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特異街~暗寧町~  作者: 朱市 駿
2/3

月喰

「改めまして、、特街屋の(つづり)です。結論からお伝えさせていただきます」


「ーーーーお母様は見つかりませんでした」


特街屋(とくがいや)の事務所で一連の説明を始める。


ほとんど使われる事のない事務所でかなり重くのしかかる空気に首の骨が悲鳴をあげそうだ、、。


案の定、目の前の依頼人は不安で涙を伝せている。

結局あの後、捜索を続けたが足取りが掴めず、、、駆けつけた依頼人に状況を説明しているところだ。



「ですが、まだ結果はわかりません、、どうか心を強く持って、、、もう少しだけお待ちいただけませんか?」


静かに顔を上げ、真っ直ぐに僕の方を見る揺らめく瞳は、、、人を惹きつけた。

(お母様も綺麗な方なんだろうな)


ーーー不謹慎だ。


自分のいい加減さに腹が立ちながら、一つ呼吸を吐いてから説明に入る。



「先ずは、状況の整理と、この街の事、それからお母様の事、、少しプライベートな内容も含みますが、捜索にあたって重要な事です、教えていただけますか?」


「ーーーーはぃ」


なぜこの状況で質問攻めにしなくてはならないのか、、、、。



「では、、、お宅に入り確認した所、リビングが荒され、床に血痕、浴室の浴槽に血だまり、、、それのみでした。物品を盗まれているわけでもなく、、荒されていたのはリビングのみでした」


肩を少しだけ震わせながらちいさく頷き次の言葉を待っている。



「ーーーーそれでは、幾つかの質問に移ります。まずこの街、、暗寧町は特異街指定をされています、この町の[特別]な所は見て取ってわかります、太陽と月の関係ですよね?、、、では、[異常]の部分とはなんですか?」


そう、特異街とは[特別]であり[異常]なのだ。

この二つが合わさり特異街として初めて指定される。この特異な点は街により違い、常識では測る事が難しい状況が特異街では起こる。もちろんこの町も例外ではない。



「それは恐らく、、月喰(げっしょく)の事だと思います」


「月喰?詳しく伺ってもいいですか?」


「暗寧町では、、、夜に堕ちると月に喰べられると言われて、、います。夜に堕ちるとは、悲しみ、苦しみ、寂しさ、もっと極端に言うと絶望、、そんな心の隙間に月が入り込み喰べられると母に聞いていました」


「月が人を喰べるのですか?」


「、、、あの月は昔は小さかったそうです長い年月をかけて今のような大きさになったと言われています。月が人を喰べて成長していると教えられました」


そんな話があるか?月が人を喰べる??

くだらないホラー映画みたいだ。馬鹿馬鹿しい。


ーーーーだが、此処は特異街、ありえないと思う事はこの街達には当てはまらない。



「仮に、、月に喰べられたとして、、その人はどうなるのですか?」


「わかりません。私は見た事がないので、、でも、ある日突然いなくなると、、暗寧町では、、人が死ぬ時は大概、、いなくなるので、、、」


「いなくなる?死者の遺体は見つからないのですか?それは、、どういう?」


「、、そもそもこの町には、死者を弔うという風習があまりありません、、人の最後を見る事が、あまりないので、、その、殺人、、など以外では、、、」



人が消える町、、、月に喰われる、、

そんな事が日常になっているこの町が、暗く人を寄せ付け様としない理由になっているのか、、、。



「そうですか、、。

とても失礼な事をお伺いするかもしれませ

んが、 お父様はどちらに?」


「父は、、、私が11歳の時に亡くなりました」


「そ、そうですか、、大変失礼いたしました」



亡くなっていた。。。

両親を無くしたこの娘は今どんな気持ちなのだろう。。昔の自分に姿を重ねて歯を少し噛み締めた。


更に重たい空気が部屋を満たしていく。

本当にこの仕事は向いていない。。

もう少し気の利いたことでも言えたなら良かったと後悔しながら状況の整理を脳内で行っていた。






、、、、、、、、、、。


、、、、、、、、(ん?)


、、、、、、、(なにか違和感がある?)


、、、、(亡くなった?父は?)


物凄く長く感じた短い沈黙を、絶対的な嫌な予感とともに破る。


「あの、、」


「はぃ」


「お父様[は]亡くなられたのですか?」


「はぃ、、、ちゃんと、、見たので」


(あぁ、そうか、、そうなのか。)


「、、、、、、お父様は、、、殺されたのですか、、?」


「ーーーーーーーーーはぃ」


いなくなるのではなく、亡くなるのなら月に喰べられるというこの街で起こる事は限られる。ネガティヴ思想な僕は最悪の可能性から潰していこうと思ったのだが、、


確信に近い予感は見事に的中してしまった。


「本当に申し訳ありません、大変失礼な事を聞いてしまいました」


「いぇ、大丈夫です。随分と前で、私も慣れましたから」


赤くなった瞼で笑顔を作った依頼人はもう心が決まっている様だった。


「空木さんの言う通り、お母様が月喰にあったのなら、そのお父様の事でなにか原因があったかもしれません。辛くなるかもしれませんが、もう一度一緒にお宅に行ってくれませんか?」


手掛かりもない以上、一緒に探すしかない。

辛い事を強要しているのはわかっているが、


できる事しかできない。


「、、、わかりました。よろしくお願いします」


「ではもう一度、向かいましょう」


目的が決まり事務所を出て家へと歩く石畳の道。

町と同じ暗い案件の中で、町を照らす大きな月が来た時よりも不気味に光って見えた。


ーーーーーーーーーーーー


「な!!?」


嫌な月を見ながら着いた空木さんの家の浴室には血が残っていなかった。


一滴たりとも、何もなかったかの様に


[消えていた]

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