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こじらせぼっちはハーレムエンドを目指さない  作者: 猫派
余談 温泉回チキンレース
60/60

温泉総力戦



 俺は宿の庭で一人、朝日が昇る前の薄明るい景色の中にいた。


 冬は、あらゆる事が意味ありげに見える季節だ。夏の記憶は鮮烈な情景が多いが、冬の記憶はみなぼんやりとしたイメージだ。


 きっと物事そのものよりも、背後にあるべき意味に目が行く、そんな季節なんだろう。夏は今、冬は過去と未来、そんな対比もできる。


 だから、こんな冬の気怠い朝は、俺という人を通して人生というものを考えるにはちょうど良い。


 当然、考えて分かる事なんてたかが知れている。自分のためだけに生きてきた人間が、自分について考えるのはもはや性だろう。


 都会に生きていると、冬の乾いた風の匂いを嗅いだ時、ふと目の前の景色がとんでもなく美しいものに見える事がある。


 俺のような快楽的な人間は、その一瞬を得るために、一生を捧げても良いなんて思うものだ。だから今のこの景色が、まさしく俺の人生そのものだとも言える。


 きっとそんな、誰かが与えた因果が……人生を賭けるほど美しいけれど、理解の及ばないがゆえに捨てられた縁が、この世界には溢れている。


 俺は偶然、そんな忘れられた、ありふれた出会いの内幾つかを、再び思い出す機会に恵まれたに過ぎない。願わくば、これからもそんなありふれた奇跡を、一つでも多く見付けて、愉しんで生きていけたらと祈るばかりである。




 ……うん。綺麗に締まったな。今のこの暗澹たる気分とは全くもって対照的だ。にわかに赤く染まり出した遥か遠くの空を眺めつつ、俺は重いため息を吐いた。


 結果を言えば、俺は勝った。乱れに乱れる彼女たちの相手をすること数時間、何とか辛うじて最後の一線だけは守り抜いた。


 だが、長きに渡る死闘を制したにも関わらず、胸を支配するのは虚無感……試合に勝って勝負に負けてないか、俺……


 そのまま眠ろうとする彼女たちをはたき起こして部屋の片付けをさせている間、手持ち無沙汰になって庭に出てきた訳であった。やはり、余りに虚しい勝利だ。余韻なんて欠片もないぞ……


 ひとまず今夜は……いや、今夜もまた、何も無かった。お茶を三杯ほど零して、シーツがびしゃびしゃになっただけだ。


 だが正直な所、いつまでもつか自信がない。どうか夏まで……いやせめて新年度まではもってくれよ、俺の理性……!


 俺は余りに遅すぎる年初めの願い事を昇り出した朝日に丸投げすると、その場を後にした。

余談、終了です。本作の展開はこれで最後となります。

最後の最後まで、本当にお付き合いありがとうございました。

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