ハーン(通称メリー)は、幻想郷を超える可能性を秘めている力を持っている・・・と、


胡散臭い紫の言葉から、強制的に監視を求められており、それに僕が選ばれたのだ。


決して燃料費の滞納で押し付けられたのではない。絶対にない。


『でも、男性の犠牲者も少なからず出てるって聞きますし・・・もしかしたら霖くんも可能性が・・・』


『大丈夫だって!霖くんは強いんだから!ね!?霖くん!』


いや、勝手に決められても


『・・・どちらにせよ、このバスはその村の近くまで向かっている・・・のだろう?ならばもう逃げ場は無い。危険が迫れば、それなりの力は出すさ』


『おっ!おっ!頼りになるね~霖くんは』


蓮子は凛凛と嬉しそうに僕の肩を叩いた


痛い。


ちょっと・・・叩きすぎだこいつは


『う~ン・・・本当に大丈夫なのかな?この村』


『大丈夫?だったら困るの!八尺様をビデオに収める事、それが私たちの使命なんだから!』


『八尺様に魅入られたら死ぬのだろう?ビデオに収めてどうするつもりだ?全校生徒に公開するのか?死者が激増だな』


『そうなったら、さすがに八尺様も忙しくて諦めるだろうから、それは視野に入れるつもりだよ~』


マジでか


こいつは大量殺人犯の素質があるのかもしれないな。


いやはや、サイコパスか?


どちらにせよ、普通の人間とは少しズレた考えをお持ちのようだ。


《次は~・・・せいうしによし~・・・せいうしによし~》


『あっ!もすぐ付くわよ!荷物持ちなさい!』


目的地が近づき、蓮子は嬉しそうに飛び上がった。


しかし・・・目的地の村も変な名前だ。


生牛二義村・・・など、バラバラに漢字を繋げたような


見るだけで気持ちの悪い名の村だ。この名の村には留まりたくないと、心の内でため息を吐いた。










【村の下宿所】


『うっわ~・・・・・・明らかに鎌倉っ!って感じだねぇ~・・・』


下宿所にたどり着いた僕たちは、玄関先で主人を待った。


家の中は、幻想郷の一般住民の住居よりも少しだけ大きいと言った感じの家だ。


悪くないと僕は感想を思ったが、彼女たちは少しだけゲンナリしていた。


『あっ携帯繋がらないよ~・・・』


携帯の電波が繋がらないと知ったメリーは、落胆するようにため息を吐いた。


『うわ本当だっ!バリゼロじゃん!』


蓮子も、それを見て驚きを隠せないでいた。


その声を聞いたのか、主人は奥の部屋から顔を出し、


僕たちを見つけて、笑顔でこちらに近づいてきた。


『おやおや、客人かい?いらっしゃい』


『ああ、どうも初めまして。僕たちは旅の者なのですが・・・』


『何?その時代劇の流浪人みたいな言い方』


蓮子がジト目で僕を見つめる


『旅の者?嬉しいねぇ。最近、この村に客人なんて来なかったから、困ってた所なんだよ。』


『ふーん?八尺様を見にここまで来る人とかで、結構居そうなんだけど・・・』


『ははは。まぁそれもそうなんだけどねぇ』


主人はおおらかな人であり、少しばかり態度の悪い蓮子に対しても笑顔で迎えていた。


『まぁここで話すのもなんだから、上がって上がって。』


『あっ!じゃぁ、おっじゃまっしまーす!』


蓮子は、その言葉を聞いて、靴を脱ぎ始め、そして上がっていった。


いつもよりテンションが高く、僕は少しばかりため息を吐いてしまった。


いそいそと、僕とメリーも靴を脱ぎ、床の上へと上がり、荷物を置いた。


『あっそうそうおじさん!八尺様について教えてよ!』


荷物を置いてくつろいだ蓮子は、凛凛とした顔で主人を見る。


主人は、多少苦笑いをしてその質問に答えた。


『はは・・・。まぁ、今やそれだけが、この村の取り柄になっているからねぇ・・・』


皮肉混じりの声で、主人はそう呟いた。


『そうだよ・・・。この村は、八尺様が居るんだ。』


そう言って、奥の部屋へと向かって歩き出した。


『男の子も女の子も、たくさんの人が八尺様に魅入られて取り殺されてしまった。』


『おお・・・・・・・・・』


『わしらもなんとかしようと努力をした。そのおかげで、今は八尺様に魅入られても無事でいられる方法を思いついた。』


無事でいられる方法?


『へぇー。それ何?』


『村の奥にある、蔵の中に一晩閉じ込めるんだ。そして朝が来て、連れて行かれてなかったら、私たちの勝ち。蔵の中が蛻の空だったら、私たちの負けって事さ。』


主人は、笑顔でその話を話していた。


『実際、助かった人は今どこに?』


『さぁ・・・どこに居るんだろうねぇ。それは私たちは分からないよ。はははは』


やけに上機嫌の主人は、奥の部屋へと入っていった。


『・・・なんだか、嬉しそうだね。あの人』


『久しぶりのお客さんだからじゃない?それよりも、今日の夜、捜索よ』


『・・・・・・明日じゃないのかい?今日はもう遅いよ』


『遅いからこそ!今日なのよ!文句言うなら縄で縛り付けてでも連れて行くわよ!』


なるほど、僕に是非は無いのか。


『でもその前に・・・』


蓮子の腹の音が鳴った。


その後すぐに、メリーの腹の音が鳴った。


メリーの顔は、赤く染まっていた


『・・・・・・・・・まずはご飯食べないとね。』







十分後、主人がご飯を作り持ってきた。


『んっっまぁぁぁぁぁい!!なにこれ!すっごい美味しい!』


出されたのは、何の変哲もない豚汁、白米、生姜焼きだった。


『本当・・・こんなの初めて・・・ほっぺたが落ちそうです・・・』


料理の美味さに感激し、二人は急ぐように飯を食べていた。


『・・・・・・・・・』


僕は、この世界でも飯は食べなくても生きていけるため


そこまで食欲は湧かなかった。


肉料理も、せめて酒があればなぁ・・・と思い、今はまだ見つめているだけだ。


そもそも、生姜の匂いはそこまで好ましくない。


『あれ?霖くんいらないの?もらい!』


『あ』


そうもたもたしているうちに、蓮子に生姜焼きを取られた。


『おい、勝手に・・・』


そんな事しているうちに、メリーは僕の豚汁に手を出していた。


『・・・・・・・・・・・・』


結局、今日の僕の晩御飯は白米だけだった。











【村の中心部】


『よーし皆!今から八尺様を見つけるわよー!!』


そう、大声をあげて蓮子は意気込んだ。


『おー!』


『おー・・・』


『おっおー!』


『ちょっと霖くん!返事が小さい!』


うるさい


勝手に僕のおかずを取ったくせに


『・・・・・・まぁ良いわ。まずは聞き込みからよ!』


聞き込み?


『むやみに探すのでは無いのか?』


『そんなの効率悪いじゃない。ある程度、情報を取っても損は無い!』


なるほどな。


それは”一般人”か”場所”を探すときに用いる捜索方法だ。


”妖怪”を”現代社会”で探すとなると、ほとんど意味の無いように思えるが


その事を、おかずを取ったこいつらに教える義務は無く、言わない事にした。










そしてある程度聞き込みを始めたところ、


『ああ、確かに現れるって聞くね。どこら辺に現れるかって言われても・・・分かんないけど』


『八尺様?ああ。確かに見かけるとは言われるねぇ。前に俺も見たことあるし。まぁ頑張ってね』


『おお。お前らも八尺様を見つける為に来たのか。懐かしいなぁ。本当に背が高いんだぜ。期待してるぜ』


ほとんど、”頑張れ”とか”見かけると聞いた”くらいしか情報が無く、意味が無かった。


それはそうだ。当たり前だ。


うんざりしながら、僕は花壇に座った。


本当に現れるのか分からない。


現れないかもしれない。


出てくるはずがない。と


そんな事を考えて、ため息を吐いた。


しかし、どうにもこの村に来てから違和感がある。


問題は、何も無い。


そう、何も妖気を感じないのだ。


もしかしたら八尺様は


幽霊か、それとも人間なのか?


いや、八尺もある人間が存在するはずない。と


自分に言い聞かせても、この現状が混乱するだけだ。


この村には、何かがあるのだろうか。


八尺様は、何者なのだろうか。


『・・・・・・・・・・・・』


そんな事考える内に、目の前に少女が居た。


その少女は、年齢的に言えば魔理沙くらいの年だろうか。


容姿も、目の色もどこか、魔理沙に似ていた。


じっと、僕の姿を見つめていた。


『・・・・・・どうかしたのかい?』


そう言った瞬間、少女は僕にめがけて石を投げつけた


『痛っ!』


いきなり起こった理不尽に、僕は怒りと焦りを出すことも忘れて、呆然と少女を見つめていた。


『出てけ』


少女は、辛辣に、そして冷たくそう言い放った


『・・・・・・・・・はぁ?』


『今すぐ出てけ』


『・・・・・・・・・』


どうやら、僕たちは嫌われたらしい。


僕はため息をつきながら、少女の言葉に反論した。


『・・・・・・悪いけど、僕たちは八尺様を探しに来たんだ。不本意ながらも、それを見つけないと連れが騒ぐのでね・・・』


『この村に八尺様は居ない』


・・・・・・・・・本当にこの子は


実のところ、本当に八尺様がいないのなら良いのだが、


目撃談が多発するこの村の中では、少女の言葉は嘘にしか聞こえない。


『そうか、・・・ならば帰りたいところなんだが・・・』


『・・・・・・・・・・・・』


少女は、表情を変えずに


すたこさらと、僕に背を向けて走り出した


『・・・・・・・・・何なんだ?』


少女の姿が見えなくなるとともに、少女の言葉について考え始めた。


《この村に八尺様は居ない》


確かに、この世界は幻想郷ではなく現代社会であり、


妖怪幽霊などはオカルトという類に含まれ、ほとんどの者は信憑も糞の無い扱いだ。


クトゥルフ神話でもあるまいし、そう簡単に幽霊や妖怪が現れることが約束されてるわけでもない。


だが、


”八尺様が居ると言われる原因”はどこかしら存在する筈なのだ。


その原因の片鱗でも見つけない限り、僕も帰るつもりはない。


そんな事を考えてるうちに、目の前に少女二人が居た。


蓮子とメリーが、眉間に皺を寄せてジト目で僕を睨みつけてる。


『コンニャロー!霖之助ー!!』


『ぎゃー!』


『一人だけサボリやがって!コンチクショー!!』


僕は彼女二人に頭グリグリ攻撃を喰らわれた。


結局今日は、何の収穫も無かった。










【村の中心部】


翌日


美味な朝食を食べ終えた僕たちは、村の外へ再び探検に行った。


蓮子が言うには、八尺様は夜だけでなく昼の目撃談も存在するのだという。


『というわけで、今日もビデオカメラを持って捜索開始!』


そう言って蓮子は元気よく、村の中へと飛び出した。


いや本当に元気が良い。


勢い余って田んぼに両足突っ込んでいた。


『ぎゃーす!!』


足が泥だらけだ。





結局蓮子は、靴下と靴を水で洗い、今日一日は草履で過ごすことになった。


『うへぇ・・・カッコ悪~い・・・』


『わがままを言うな。お前が悪い』


僕がそう蓮子に言うと、蓮子は僕を睨みつけて、クスクスと笑った。


『おやぁ?霖くんは私のような美脚に興味があるのかい?』


『・・・・・・・・・・・・』


どうやら、自然と彼女の足を見つめていたようだ。


『ほう、まずは足についた泥を全部落としてから言うんだな』


『ぶー!!』


そう返すと、蓮子の顔は膨れて不機嫌な表情となった。


さて、調査を開始しよう。


僕は彼女たちと違って、八尺様の”証拠”なのだが。


本当に八尺様が居るとは考えられない。


し、


『くっそー!どこにいやがんのよ八尺の人間ー!!!』


調査から一時間後、早くも蓮子は駄々をこね始めた


正直に言って、実際に八尺の身長を持つ人間が居るとは考えづらい。


もっと別の焦点を見るべきだと言いたかったが、彼女がそんな事聞くかどうかは分かっていたので聞かないことにした。


『痛っ!!』


突然、頭に石が当たった


『だっ大丈夫!?霖くん!?』


石を投げられた方向を見た。


昨日のあの子だ。


『・・・・・・・・・・・・』


今度は、蓮子の方をじっと見ている。


『お~ま~え~かぁ~!!霖くんに石を投げつけたのはー!!』


怒りの表情を少女に見せていた。


正直大人気ないと思っていたが、少女は眉一つ動かさずただ見つめていた。


『出てけ』


『・・・・・・ああん?』


予想通りの展開と、


予想通りの蓮子の返事だった。


『・・・ほっほーう。この淋しい村にわざわざ来てあげた客に対して随分、偉そうないい口ねぇ~?』


『お前の方が偉そうだぞ』


『シャラップ!霖!』


ダメだ。こいつ頭に血が上りかけている。


『とにかく!私は八尺様を一目見るまでは出て行かないわよ!!アンタが何を言おうとね!!!』


一目見ても帰らないつもりだな。


『・・・・・・・・・っ』


次に、石を拾い、蓮子に投げつけた


『出て行け!!』


そして、その石がどこまで飛んでいくのか見送ることもなく、すぐさま退散した。


『きゃっ!』


その石は、蓮子に当たらず後ろの田んぼに落ちていった。


『こっ・・・このクソガキィイイイ!!!』


完全に頭に血が上った蓮子は、少女に向かって手を広げて追いかけようとした。


だが、僕はそれを許さず、蓮子の肩を掴んだ。


『ぐあっ!何するのよ!』


『今は八尺様を探すんじゃなかったのか?』


『今はあのガキを追いかける!』


『良いから落ち着け。』


僕は、蓮子の頭に軽くチョップした。


『あひん』


『そんなに取り乱してたら、八尺の人間も見落とすだろう。ちゃんと前を見据えて歩いた方が良いぞ』


そう説教すると、蓮子は頬を赤らめて僕を睨みつけた


『・・・・・・霖くんの癖に正論なんて・・・生意気よ』


『正論ではなく、ただの忠告だがね。』


そう言って、僕は蓮子から離れて自分なりの捜索を始めた。


『ちょっとどこ行くのよ』


『分かれて探す方が早いのだろう?ならば二手に分かれる方が得策なのではないか?』


メリーは、とっくにその方法を取って、今はどこか遠くで探している。


・・・・・・正直少しだけ不安だが


『・・・かよわい女の子が一緒にいてあげても良いと思ってるのよ?二人っきりよ?なんにも思わないの?』


『どこにかよわい女の子が居るどこに』


瞬間、駆け足が後ろからどんどん近づき


ドロップキックの衝撃が僕の背に直撃した


『モルスァ!』


吹っ飛ばされ、顔面を地に叩きつけられ


『ふんだ!』


不機嫌となった蓮子は、僕からズカズカと離れていった。












【大井戸広場】



とりあえず僕は、少女を探すことにした。


どうして、僕たちに”出て行け”と言うのか、気になったからだ。


僕たちの何が気に入らないか。


もしくは、ただよそ者が嫌いなだけか


それが分からず、気持ち悪いだけかもしれない。


が、一番に考えているいことは


『あの娘は何か知っているかもしれない』


という、希望だった。


逃げた方向を追うと、少女はこの先に逃げたはずだ。


向かった先に、少女は確かにいた。


『・・・・・・』


井戸に座り、たまにチラリと井戸の中を見ながら


感慨深く、少女はうつむいていた。


『・・・井戸に、何かあるのか?』


僕がそう質問すると、少女はビクリッと動物のように反応した。


『・・・・・・まだ出て行ってなかったの?』


『彼女を怒らせたせいで、益々村から出るに出れなくなった。』


そう告げると、少女は『あっそ』と興味なさそうに答えた。


『・・・・・・どうして、僕たちを追い出そうとしているんだい?』


そう質問すると、少女はうつむきながら


『・・・・・・』


何も、答えなかった


困ったな、まだ心が開けてないか


僕は、少女と顔と同じ高さに顔を見せるように座り込んだ。


『僕たちはそんなに怖い人間じゃない。何も取って食おうとはしないさ。』


『・・・・・・』


少女は、何も答えない


『・・・そうだ、自己紹介をしよう。僕の名前は森近霖之助。君は?』


『・・・・・・』


やはり、何も答えない


『それとも、よそ者に何か不安な事でもあるのかい?』


『あるよ』


少女は、即答した


『ある。すごくある』


少女は、必死に何か答えたいように僕の目を見てそう言った。


『・・・・・・・・・・・・』


僕は、少女の目を見ながら


『そうか。』と返答した。


『それは、僕たちに言える理由かい?』


『・・・・・・・・・』


少女は黙って首を横に振った。


どうやら、言えない理由のようだ。


話題を変えよう。


『・・・君は、この村の外を見たことがあるかい?』


そう質問すると、少女は


目の色を変えて答えた。


『ある!』


それは、とても嬉しそうな目だったが、


はっとしたように、すぐに元に戻り、無表情のままとなった。


『・・・・・・・・・そうか。』


僕は、できる限りの事、知っている範囲の事を彼女に教え


僕も興味を持っている話題を取り上げながら、話し合ったりした。


少女は興味を持ち、次第に僕に質問をしたり、自分の考察や見解を教え合ったりした。


この年齢の少女には難しい話題だったかもしれないが、


次第に少女の表情は柔らかくなり、笑顔になった。


『やっと笑ったね』


僕もそう微笑み返すと、少女の顔は真っ赤になった。


『うっ・・・うぅ~・・・・・・』


うつむき、顔を隠していた。


そして、どこか切なく悲しい表情になった。


『・・・・・・それでも、やっぱり僕たちは出て行った方が良いかい?』


『うん。出て行って』


即答だった。


まだ、僕たちを警戒しているのか、


それとも、


『僕たちが、殺されないために?』


八尺様に、出会えないようにするために?


僕がそう言うと、少女は


コクリと、頷いた。


『・・・・・・じゃぁ、やっぱり八尺様はいるんだね?』


『・・・・・・・・・居ない』


少女は、しばらく間を置いて答えた


『じゃぁ、僕たちはどうして・・・』


『居ない。居ない!居ない!!!居ないったら居ないの!!!』


そして、再び石を拾って僕に見せつけた。


『出てって!出てってよ!!早くこの村から!早く!!!!』


少女は、石を持って僕に見せつけていたが


『・・・・・・・・・・・・』


結局、僕に投げつけるという事はしなかった


『麻耶!!』


そして、少女の母親らしい人物がかけより


少女を捕まえるなり、ビンタをした。


『馬鹿!またお客さんに石を投げつけて!!出て行けなんて・・・何考えてるの!!』


そしてその女性は、僕の顔を見るなり笑顔になった。


『ごめんなさいね。この子、人見知りが強くて・・・ほら、行くわよ麻耶』


『・・・・・・・・・・・・・・・』


麻耶という少女は、その女性に対しての恐怖と、悲しみの表情をしながら、僕を見つめていた。


『・・・・・・霖之助・・・』


声が、怯えと切なさで震えていた。


八尺様


この村の八尺様には、一体どのような秘密があるのだろうか。


その存在は、この少女をここまで恐怖に陥れるものなのだろうか。


『きゃぁぁああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!』


瞬間、メリーの絶叫が村に響いた。


『・・・・・・!』


僕は、気づいたら叫び声のする方向へと走っていた。


メリーの身に何かがあったのだ。


それが確実だとわかった僕は、全力を上げて走り続けた。







【村長の家付近】


『メリー!どうしたの!?ねぇ、どうしたの!?』


蓮子は、メリーにしがみついて必死に声をかけている


だが、メリーは恐怖に震え、口をパクパクしているだけだった。


『は・・・・・・はは・・・・・・』


手にはビデオカメラ。


まだ、録画中のボタン表示があった。


『はち・・・・・・八尺・・・の・・・』


『八尺・・・・・・八尺様?』


蓮子は、すぐさま聞き返す。


すると、メリーは猛烈に首を縦に振った。


『背が・・・背が高くて・・・・・・顔・・・顔は・・・・・・・・・』


メリーの叫び声を聞いた村人は、すぐにここに向かってきていた。


『どうした!?おいどうしたんだ!?』


『八尺様よ!八尺様が出たんだわ!!』


蓮子は、必死に状況説明をしている。


すると、村人は


『分かった、ではすぐに蔵へと運ぼう』


と言って、メリーの腕を担ぎ、歩き始めた。


『待って!』


蓮子は、メリーに近づき


ビデオカメラを、剥ぎ取った。


『・・・・・・メリー。大丈夫?』


顔面が蒼白なメリーは、よほど恐ろしい者を見たのだろう。


狂っていると言っても良いほど、ガタガタと震えていて、表情が引きつっている。


『おい』


『ん?』


『蔵で・・・・・・蔵で何をするつもりだ?』


そう質問すると、村人は表情を一つ変えずに答えた


『一晩中、蔵の中に閉じ込めるんだ。八尺様が諦めるまでな。明日、陽が昇るまではかかるだろう。』


その言葉は、一つ一つ


まるで、慣れているような口ぶりだった。


『・・・以前にも何度か、目撃されてたりするのですか?』


『ああ。まぁな。』


そう言って、村人はメリーを担いで蔵まで連れて行った。








【蔵】


その蔵に近づいたとき、異臭に気づいた


『・・・・・・・・・っ!!』


妙な匂いがする。


個人的に、強烈な嫌悪感を催す悪臭だった。


『うっ・・・・・・』


蓮子も、同じように嫌悪感を感じたようだ。


本当に、この中にメリーを一晩も置いといて大丈夫だろうか。


膨大な不安を装いながらも、僕たちは


今は昼時だというのに、真っ暗な蔵の中へと連れて行かれるメリーを見送った。











【村の下宿所】


メリーの持っていたビデオカメラは、


今、俺たちの手の中にある。


『一体、何が映ってたんだ?』


メリーが”見た”という八尺様


それを、今僕たちが鑑賞しようとしている。


彼女が”見た”という八尺様


恐らく、今の心情は蓮子と僕とは違うだろう。


蓮子は恐らく、純粋に八尺様の有無を確認したいだけであり、


僕は、麻耶の言っていた言葉の全てが引っかかり、


何かの手がかりを見つけるみたいな心情だ。


『ここら辺・・・だよな』


そして、ついにビデオカメラの映像は


メリーが倒れていた”村長の家の付近”を映した。


『ここから・・・だよね・・・・・・』


そして、メリーが倒れた場所


そこの場所へと、移動し、向かおうとしたとき


『!』


長い髪の毛が、カメラの端に撮された。


メリーはその瞬間を見逃さず、すぐさまカメラを髪の毛の方へと向けた。


そこには、


『八尺・・・・・・・・・』


背が異様に高い女性


関節がおかしい女性


明らかに、人間の形をしていない女性


顔が、髪の毛で見えない女性


メリーは、髪の毛の向こうの顔を見たのかもしれないが。


『ひっ・・・!』


その不気味さに、蓮子は少したじろってしまった。


『!』


次に、ビデオカメラから絶叫が流れた。


メリーの叫び声だった。


次に、ビデオカメラと共に尻餅したためか、軽い衝撃と共に一瞬砂嵐となった。


メリーが恐怖で喘ぐ声が、次に淡々と流れる。


駆け足が近づく。僕か蓮子が駆け寄った時の足音だろう。


『・・・・・・・・・・・・』


恐怖というのは、不思議と感じられなかった。


むしろ、この異様な女性に妙な興味を持った。


おかしい。確かにおかしい。


おかしいのだが、


何かが・・・・・・格段におかしい。


もう一度巻き戻しをして、その女を見てみた。


人間の形をしていない。まるで無機物のようだ。


人間でも、妖怪でも無い。物体


これが、八尺様なのだろうか。


『顔は・・・どうやっても見えないのだろうか・・・』


髪の毛と影で、顔は真っ暗である。


PCで光加工でもすれば、少しは見れるだろうが、


この村にはおそらく、いや絶対にそういった機械類は存在しないだろう。


まいった。


一度・・・メリーを連れて村から出て行くべきか


『・・・・・・・・・』


先ほどから、蓮子が大人しくなっている。


『・・・どうした?念願の八尺様を映像に捉えたのだぞ』


『・・・・・・・・・』


顔面が蒼白である。


俯いたまま、震えた声で僕に問いかけた。


『私たち・・・・・・取り返しのつかない事をしたのかな・・・』


『・・・・・・ここまで連れてきたのは君だろう。』


本当に、八尺様を見つける事を心まで願ってなかったからなのか、


それとも、後になって自分のやった愚かさが後ろめたくなったのだろうか、


蓮子は、分かり易い程にも怯えていた。


『・・・・・・・・・霖くん』


蓮子は、黙って僕のとなりに移動し


そして、僕の手を握った。


『・・・・・・メリー・・・大丈夫かな?』


僕の手を握ったその手は、


汗で濡れていた。


『・・・・・・・・・』


大丈夫


なのか?


あの、八尺様を見る限り


多くの疑問がよりかかる。


その疑問を考えれば考えるほど


このままでは、良くない気がする


『・・・・・・見に行ってみるか?』


そう言って、僕は蓮子に尋ねると


『近くに、八尺様が居るかもしれないのに?』


『居るかもしれないのにだ』


僕がそう言うと、蓮子は考え


そして、僕の目を見て


『・・・・・・・・・』


ただ、黙ったまま、迷っていた。


蓮子が迷っているうちに、



カンカンカンカンカンカンカンカン!!!!!!!!!


と、音が聞こえた


『火事だ!蔵が火事だ!!!!』


『!?』


蔵が火事


確かに今、外の者たちはそう言った。


『行くぞ蓮子!!』


僕は蓮子の手を握って


下宿所を飛び出し


メリーが閉じ込められた蔵まで駆け抜けた







【蔵】


『・・・・・・!』


蔵は、火で燃え広がっていた。


それは、火という文字で収まるものではない。


業火と言えば、納得できるほどの巨大な炎だった。


『メリー・・・メリー!!!!』


蓮子が、必死の形相で業火の中に居るであろうメリーに向かって叫んだ。


『蓮子!』


そして、業火の中に飛び込もうとして駆け抜けると、


『!』


巨大な炎が吠えるように、蓮子を襲いかかろうとした


『嫌・・・嫌ぁぁああああ!!!』


『・・・っ!!』


僕は、傍にあったバケツを取り出して


それを自分にかけて、火の中に飛び込んだ


『霖之助ぇええええ!!!!』


蓮子が後ろで叫んでいる。だが、今は返事をする余裕は無い。


『メリー!どこだ!返事をしろ!』


燃える瓦礫を蹴飛ばし退かしながら、彼女の姿を探した。


だが、叫んでも叫んでも、業火の悲鳴にかき消されてしまう。


『メリー!!おい・・・メリー!!』


返事が無い。


いや、返事が聞こえないのか


『・・・・・・ぅぅ・・・』


『!』


彼女の呻き声が聞こえた。


僕は彼女の近くにまでいたのだ。


『メリー?』


そして、彼女の姿を見つける事ができた。


彼女は、下半身が燃える瓦礫の下敷きになっていた。


『・・・・・・!!』


僕は、すぐさま瓦礫を掴んだ


『ぐぐっ・・・ぐぅっ・・・・・・!!』


燃える瓦礫は、僕の手のひらの皮膚を焦がした。


火事場の馬鹿力だろうか、手のひらの皮膚を犠牲にした結果


瓦礫をメリーから引き剥がすことができた。


『大丈夫か?』


『・・・・・・うう・・・・・・り・・・りん・・・くん・・・・・・』


メリーは、泣きながら僕を見つめた。


脚を見てみると、青黒く晴れていた。


これでは、歩くことが出来ないだろう。


『・・・・・・・・・っ』


僕は、すぐさまに彼女を担いだ。


手のひらの皮膚がほとんど無くなっているからか、メリーの脚に血をつけてしまった。







『蓮子!!』


火の中から脱出すると、ビショビショの蓮子が目の前にいた


『霖之助・・・霖之助ぇ!』


蓮子は、涙で顔を歪ませながら、僕に抱きついた。


『今は早く行こう!どこか近くで手当てを・・・!』


その時


《ぽぽぽ・・・ぽぽ・・・》


声がした。


いや、音だろうか。


酷く低く、何者かの声かどうかは耳だけでは認識できなかったが、


それが、【見てはならない者】だということは、すぐに分かった。


『振り向くな・・・・・・逃げるぞ・・・・・・』


僕は、メリーを担いだまま逃げることができるだろうか。


蓮子は、ちゃんと逃げ切れるだろうか。


そんな事しか、考えられなかったが、


無意識に、そして大きく考えたのは


【捕まったら終わり】だという事だ。


『ああ・・・ああああああああああ』


蓮子は、僕にしがみつきながら、僕と同じ幅で走った。


これでは走りづらい。


『蓮子、離れてくれ・・・。でないと・・・』


『嫌・・・嫌・・・!!』


蓮子は、更に怯えていた。


当然だろう、後ろに異常な物体がいるのだ。


怯えないわけがない。


とにかく、今はこの村から逃げよう。


逃げて、逃げて、逃げて、早く逃げて


『逃げて!!!』


少女の声が聞こえた。


横に、麻耶が僕たちと共に駆け抜けていたのだ。


『麻耶・・・』


僕が、彼女を見て思ったことは、


”どうして彼女がここに居たという事か”


だ。


『村の出口・・・そこまで走って!』


メリーを担ぎ、怯えてる蓮子にしがみつかれて走る僕たちよりも、


麻耶の方が、足が早かった。


『霖之助・・・』


蓮子は、僕から離れようとしない。


僕を置いて、メリーを置いて逃げようとしない。


僕を頼りにしているのか、それともしがみつく所が欲しいのか


『おーい!!』


村人たちの声が聞こえた。


『何してる!!早くこっちに戻れ!!』


村人たちは、必死の声で僕たちにそう叫んだ。


振り向くと、僕は


見えた



八尺ほどの身長の、不気味な女性の顔が



『・・・・・・・・・・・・っ!!!』


妖気は感じない。


力は感じない。


だが、なぜだろうか。


僕の防衛本能が、『逃げろ』と言って聞かないのだ。


やばい。


あれは、やばい。


直感で、何か得体のしれない何かを感じた。


顔は


あの顔は






『こっち!!』


僕は、逃げた


メリーを担ぎながらも、手のひらの痛みに耐えながらも


ただ、がむしゃらに走り続けた。


《ぽぽぽ・・・ぽぽぽぽぽぽぽ》


後ろで、八尺様が追いかけてくる


『戻ってこい!!取り殺されるぞ!!!』


村人が、昼の時とは考えられないくらい、


余裕が無い。そしてかなり必死な様子で叫んでいる。


《ぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽ》


『おい!!戻ってこいって言ってるだろうが!!おいっ!!!!』


《ぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽ》


『お前ら三人、もう魅入られてるんだ!!!!』


ぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽ



早くこっちに来い取り殺されるぞ八尺様はもうお前らを魅入ったんだ今ならまだ早いこっちに来るんだ死にたくないだろおい待てよ待て止まれ止まれよああああああああ止まれ殺されるぞ止まれ止まれよあああああああああ早く死んでしまうぞ止めろ村から出るんじゃない逃げるなおい逃げるなよ八尺様は追いかけてくるぞずっと追いかけてくるぞああああああああああああ



『嫌ぁああああああああああ!!!』


蓮子が叫ぶ


メリーが苦しみで喘ぐ


まだか


まだ、後ろは追いかけてくるのか


『振り向かないで!走って!!』


今や、麻耶の言葉しか耳に入らない。


麻耶の言う通りで本当に良いのだろうか。と疑問に思いながら


僕たちは、村の外まで逃げた。


逃げた。逃げ続けた


後ろで村人が追いかけてくる八尺様が追いかけてくる僕たちを求めて追いかけてくる


僕は。もう一度八尺様の顔を確認するために、振り向く





やっぱり、それは・・・生きた人間の顔では無かった。







【村の外れ】


気がつけば、もう誰も追いかけてきてなかった。


一面、ずっと田んぼが見える光景


もう麻耶も居ない。


必死で走り、走り抜けて、たどり着いた出口で


『また、会おうね』と言われたきり・・・別れたままだ。


その時の麻耶の笑顔は、どこか切なさ気を感じた。


見上げた時に見えた空は、憎い程に星空が綺麗だった。


『・・・・・・・・・・・・』


僕たちの間に、会話はない。


一度、メリーは状況を確認をするために、後ろを振り向いたのだという。


その時、酷い村人の形相と、八尺様の姿を見て・・・気絶してしまった。


蓮子は息切れと言った感じだった。


恐怖と隣り合わせだったからか、息遣いが荒い。


涙のしゃっくり声も混じりに聞こえる。


『・・・・・・あ』


蓮子は、思い出したように顔を上げた


『・・・カバン、村に置いてきちゃった・・・』


『・・・・・・・・・・・・』


当然、戻るつもりはなかった。


今戻ったら、確実に取り返しのつかない”何か”を奪われるだろう。


『・・・・・・霖くん・・・』


しばらく大人しくなったと思ったら、


また、僕に声をかけてきた。


『まだ・・・・・・オカルト研究部で居てくれる・・・よね・・・?』


『・・・・・・・・・』


僕は、呆れてしまった。


それは、こっちのセリフだと。


今回の事で、僕たちは”死”と隣合わせとなったのだ。


蓮子は、今回の事でオカルトの本当の恐怖を知り、身を退くと思っていたのだが


『今回は・・・確かに怖かったよ?トラウマにもなりそうだし・・・。いや、なってるし・・・。でもね、私・・・この研究部は・・・』


泣きながら、僕に訴えるように言っていた。


『・・・・・・ごめん。ごめんね・・・霖くん・・・』


最後に、蓮子は謝った。


『・・・僕は、辞めるつもりはないよ。』


少なくとも、僕は君たちの監視を任せられている。


何があっても、辞めるワケには行かないのだ。


『まだ、気になることがあるからね』


そう、僕は彼女に言った。









その後、30分程歩いてようやく宿屋を見つけ


そこで電話を借り、救急車を呼んでもらった。


携帯は、使えないと知ったとたん直ぐにカバンに入れてしまったから、無いのだという。


10分程して僕とメリーは病院に運ばれ


一旦治療を受けたあと、家路についた。








三日後


『さて、三日前に行ったあの村の話なのだが』


僕は、早速あの話題を部室の中で持ち出した。


『ああ。あの八尺様のね。あの映像を友達に見せたら、泣くほど怯えてたわ。』


蓮子はすっかり治っていた。若干余裕が見える。


メリーは、あの村の話を聞いた途端、落ち込んでしまった。申し訳ない。


『その八尺様については謎がまだあるが、一つだけわかったことがある。』


『・・・・・・なによ、分かったことって』


『顔だ』


顔と聞いた瞬間、メリーは小さな悲鳴を上げた。


僕はPCを立ち上げ、光加工したビデオカメラの映像を見せた。


『・・・・・・ん?何これ顔・・・・・・妙な形してる・・・』


『君は、怯えて八尺様の顔を見なかったから分からないが、』


『うぅっ』


僕は、この八尺様の顔を指差して答えた


『僕が見たとき、この顔には目と鼻が無い。』


『・・・・・・・・・』


『当然、髪の毛の凹凸具合から耳も無いとわかる。』


『・・・妖怪だから、ある程度は人間離れしても可笑しくないんじゃないの?』


『いや、そうとも限らない』


そもそも、僕はそんな妖怪を見たことがない。


妖気も全く感じなかったが、それを言うとややこしくなるので、言わないでおこう。


『それに、逃げるときには八尺様は、村人と共に僕たちを追いかけていた。』


『そりゃぁ理由は違えど、どっちも私たち追いかける側なんだから当然じゃないの?』


『そうじゃない。”どっちも同じ方向から僕たちを追いかけていたのだ。”』


そう言うと、メリーは顔を上げて僕の顔を見た。


『どうして村人たちは、八尺様が見えなかったのか分からないか?』


『そりゃぁ・・・魅入られて無いからじゃないの?』


『いや、”見えなくてはおかしかった。”それは間違いない』


蓮子は、僕の言っている事が分からないようだ。首をかしげている。


『聞き込みをしてる最中、村人のほとんどは”八尺様を見たことがある”ような返事をしたんだ。』


『・・・・・・除霊とか、蔵の中に閉じ込められたりとか・・・したんじゃないの?』


『いや、それはそれで”何故、すぐ近くに居る八尺様から逃げないのか”という疑問が生じる。』


メリーは、ちょっと控えめに手を上げた。


『どうしたの?メリー』


『あの・・・私も気になることがあるんですけど・・・』


メリーは、そう言って僕たちに意見を出す


『私・・・蔵の中に居る時に、あのぽぽぽ・・・って声と、包丁が研がれる音・・・生臭い匂いがしたんです。』


『八尺様が・・・待ち受けていたのね』


『だけど・・・村から離れたとたん・・・今の今まで、八尺様の姿は見かけないし、現れもしないんです。』


『つまり、八尺様はあの村から離れられないという事か。』


そしてもう一つ


気になることは、たくさんある。


蔵のあの異様な匂い


麻耶が気にしていた井戸の中


そして


『あの少女は・・・一体何を知っていたのだろうか。』


火事の原因は、おそらく


『あ・・・。そういえば火事になる前、あの子がマッチを持って何本も擦って火をつけていました・・・。』


『何がしたかったんだろ・・・』


そうだ。まだ疑問だらけだ。


あの謎は、まだ全て終わっていない。








【バス】


後日、ある程度の武器と除霊グッズを持って


僕たちは、あの村へと向かった。


提案したのは蓮子だった。


あの村は、噂によると廃村になったのだという。


ならば、あの村の謎を解明する為にもう一度向かおうと言ったのだ。


・・・・・・その提案者は、今や胃腸炎でお休みなのだが。


せめてビデオカメラで映像を収めて、謎を解明だけでもさせてやろう。


正直、僕も興味があったからだ。


なので、もう一度・・・僕たちはあの村へと向かっている。


『・・・・・・・・・』


メリーは、ぎゅっと僕の腕にしがみついている。


『・・・足は、大丈夫か?』


『あ・・・はい。もうあんまり痛みません・・。』


僕の手のひらも、大分治ってきている。


半妖だからか、治癒力が高いのだろう。


しかし、メリーは足の怪我よりも心の傷の方が治癒されていないのではないだろうか。


あの恐ろしい体験をもう一度繰り返すかもしれないのだ。


今度こそ、心が壊れてもおかしくない。


あの村にはまだ、八尺様はいるのだろうか。














【廃村】


そこには、もう人の気配すら存在しなかった。


薄気味悪いほど、静かな光景だった。


樹が風に囁かれる音が、聞こえてくるほどだ。


田んぼは焼かれ


作物には虫がたかり


本当に幽霊という物が現れてもおかしくない状態だと言うことは理解した。


『不気味だ。凄く不気味だ』


僕がそうつぶやくと、メリーはより一層、僕の腕を掴む力が強くなった。


そして歩いていくうちに、一番大きな家を見つけた。


村長の家


思えば、この家で最初・・・八尺様を見かけたのだ。


蔵も、村長の家に近い。


僕たちは、この家の中に何かがあると踏んで、中に入ってみた。







【村長の家】


家の中は、そのままのように思えた。


家具もあるし、置物も残っている。


まるで、まだそこに人が住んでいるかのようだった。


だが、蛇口には針金が巻きつけられ


風呂場にはカビが発生していた。


『人は住んでいないな・・・』


その不摂生な環境を見て、そう解釈をした。


ある程度の部屋を探したところ、残る部屋はあとひとつとなった。






【?の部屋】


そこは、具体的には何をする部屋なのかは分からない。


が、この村には似合わない、ブラウン管テレビとビデオカメラ、そして一本のビデオテープが床に落ちていた。


ビデオテープのラベルには、日にち


それぞれ、バラバラな日にちが書かれていた。


『・・・・・・何か、村のイベントの何かを写したもの・・・だろうか』


これは、最後に見ることとしよう。


次に、気になるところは


押入れ


どこか、異様な雰囲気を漂わせている。


僕は、押入れの取っ手に手をかけて、ゆっくりと


ゆっくりと、扉を開けた。


すると、そこに


八尺様が、押し入れに居た


『!』


『ひぃいい!!』


何故、こいつが押し入れに入っている


押し入れの中で、じっと僕を見つめている


そう思って、よく観察すると


それは・・・人形だった。


『人形・・・・・・だな・・・』


頭には、長い髪の毛と仮面がつけられている。


その仮面というのが、


『これは・・・・・・人間の皮か・・・』


『えっ・・・』


よくみれば、手も人間の皮を用いられている。


人間の顔の皮を用いられたであろう仮面は、最悪なほどに不気味さを帯びていた。


『・・・・・・』


一体、何のために


何のために、こんな事を


何故、八尺様として騙すため、こんな事を


この村は、何を行っていたのだ。


八尺様が偽りならば、何故村人たちは僕たちを追いかけてきたのか


考えれば考えるほど、得体の知れない恐怖が心を蝕んだ


『・・・・・・・・・』


その答えは、いや、答えの一番近いところは


あのビデオテープに収められているのかもしれない。


明らかに、村から逃げ出すときに落としていったもの


運命のイタズラというのか、見落としというのか


何かの”証拠”が、そこに転がっている。


『・・・・・・見るぞ』


僕は、メリーにそう確認し


ビデオテープをビデオカメラに入れて


巻き戻し


再生した






【2008年11月18日】


ビデオカメラに撮されていたのは、どこかのオカルトサークルの集まりのようだ。


ほとんど女性で、カメラやマイクを持って取材のように楽しく回している。


ただ、このカメラは


このオカルトサークルから遠くの場所で撮影されているのだ。


まるで、このサークルを撮影しているように見える。


いや、これは


”監視”されているのでは無いのだろうか。


そして、カメラがサークルから逸らすと


後ろには、あの八尺様が居た。


いや、それは八尺ほどの大きさの人型の人形だった。


中に人が入り、そして立ち上がる


そしてそのまま、どこかへと立ち去っていった。






【2008年11月19日】


次に、砂嵐と共に日付が代わり、画面はフェードアウトした。


女性の悲鳴がビデオカメラの中から流れた。


画面が、はっきりな画質となるとともに


生肉が、映像の中から現れた。


映像は、あの蔵の中を撮していた。


メリーがよく知っている、あの蔵の中


その中で、あの下宿所の主人が料理をしていた。


他にも、村人の人たちは笑顔で居た。


ただ、その場に場違いなのが


血まみれで、内蔵を露出させている女性の死体と


今から何をされるのか、柱に縛り付けられている女性が居た。


下宿人の主人が、包丁を持って肉を切っている。


その肉の先には、指があった。


皮を剥がれた腕だと知るには、時間がかからなかった。


女性は、『ごめんなさいごめんなさい』と叫んでいる


もう一人の女性は、失神している


また、その死体の方へとカメラが映し、


主人が死体を解体している。


解体されていくごとに、女性の叫び声は更に増していく。


人間の肉を用いた料理が、厨房らしき場所で作られている。


脳みそだろうか、骨だろうか、出汁に使ってるような様子もある。


人肉料理を食べて、村人は笑顔で喜んでいる。


今はもはや、村人の笑い声しか聞こえない。


悲鳴も呻き声も、もう聞こえない。


いや、姿は見える。


三人居た筈の女性は、全員肉の塊と化していた。


顔の皮を剥がされ、筋肉だけの顔


剥がされた皮は、誰かがどこかへと持っていった。











場所は、村の中心部の大井戸へと移り変わった。


最早、ほとんど骨だけとなった少女の死体を持ち上げ、井戸の方へと歩いていく。


少女の死体は、大井戸の中へと放り込まれた。


鈍い音と、骨が折れる音と共に


水が弾ける音が、響いた。


次に、二人目の死体が放り込まれる。


鈍い音と、今度は骨が大きな音を鳴らした。


次に、三人目の死体が放り込まれる。


今度は水に落ちるまで、壁には当たらなかった。


そこで、村人は解散し


それぞれの家路について歩いて行った。




そこで、映像は終わっていた。









~蛇足~


『・・・・・・・・・・・・』


『・・・・・・・・・・・・』


僕たちは、その映像を見て絶句した。


この村の真実を知ってしまった。


知らなければ良かった。


知らなければ、こんな現実を直視しなくて済んだし


俺たちが体験したこの出来事を、謎のまま残すことが出来た。


少女が、麻耶が


俺たちに石を投げつけたのも


蔵に火をつけたのも


『僕たちを逃がすためだったのか・・・・・・』


こんな


こんな恐ろしい事実、幻想郷では恐らく無かった。


現実は、膨大な自由と膨大な謎、そして膨大な技術と共に


膨大な狂気と膨大な恐怖が存在する。


それは、幻想郷とは比べ物にならない


人間の、人間による、人間が起こす、現実だった


『私たち・・・・・・あの・・・あの肉・・・食べ・・・食べちゃった・・・・・・』


メリーが、ガクガク震えている。


この村に来た時の朝食


豚汁、生姜焼き


どちらも肉を使う料理だった。


その肉は恐らく・・・・・・人肉を用いたもので間違い無いかもしれない。


『うっ・・・・・・・・・』


メリーが、部屋から出てトイレに向かおうかと走ったが、


我慢ができず、結局廊下で嘔吐してしまった。


『ゲホッ!ゲホッ!!』


器官に嘔吐物を詰まらせたらしい。


しばらく、苦しそうに咳き込んでいた。


廊下の嘔吐物を見たが、残念ながらあの豚汁と生姜焼きは出てこなかった。


今日の朝食のパンと卵スープ以外、何者も無かった。


『うえ・・・・・・うえ・・・・・・』


胸を押さえ、メリーは泣き出す。


雫を、嘔吐物の上に落とし、嘔吐物の体積が広がる。


『・・・・・・霖くん・・・お願い・・・・・・です・・・・・・この事を・・・この事実を・・・・・・蓮子ちゃんに伝えないで・・・・・・』


メリーがそうお願いした。


僕は黙って頷く事しかできなかった。


彼らはどこに行ったのだろうか


この村を置いて、次にどこに向かおうとしているのだろうか。


麻耶は・・・・・・


そんな事を考えながらメリーの背中をさすり


もう一度、部屋の中に目を向けてみた。


押し入れの中の八尺の人形の顔の皮が、じっとこちらを睨みつけているだけだった。















~蛇足2~


私は、普通の村で普通の生活をするのが夢だった。


普通の友達が居て、普通に楽しく遊んで


そして将来、優しい旦那さんを見つけて、たくさんの子供達と普通の生活をする事が夢だった。


『おい、頭を傷つけるなよ』


きっと、できるかな。


普通の世界では、普通に街を歩いたり、美味しい食べ物を食べたり


友達と一緒に追いかけっこしたりできるかな。


『しょうがねぇだろ、こいつ逃げようとしたんだから。』


霖之助と一緒に話した。現実の世界


本当の世界は、美しくて、楽しそうで


私の夢が、簡単に叶えられそうな場所だった。


『ふざけやがって。脳みそが一番美味いってのに』


きっと、私も行けるよね


次からはきっと、普通の生活を送れるよね。


幸せな人生を送れるよね


『まぁ良い。早く持って来い。腹減った』


『了解』


その時は、また霖之助みたいな人と一緒に過ごしたいな。


そんな事を願っている内に、私は引きづられていく。


『・・・・・・・・・・・・・・・』





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