五節 第三回ハーレムに関する取り決め会議
最後なので5話連続投稿です。活動報告も上げましたので、今後についてはそちらをご覧下さい。
「……今回集まって頂いたのは他でもない、同じご主人様を愛する者として、今後どのように彼と付き合っていくか、意思の統一を図るためだよ」
期末テストが終わった日の午後一番、カフェテリアのクーラーの効いた店内で、ポニーテールの少女が第一声を発した。しごく真面目な顔でぶっ飛んだ事を言うのは、今や彼女の十八番である。
「っ……」
その少女の隣、四人掛けのテーブル席の壁際の隅っこで、先の台詞にビクリと震え、身をすくませる小さな少女が一人。先ほどから居心地悪そうに目を伏せている。
「そんな恥ずかしい事を声を大にして言わないで下さい。あなたに羞恥心は無いんですか……いえ、畜生風情に馬鹿な事を訊きましたね。忘れて下さい」
テーブルを挟んで向かい側、一人だけ違う制服を着た女子がポニーテールを一睨みして毒を吐く。鋭い目つきもあって結構な迫力だが、言われた方は歯牙にもかけていない様子。大した肝っ玉である。
して、この会合で一番の問題は、だ……
「……これ、俺がいる必要あるか?」
小さい少女の肩がビクッと大きく跳ねる。どうやら二股をかけたツケで修羅場に放り込まれたようだが、お前もかパン少女よ……最大限意図は汲んでやるからそんなに怯えないでおくれ。
期末テストがようやく終わり、家に帰ってだらだらしようと思っていたらこれである。話があるなんて言われてのこのこ着いて行くんじゃなかった……
「私はこの場にいる二人の合意として、ハーレムを提案するよ」
案の定無視された。隣から疑念の籠った視線を感じるが、違う。俺ではない。その旨をこちらも目で伝える。
「……最も重要なのはこの人の意思であって、私たちの間の合意ではないはずです」
「ごもっとも。で、ご主人様はどう思うの?」
「……こういうのは話し合って決めるような事じゃないだろ。俺が一人ひとりとの付き合いの中で接し方を決めて、二人の間で解決すべき事だ」
「つまり、決めきれないけどハーレムが良いなんて男らしくないから言いたくないって事だね。ご主人様にはっきりした意見が無いなら、多数決でハーレムに決定だけど、良いかな?」
俺はがっくりと肩を落とす。すぐ隣からの呆れたような視線が痛い。
「……それで構いません。続けて下さい」
「あ、そう。それじゃ、ご主人様との時間をどうシェアするかの話に移るよ」
「いや、ちょっと待て。それは俺が決めるべき事じゃないのか?」
「ご主人様に任せたらデートが月一とかになって、いつの間にか三人とも疎遠になるのが目に見えてるから却下」
「ぐっ」
悔しいが否定できない。パン少女に助けを求め……駄目だ! 目を合わせた瞬間、真っ赤になって逸らしやがった! 今はそんな場合ではないだろ……俺のプライベートが無くなるか否かの瀬戸際なんだよ!
こうなったらもう一人に助けを……!
「私だけ学校が違いますし、校内ではお二方、それ以外では私という事で良いのでは?」
「は? いやいや……それだと私たち、校内でしかデートできないんですけど? そもそも、もうすぐ夏休みだって事忘れないでよ」
「そ、そうだよ……」
「……チッ」
おい、舌打ちすんな。あとパン少女も控えめに便乗するんじゃない。
「定番なのは曜日制だね。月曜から順に二日ずつで分ければ学校がなくても関係ないね」
「それだと学校がある時が不公平です。休みを平日にして、私が土日なら呑みます」
「却下。彼に会いに学校へ行ってる訳じゃないの。会える時間に差がありすぎる。休日を無くして私の分を一日増やすなら呑むよ」
「い、いや、土曜日と日曜日を二人で分けて、私の分を三日にすれば解決じゃ……」
「ちょっと待て! あまりに横暴すぎる! 日曜と月曜を休みにして、火水の放課後、木金の放課後、土曜で分けるべきだ。夏休みの事は別で決めよう」
「……私とは週一でしか会いたくないんですか……?」
「あ、いや、その……」
やめろ! 本気で悲しそうにするな! 公共の場なのに抱きしめて頭を撫でてやりたくなるだろ!
「っていうか、公平に分けるなんてそもそも不可能だし、それぞれ会いたい時に会いに行けば良いんじゃ……学校の中では話しかけないとかにすれば良いと思う」
「それだとこの人は逃げますよ、絶対。学校からも走って帰るでしょうね」
「その場合は家に押しかければ良いんじゃない? 妹ちゃんにも話を通しておけば、引き篭もられる心配もないし」
お、おい待てパン少女。可愛い顔してそんな恐ろしい事を言うもんじゃない。
「ふむ……悪くないですね」
「うん。それ、良いと思うよ。私も賛成。これで決定かな」
「異議なし」
「異議なしです」
「い、異議あり! 異議あるぞ!」
「異議は却下。ご主人様は、逃げたら三人の監視下で軟禁するから覚悟しておいてね。あ、あとご主人様の貞操については早い者勝ちって事で」
「異議なし」
「異議なしです」
「ひぃっ!」
「はい決定。以上で第三回ハーレムに関する取り決め会議を終了するよ」
果たして俺はこの先、ぼっちとしての矜持を守り通す事ができるのだろうか……
そしてそれ以上に、この三人に迫られて貞操を守りきれる気がしない……果たして俺の理性はいつまで保ってくれるだろうか……




