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こじらせぼっちはハーレムエンドを目指さない  作者: 猫派
一章 こじらせ男と三匹の嫁
24/60

初めての恋が終わった日 2



 夢のような時間、とはこういう事をいうのだろうか……


 私達はテーマパークの開園直後に入場し、次々とアトラクションを回っていった。メリーゴーランドにコーヒーカップ、それからいくつか、何だかよく分からない乗り物にも乗った。


 彼は変に理屈屋で、そういったある種子供向けのアトラクションを素直に楽しめないようだったけど、そんな様子がまた妙に愛おしくて、やっぱりこれは夢なんじゃないかって、何度思ったことか……


 何より、彼の言動の一つひとつが私を興奮させた。今日の彼は、今まで私が見てきたどんな彼とも違った。私の事を考え、私のために行動してくれる。彼が私を見てくれる事に、私はかつてない充実感を感じていた。


 それだけではなく、彼はもう私の想いに気づいている節さえあった。私の意図や誘った理由にも触れず、ただ私を楽しませようとしてくれている。


 彼は私が今日これから告白すると悟っているのではないか……その考えは私にさらなる興奮と喜悦をもたらした。


 いつこの猛るような焦りと昂りに、この手の震えと心臓の鼓動に気付かれてしまうだろうか?


 あなたの一言で、平静を装った仮面の裏の私はこんなにも動揺してるんだよ……?




「……さて、そろそろ昼には良い時間だが、その前にアレ、乗るか」




 気づくともうそんな時間だった。彼が指しているのは、いわゆるジェットコースターのようだ。場内狭しととぐろを巻くその姿に、思わず尻込みしてしまう。




「え……アレ、乗るの……?」


「苦手だったか、ジェットコースター?」


「うん……」




 苦手だ。昔からあの、動きを封じられてなす術なく落ちるのがどうしても慣れない……。できることなら乗るのは遠慮したいところだ。遠慮したいけど……




「うーんそうか……あれがここの目玉アトラクションらしいんだが……」




 彼は乗りたそうだ。それなら最早迷う余地はない。それに遊園地でデートなら、ジェットコースターは定番の一つとして外せない。体調が悪くなったら、それを口実に彼にひっついてアピールするのもありだ。


 その時の私は、まだそんなのんきな事を考えていた。




「大丈夫だよ。乗ろう?」


「おっそうか? 来る前からここが一番楽しみだったんだよ。空いてるうちに乗ってしまおうぜ」




 確かに空いていた。私達はほとんど並ぶことなく乗り場に到着した。心の準備をする暇もなく、座席に案内される。


 コースターが動き出し、最初の長い上り坂が始まる。すぐに私の視界には、一面の曇り空と中空で急降下するコースしか映らなく……


 あ、れ……これ結構高くない……?




「いやーコースに目立った特徴はないんだが、なんでもこのジェットコースター、パークのアトラクションの中でも一番の古株らしい。時々滑車が変な音を立てたり、コースがやたら揺れたりするスリルが楽しめるってネットじゃ評判だったぞ」


「……」




 火照っていた身体から一気に血の気が引く。目の前の安全バーを押してみるが、ピクリとも動かない。圧倒的な絶望感と背中から伝わる振動が、私の脳内に幼い頃の記憶を呼び起こした。


 どうして忘れていたんだ……蜘蛛とジェットコースターとグリーンピースは私が嫌いなものランキングの不動のベスト3だったのに……


 背もたれにぐったりともたれかかると、さっきとは違う汗が吹き出してきた。目に涙が滲む。


 もう頂上は目の前……やばい。むりだ。ぜったいにむり。




「まぁ、なんだ……楽しんでくれよな?」




 思わず横の彼を見る。にっと含みありげに笑った顔は、彼が妹をいじめる時によく見せるものだ。


 コースターはいつの間にか頂上に着いていた。目の前にはただ、何もない空間が広がるのみ……もうだめだ……落ちる……!


 い、嫌だ……いやぁ、たすけ

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