六月の晴れた日 3
「すあま、あまぁー」
「……お前さ、クレープといい、甘いもの好きなの?」
「……まぁ、人並みには好きですよ? 私だって年頃の女の子ですから」
「それ、自分で言うか?」
「あまぁー……」
この間のビッグサイズ×2を見るに、人並み以上ではないのか……と、思ったが口には出さない。
俺たちは甘味処で買った甘いものを手に、再び海を目指して歩き出した。段々と日も傾いてきて、海に着く頃には、ちょうど景色が綺麗な時間になっているかもしれないな。
うん。やはりたまにはこうしてのどかな雰囲気の中、ゆっくりと散歩するのも良いものだ。忙しい日常の合間に、一服の清涼剤である。俺とていつも自由にをモットーに生きているが、都会の生活はなんやかんやとしがらみが多くて、どうにも気疲れしてしまう……高校生が言っていいセリフじゃないな、これ。
「……それにしても、こうして知らない道を二人で歩いていると、修学旅行の時を思い出すなぁ……」
「あぁ……あの時もあなたは全く、頼りになりませんでしたね」
〜〜〜
「……よう」
「……どうも」
「一人で何してんだ? 二年も今日は班行動じゃなかったか?」
「みんな仲の良い子達と回りたいそうで、早々に解散してしまいました。三年生も班行動のはずですよね?」
「単独行動してたらはぐれた」
「はぁ……」
「……一緒に回るか?」
「そうしますか」
〜〜〜
「結局、一日中歩くだけでしたよね。おかげで足が疲れてしまって……その日の夜は、部屋で私だけ早く寝ちゃったんですよ?」
「まぁ、元々一人で歩くつもりだったしな。お前もどうせ、夜まで話すような友達なんていなかっただろ?」
「趣味ぼっちのあなたと一緒にしないで下さい。女子はそういうの、色々面倒くさいんですから……」
「孤立してたのは元々だろ。仲間はずれなんて、今更気にかける事じゃないんじゃないか」
「またはっきり言いますね……まぁ、その通りですけど。孤立するだけなら良いですけど、私が寝てる間に色々言われてたみたいなんですから。何でも、自由行動中に彼氏とデートしてるの見たとか……」
「はは……光栄だな」
「冗談じゃないですよ、まったく……」
「……潮の匂い、してきたな」
「……もうすぐですかね」
「あの時は、どんな話してたっけ?」
「どうせ、しょうもない話だったと思いますよ。あなたが馬鹿な事を言って、私が適当に流して……」
「お前、俺と二人のときはやたら大人しいもんな」
「うるさいです……あとは、クラスメイトの愚痴とか」
「ぼっち同士、話が合ったのかもな」
「だから……はぁ……もういいです」
「ははは……」
〜〜〜
「……なんか、愚痴ばっかりですね。ごめんなさい」
「まぁ、俺は物言わぬ案山子みたいなものだからな。解決とかはできないし、ろくなアドバイスもしてやれないが、話して楽になるなら、話半分くらいには聞くよ」
「でも半分なんですね……」
「まぁな」
「……なんか、あなたとは妙な縁があるのかもしれないですね。今はこうして、愚痴を言ったり、目の前の問題を解決するのにいっぱいいっぱいだったりで想像できませんけど……いつか、お互いに余裕ができたら、友達になれると良いですね」
「うっ、友達か……やっぱり俺は遠慮したいな……」
「私は、あなたとなら友達になれそうな気がしますよ?」
「……まぁ、考えておくよ」
「ふふ……でも私、思いますよ……」
ーー困っている時、隣にいる人があなたで良かった、ってーー
〜〜〜
「……あ」
「……着きましたね、海」
「……なぁ、お前さ、今俺が友達になりたいって言ったらどう思う?」
あいつは俺の問いに、ちょっと間をおいて、俯いて、少し照れくさそうに言った。
「だからもう……友達だって、言ったじゃないですか……」
「……あぁ、そうだったな」
あぁ、どうかこの記憶だけは……いつまでもこのまま、俺の中に……
作中人物が名前で呼び合わないのは、私が固有名詞に親を殺されているためです。主人公は健常者で、作中人物には全て名前がある設定であることを付記しておきます。