五節 こじらせぼっちはハーレムエンドを回避できない
彼女は俺が選んだ服に合うように、自分でいくつかの物を選んでコーディネートしていた。会計の時に見た値段は、思っていたより三倍は高かった。女子は服に金をかけるって本当だったんだな……
「こうして形として残るんだから、悪くない使い方じゃない?」
「また心を読んだな」
「顔に出てたよ? 着る機会が増えるように、デートにはマメに誘ってね」
「……考えておこう。それとも、一日三回、首輪付けてお散歩でもするか?」
「……」
「真面目に考え込むなよ……」
その後、上の階で二人と合流した。二人とも本は買わなかったようだが、ひょっとして気を使って二人にしてくれていたのだろうか? こういう細かな気遣いにも気付けるようにならないと、これから大変そうだ……
「へぇ、この人にしては悪くない服……っ! ……あの、どうしました? この男に泣かされたんですか?」
「え?」
「目、赤いです」
「あっ……」
パン少女が素振りを始める。待て、話せば分かる。せめて事情を聞いてからにしろ。
「……まぁ、ある意味そう、かな?」
小さな体に見合わない勢いで放たれた右フックが脇腹に突き刺さる。滅茶苦茶痛いぞ……! こいつ、格闘技でもやってたのか……!?
「くっ……! これだから暴力ヒロインは……!」
「女の子を泣かせたら悪、小学生でも知ってるよ」
「さ、差別だ……男卑女尊の不平等だ……」
「わぁ……! ご主人様が女の子に殴られて小悪党みたいな事言ってる! 面白い!」
「全然面白くねぇ! 俺はマゾじゃない!」
「さて、しょーもないクズ男は置いておいて、そろそろ帰りますか」
「……ふふっ、後輩ちゃんは私の事心配してくれるんだ?」
「この最低男がまた女の尊厳を辱めたのが許せないだけです」
「ま、待て! 誤解だ! お前も足はやめろ本気で痛いから!」
「素直じゃないんだ? 可愛いなぁ……精一杯焦らしておねだりさせたくなっちゃう……!」
「……すみません、こっちの変態にも一発お願いできますか?」
「あ、うん。分かった」
「なんでっ!?」
その後あいつはパン少女に絞められていた。ざまぁみろ。ご主人様を嵌めた罰だ。
建物の外に出ると、陽は傾き、暑さはだいぶマシになっていた。それでもじめっとした空気が、季節が初夏である事を感じさせる。
陽が長くなっているせいで気付かなかったが、もうこんな時間か。ずいぶん長いこと中にいたらしい。時間を忘れて女の子と買い物って、まるでリア充のデートみたいだな、と思ったがよく考えたらその通りだった。まったく笑えない。
「……もうすぐ夏休みか」
「あ、そうだ! みんなで海いこ! 海!」
「またそんな鍋みたいなノリで……」
「でも悪くないですね、海。夏と言えば、お祭りと花火も外せません。予定を合わせて行きましょう」
「はぁ……? 夏の暑い中、わざわざ外になんかいられるかよ……夏休みはクーラーの効いた部屋でゲーム、これに限る!」
「あんたはブレないよね、ほんと……」
「この人は恥ずかしいだけだと思いますよ。今まで友達と遊ぶってことをして来なかった残念な人ですから」
「あー……」
「うるさい。ほっとけ」
「うーん……でもやっぱりご主人様やみんなと一緒ならどこでもいいかな……?」
「あんたはブレまくりね……」
「強いて言えば……みんなでお花見がしたかったかなぁ」
「来年、四人で行きますか」
「……良いのか、四人で?」
「え、あんたまだ他に好きな子いるの……?」
「違ぇよ! そうじゃなくて、いつまでもこのままって訳にも行かないだろ」
「そうですか? 私はしばらくこのままでもいいと思いますけど……それとも私たちの事が嫌いですか……?」
「いや……言わなくても分かってるだろ?」
「それでも言わせたいんですよ。その一言も言えないんじゃ、はっきり言って男らしくないです」
「ぐっ……そう言われると……」
「私も、聞きたいな。ご主人様が私たちの事どう思ってるか……」
「……ちゃんと言ってよ。私だって言ったんだから……!」
「ふふ……ねぇ、あなた。お願いします」
「……あぁ、分かったよ。俺は、お前らの事がーー」
どうやら俺はこの三人の愛すべきヒロイン達から逃げられそうにない。
こじらせぼっちはハーレムエンドを目指さない〜fin〜
これにて完結です。長らくお付き合い下さり、本当にありがとうございました。オーソドックスなボーイミーツガールが書きたくて始めた作品ですが、終わり方もテンプレ的なハーレムエンドにできて、作者は満足です。
近日中に番外編を投稿致します。その際は是非、見て戴けるよう願っております。
また、本作のスピンオフ作品『渡辺さんは愛を知りたい』の投稿を開始しました。こちらは三馬鹿女子高生の日常ギャグよりを目指していきます。更新頻度は低いですが、本日数話投稿しましたので、お暇があればそちらも読んで戴けると幸いです。




