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こじらせぼっちはハーレムエンドを目指さない  作者: 猫派
一章 こじらせ男と三匹の嫁
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六月の晴れた日 2



「ほら、もう着きますよ。起きてください」


「んぁ……? ……すまん、寝てたか」


「言い出しっぺが寝ててどうするんですか……もうすぐ駅に着くみたいですから、早く準備して下さい」


「準備っつっても手ぶらで来たし……あ。学校に鞄置いてきちまった……」


「何やってんですか……駅着きましたよ。降りましょう」




 しまったな……後で学校に取りに行かないと。そんな訳で俺たちは目的地の駅に到着した。




「さて、どうしようか」


「やっぱりノープランですか……」


「あー。そう言えば腹減ったな」


「もうお昼とっくに過ぎてますもんね……私もお腹すきましたし、とりあえずお昼にしましょうか」




 とはいえ、これといってあてがある訳でもなく、駅に小さな食事スペースがあったので、弁当を買って食べる事にした。幸いなことに、財布は制服のポケットに入れていたので無事だった。




「……うまいな」


「……そうですね」


「……」


「……」




 やはり、こいつと二人だとどうも口数が少なくなりがちだ。お互いに必要以上の事を喋らないタイプなのが大きいが。


 そう言えば、こいつは俺の事をどう思っているのだろう。思い返せば昔からこいつはいつも、色々と文句を言いながらも俺に付き合ってくれていたな。俺を頼るでもなく、見限るでもなく、ただ同じ境遇の仲間として俺に着いてきてくれた。


 まるで熟年夫婦みたいだな、と胸の内で苦笑する。俺の事をどう思っているか、気になるが聞いた事はなかった。




「……何をじっと見てるんですか?」


「いや……お前、食べ方かわいいな」


「……は? いきなり何を馬鹿な事を言ってるんですか……」




 それからあいつはまた黙って、少し食べづらそうにしていた。一年越しの再会以降、友達認定を受けたとは言え、こういった立ち入った事はやはり聞きづらい……。まぁ、はっきりさせない方が良い事もあるしな……この事に関しては俺の胸の内に留めておこう。


 昼食を終え、俺たちは駅前のロータリーへと踏み出した。先ほど降った雨で地面はまだ濡れている。平日だからか人はまばらで、観光地の駅前だというのにどことなくのどかな雰囲気が流れていた。




「人、思ったより少ないですね」


「……潮の匂いとか、しないのな」


「まだ海はもう少し先ですからね」


「……よし。じゃあまずは海まで歩くか」


「本当に何も考えてなかったんですね……」


「まぁ、来たかったから来たってだけだからな。その意味では、もう既に目的は達しているとも言える」


「はぁ……まぁ、良いですけどね」




 俺たちは駅を離れ、大まかな海の方向に向かって路地を歩き出した。道の両側には商店のような建物が並んでいるが、大抵は人気がなく、シャッターが閉まっているものもある。静かな道を黙々と歩く。海までどのくらいだろうか。




「……なぁ」


「はい?」


「俺さ、昔から海の匂いって嫌いでな」


「はぁ、また藪から棒に……」


「そのせいかな、海での出来事って、どうも記憶に残りやすいみたいなんだよ。昔の思い出なんて、もうほとんど、海ばっかりだよ」


「まだ高校生じゃないですか」


「だよな。それでな、たまに暇を持て余してると、ふいに行きたくなる事があるんだよ、海に。何か、思い出さなきゃいけない事でもあるのかね……」


「……私は好きですけどね、海。長い間変わらず、ずっとそこにあり続けるって、なんかロマンチックで素敵じゃないですか?」


「普通の事じゃないか?」


「いいえ。形あるものもそうでないものも、時と共に等しく風化するものですから。変わらないものなんて、それこそ、海か山かくらいなものですよ」


「大した詩人だな……おっあそこ、甘味処って書いてあるぞ」


「えっ本当ですか? 行きましょうよ! ちょうど甘いものが食べたかったんです!」


「お、おう」




 なんか凄い食いついてきた……またしこたま奢らされなければ良いが……




「大丈夫ですよ。こういうのは結構安いですから」




 あっ、奢るのは前提なのね。っていうかさらっと人の心を読むなよ……

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