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こじらせぼっちはハーレムエンドを目指さない  作者: 猫派
二章 このハーレムは重すぎる
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一節 部屋の中、渦中の三人



 両親の執拗な詮索を切り抜け、長らく心焦がれた聖域、マイスウィートルームに帰って来た俺が見たのは、自分の部屋のベッドで激しいキャットファイトを繰り広げる知人二人の姿であった。どうしてこうなった……どうしてこうなった!?




「……お前ら他人のベッドで何してんの?」


「あっご主人様おかえりーお邪魔してるよ」


「あぁ、そうだな。まずはそこからか……二時間ぶりくらいだな。それでお前、なんでいるの?」


「うん。私もする、お泊まり。あー私、今日は帰りたくないなー」


「ハウス」


「わんっ!」




 ベッドから飛びのく駄犬。残されたのはひとり、ベッドの上で全身を上気させ、肩で息をする元後輩。睨んでいるつもりかもしれないが、汗ばんだ顔と潤んだ瞳も相まって最高に……いかん直視できん。


 そして何故か得意げな顔の実行犯。獲物を飼い主に献上する忠犬もかくやというしたり顔である。現行犯ですからね、あなた。




「余罪の追求は後だ。現状を説明しろ。でないと俺が今夜このベッドで安眠するのに支障をきたす恐れがある」


「別にちょっとくすぐっただけだし、変な汁とかは出てないと思うよ? 私の涎は染み込んでるかもだけど」


「お手」


「わん」


「確保ォ!!」




 有罪!! 圧倒的有罪(ギルティ)!!


 何よりこの光景自体が完全に一杯一杯ど真ん中アウトである。




「……はぁっ…ッ……およめに、いけなくなり、ました……っい、いしゃりょうを、せいきゅう、します……」


「分かったからまず息を整えような。そして俺のベッドから出て行け」




 私は被害者なのに……、とかぶつぶつ言ってるのを追い出し、まだ温もりの残るベッドに座る。追い出されたひとりはイスに、もう一人は床に正座させて話を続ける。




「それで? お前、どうやって家に侵入した?」


「やだなー、いちいち面倒だからって合鍵くれたじゃん」


「そんな事実はない。窓か? 窓から入ったのか?!」


「私がこの一年間、ただ漫然と過ごしてきたとでも思った? 妹さん、とっても兄思いで良い子だよね……もうお姉さんって呼ばせてるんだ」




 あの愚妹……変な所で気を回しまくるくせに、こうも危機管理の意識が低いと兄として少なからず心配だ。不審者そのものだろこいつ……変態だし。




「……まぁいい。結論だけ言う。お泊りは許可しない」


「そっか……仕方ないよね……じゃあ私は妹ちゃんの部屋で寝るから、夜中寂しくなったら呼んでね」


「話聞いてたか?」


「妹ちゃんの許可は取っている。ご主人様の意向は関係ない」


「なんてふてぶてしい奴だ。信じられない」


「まったくです。理解に苦しみますね。汗をかいてしまったのでシャワー借ります」


「おい」


「やんっ、腕を掴まないで下さい訴えますよ」


「その場合勝つのは俺だぞ。お前も妹の部屋だからな」


「ベッドのスペース足りないんじゃないかな?」


「妹は俺の部屋だ」


「ご主人様は?」


「部屋の主が部屋にいて何が悪い」


「そんな! 駄目だよ兄妹でそんなの……不健全だよ!!」


「お前が何を言ってるのか心から理解に苦しむぞ」


「あの……本当に汗臭いと思うので、そろそろ離していただけると……」


「……そんなに気になるか?」


「あなたが気にしないと言うなら私は……いえ、やっぱり恥ずかしいので、その……」


「……え? なんでこんな空気になるかな? 私いるよー無視しないで」


「……」


「うぅ……」


「え、なんで手を離さないの? なんで真っ赤になって俯いてるの? 私もまだシャワー浴びてないよねえ無視しないで」


「……戻って来たら詳しく訊くからな」


「わぁいお風呂です」


「子供かな?」




 部屋の扉を閉め、廊下を足音が遠ざかっていく。後に残されるは高校生男女二人と……




「……」


「……」




 ……沈黙。そう言えば俺、コミュ障だった。クラスメイトの女子と部屋に二人きりとか間が保つ訳がなかった。


 そもそもよく考えてみるまでもなく、自分に惚れてるクラスメイトの可愛い女子と主従関係とかどこのエロゲだよこれ……意識すると途端に気まずいやつだこれ。頼む早く帰って来てくれ……!




「……可愛い子だよね、あの子」


「唐突にどうした? やっぱりさっきのはそういう事だったのか……?」




 ベッドのシーツ洗濯した方が良いか? いややっぱり勿体無いな……




「いやだな、ほんのちょっとムラッときただけだよ」




 やっぱりそういう事じゃないか。




「照れるとふざけて誤魔化そうとする所とか、何というか、つれなく見えて妙にいじらしくて……良い子に好かれたね」




 妙に鋭いなこいつ。




「お前基準で考えるなよ。あいつはただの元後輩だ」


「告白断るつもりだったの、あの子のためじゃないの?」


「いや、そもそもお前とは今日までほとんど交流もなかったし、断るのは妥当だろ」




 確かに一番の理由ではあるが。家族以外で最も親しい異性だ。気にしていないはずがない。


 そしてこいつにも、いつの間にか懐に入られているし……俺が家族と一人の例外を除いて、他人とこれだけリラックスして話せるというのは、実際かなり異常な事だ。気まずくなくなってるし……人心掌握術だろうか……?




「愛の為せる技だよ」


「他人の心を読むな」


「ずっと見てたからね、君の事。何を考えてるかとか、何て言ってほしいかとか、大体分かるよ」


「俺の周囲はエスパーばかりなのか?」




 そう言えばかなり危ない子だったなこの子……あまりに素直かつ献身的で忘れかけてたよ……せいぜい寝首をかかれないように、手綱は緩めないで行こう。


 そんな俺の決意をよそに、当の本人は何やら難しい顔になる。




「この一年、おはようからおやすみまで、暮らしを見守ってきた私ですら、あの子の存在には気付かなかった」




 再会したの二ヶ月前だし、それまであいつから会いに来る事なんてなかったしな。どういう心境の変化だろうか。




「関係だけで言えば、本当にただの元先輩後輩のはずなんだよね……ねぇ、君たちなんでそんなに親しげなの?」


「この間たまたま会ったら妙に気が合ってな」




 すっと彼女の目が細まる。やれやれ、といった表情。あれ? 俺、呆れられてる? やめろ。そんな目で見るな。俺はお前のご主人様だぞ。




「あのさぁ、君って結構分かりやすいんだよ? よく他人に思ってる事を言い当てられたりしない?」


「……話せば長くなる特殊な事情があってな」


「特殊な事情って?」


「……長くなるぞ」


「言わせたいの? 私は君についてなんでも知りたいの。君の事が好きだからね」




 ……そこでその笑顔は反則だろう。幸せそうに笑いやがって……




「たとえそれが恋敵とのなれそめであってもね……まず敵を知らなきゃ排除できないもん……」




 わぁ! 排除って! 今この子、笑顔で排除って言ったよ! 本当に話してしまって大丈夫だろうか……最悪、血を見る事になりそう……




「一から全部、最初から話して」


「最初からっても、いつが最初だったか……あれは……」

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