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こじらせぼっちはハーレムエンドを目指さない  作者: 猫派
二章 このハーレムは重すぎる
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二節 裏には裏があるってわけで



「……ふぇっ? な、なに?」


「いや、それはこっちが……じゃなくてその、授業中から殺意の籠った視線を受け続けて、そろそろ俺のメンタルが限界だ」


「あ、あぁ……」


「……本当にどうした? 愚痴でも何でも、聞くだけなら聞くぞ」


「いや、その、ちょっと悩んでるというか……」




 誇張ではなく、私はそこで丸1分近く考えていたと思う。彼は私の向かい側に座ると、何も言わず窓の外を眺めている。上方から差し込んだ僅かな光が、私と彼の間をちらちらと行き来する。


 結果として、さっさとけじめを付けて楽になりたい気持ちが勝った。




「ちょっと、男友達……? と、ギクシャクしてて……私は、そいつの事をちょっと尊敬もしてたんだけど、最近そいつに彼女ができて……。それで、その子に縁を切れって言われて、なんとなくショックっていうか……」




 ……もうちょっと上手く言えなかったのか私は……これじゃ本当に……




「別にそんなに親しかった訳じゃないんだけど、なんかそいつを取られちゃったみたいで……。私はそいつと今まで通りでいたい……それが好意からなのかは、分からない……。男女の仲って、0か1かだけなのかなって、思って……」




 あぁ本当に、何を言ってるんだ、私……


 あいつは黙って私の話を聞いていたが、やがてゆっくりと口を開いた。




「……お前の気持ちまでは、俺にはなんとも分からん。ただ、俺の持論では……男女の間に友情はないな」


「えっ……」




 驚いた。二人の女の子に好意を寄せられながら、のらりくらりとやり過ごしているこいつが、そんな事を言うとは思わなかったのだ。




「昔、旅館の風呂場で一夜を明かした事がある。」


「……え、何の話?」


「まぁ聞け。中学の修学旅行のときだ。夜中一人で入っていたら、旅館の人が気付かずに施錠しちゃったみたいでな。真っ暗闇の中、仕方なく湯に浸かりながら脱出方法を考えていると、しばらくしてなんか女湯の方から音がするんだよ」


「……」


「見ていると、誰かが仕切りを乗り越えて、男湯の方に入ってくる訳だ。で、目が合った」


「……」


「……女の子だった。向こうも人がいるとは思わなかったんだろう、ぎょっとしてたよ。とりあえずどうにかこう、隠そうとする訳だ。悲鳴は上げなかったな。俺はと言えば、完全に思考が止まってて、目をそらすことすらできなかった」


「あんた、よく生きてたね……社会的な意味で」


「学年が違ったんだ。それに一応知り合いだったから恩情が下ったんだな。何よりそんな場合でも無かった。そこは東京よりだいぶ気温が低い場所で、なおかつ季節は冬。そいつはガクガク震えてたよ。後で聞いた所によると、女湯の方はお湯も止まってたらしい」


「まさか……」


「まぁ、凍え死ぬよりマシだと思ったんだろう。そのまま朝まで混浴コースだ。最初こそ目のやり場に困ったが、お互いそのうち慣れた。明るくなってきてから開錠に成功して、何とか見つからずに戻れたよ。で、何が言いたいかと言うと……」




 そこでようやく、遠くを見ていた彼の目が私に戻ってくる。




「俺は今でもその子の裸を鮮明に覚えている。だが、それから付き合い方が変わる訳でもなければ、疎遠になる事も無かった。そりゃ多少気まずくはなるけど、意識するってなら最初からだ。俺にとってあいつは初めから女だったし、あいつにとってもそうだったはずだ」


「はぁ……」


「つまり、男女の仲なんて元々そんなもんなんだから、勝手に線引きして引け目を感じる必要もないと思う、と言いたかった。尊敬できる奴なんて、俺は今まで3人も出会ってない。そいつはたぶん、大事にした方が良いと思うぞ。まぁ、あくまで外野の意見だがな」


「……そう。ありがとう」




 あの子は私にどうするか決めろと、選べと言った。だとしたら私が選ぶべきはどっちなんだろう……




「……ところで、どうやって鍵を開けたの?」


「あぁ……ボディソープだよ。あれで滑らせて、手先が器用な彼女が爪でこう、鍵穴を回してる間に、俺がこじ開ける」


「鍵穴はどこにあったの?」


「取っ手の数十センチ下だったかな」


「……」


「……想像するなよ。言いたい事は分かる。その後の中学生活がかかってた」


「その女の子、後輩ちゃんでしょ」


「どうして?」


「私だったら絶対、責任取らせるよ。それは」

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