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こじらせぼっちはハーレムエンドを目指さない  作者: 猫派
一章 こじらせ男と三匹の嫁
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五月中旬 2



 5限、数学の時間。最近はテストも近いので問題演習、となる事が多い訳だが、これは都合が良い。下を向いて寝ていても起こされづらいからな。


 自他共に認める享楽主義者であるところの俺は、間近に控えた定期試験も真面目に受ける気はないのであった。赤点回避だけなら一夜漬けで余裕だしな。


 と、いう訳で俺が目を閉じてからしばらく、昼過ぎの足の速い睡魔が訪れようという頃、ふいに足下に何かが転がる音がした。


 見ると誰かが落とした消しゴムが転がってきたようだった。転がってきたのは俺の椅子の真下であるので、落とし主が手を伸ばして拾うには少々辛い位置だ。


 仕方なく拾ってやろうと伸ばした手が、椅子の下で何かに触れる。




「?」


「……!!」




 背後からビクッとした気配。後ろの席の女子……どうやらこの消しゴムの落とし主のようだ。拾って机の上に置いてやる。何やらあたふたしているが……知った事ではない。俺は眠いのだ。


 机に突っ伏して、今度こそ寝る態勢に入るが、またしばらくして、足に何かが当たるのを感じた。


 少々面倒くさく感じながら目を開けて見ると、さっきと同じ消しゴムが足下に落ちていた。気づかないふりをして居眠りに戻る。数秒後、ちょんちょん、と肩をつつかれる。




「あのー……」




 ……起こすか、普通、消しゴム程度で?


 仕方なく上体を起こす。




「……あの、ごめん。それ、拾ってもらえないかな?」




 ……届かないか、そこから?


 だが演習中の教室というのは静かな空間だ。クラスメイトの注目を集めているこの状況で、俺が拾ってくれと言われたのを無視するのはあまりに心象が悪い。今でさえ腫れ物扱いに近いのに、この上敵を作るのはできれば避けたいところだ。


 ……拾ってやるしかないだろう。


 怠い体を動かし、消しゴムを拾う。動きが少し雑なのは、せめてもの小さな抵抗でもある。




「ほれ」


「ありがとう……」




 机に置こうとした俺の手は、しかし、手で遮られた。消しゴムを渡す手が触れる。後ろの奴が結構がっちり掴んできたので、手の体温と柔らかさが伝わってきた。なんかめちゃくちゃ震えてるけど大丈夫か?


 それにしても、なんで女の子の手ってこんなに柔らかいんだろうな……


 手が離れる瞬間に見たそいつの顔は、気のせいかちょっと赤くて、目は俺を見つめていた気がした……自意識過剰だろう。良い加減に寝よう……眠いせいで変にピリピリしているようだ。


 再び机に突っ伏そうとする俺だが、全く不運なことに、またもや妙な物が視界に入ってきた。




「……! ……!」


「……?」




 どうしたパン少女よ? 俺に向かって何やら手をぶんぶんしているが……ジェスチャーで何か伝えようとしているようだ。何だ?


 時計……? 時計なのか?


 だが少なくとも今の俺には、彼女が何か慌てているという事しか伝わらない。


 ひょっとして……トイレに行きたいのだろうか? 友達ではなく、俺に助けを求めているという事はかなりの危機的状況だろう事は想像に難くない。


 仮にそうだとして、『先生、○○さんがトイレです!』ってそれ公開処刑だろ……何より、俺は彼女の名前を知らない。とは言え彼女は既に今日付けで、俺がクラスで最も長く会話した女子となっている。なんとかして助けてやりたい……どうすべきか……


 パン少女はしばらく何か考えているようだったが、今度はさっきとは僅かに違う方向を指差す。


 ……黒板、か?


 俺は黒板から何かヒントを得ようと試みる。今の彼女には時間が惜しい。一分一秒でも早く答えを見つけ出さねば……


 日付けや日直は彼女の指している方向とは微妙に違う。健康診断のお知らせは関係ない……いや、まさか検尿……検尿なのかパン少女よ?!


 ……我ながらこれは全く意味が分からない。ふざけている場合ではない。パン少女は変わらず黒板の一点を指している。他に黒板に書かれているのは、演習の制限時間と回答用紙の……回答用紙?


 俺は全力で手元の問題に向かった。


 中間テスト前最後の小テスト、残り時間はあと10分だった。

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