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出会いのファンファーレ

GA文庫に落ち……苦悩の中で執筆した新作の一話目です!

ぜひお読みください!


 俺は勃起する。

 ん? これじゃ普通か? 他の男子高生と変わらない。補足を入れるなら、女子生徒に近づくと俺の息子は東京のスカイツリー……は、言い過ぎだが東京タワーぐらいに成長してしまう。別に三百三十三メートルになるわけじゃないけど誰が見ても『うわっ! こいつ勃起してんじゃん! キモっ!』とすぐにわかるほどにまで成長を遂げる。

 医者には行っていない、行けるはずがない! 「先生! 女子が近くに来ると勃起するんです……デュフフフフフ……」無理だろ。すぐにあきらめた。

脳内で女子生徒の裸体を妄想したわけでもないのに俺の特殊体質は容赦しない。異性が半径一メートルぐらいにくるとムクムクしてくる。

 中学二年で発症したそれが原因で事件を引き起こしてスーパーウルトラぼっちを経験して俺は中学の時に同じやつが誰もいないであろう高校を選んだ。ま、そのせいで寮生活になってしまったのには目をつぶろう。勃起して変態の汚名を着せられることを考えれば小さな代償だ。

 俺の、立川たちかわヒロシの目標はこの意味不明な特殊体質を克服して、青春を謳歌すること。


そして……そんな俺がこの春入学した裏月うらづき)高校で最初の難関に直面している。


 窓の外にある、桜を眺めながら俺は一息ついた。ありきたりでベタな春の入学式を終えた教室には落ち着かない空気が流れている。その空気の中にいる若人たちは全員、これから始まる学園青春劇をよりよく、そしてハッピーエンド目指すために奮闘するんだろうな。

 俺の場合はすでに出遅れてるってのが現状で……なんだろうな、例えるなら状態異常でヒットポイントを削られながら冒険が始まる残酷なロールプレイングゲームのようだ。もちろんニューゲームなのだから毒消し草も蘇生魔法も無い。すなわち歩けば死ぬ、我ながらうまいこと言ったもんだ。座布団一枚。

 「鈴木凛です。部活はまだ決めていませんがこの後の部活紹介で何かの部活には入りたいと思っています。よろしくお願いします」

 一人の自己紹介が終わると拍手が巻き起こる。そして紹介を終えた鈴木さんは自分の席に少し急ぎ足で戻って、まるでオリンピックの演技を終えた選手のような顔立ちで緊張から解放されていた。

 俺の三つ前……もうそんなとこまで来てしまったのか、ふざけんなよ。まだ考えがまとまってないのに。

 その場で起立して直立不動のままの自己紹介ならばなんとか我慢できる、でも黒板の前に行くってのはリスクが大きすぎる。出席番号順に座らされた俺の席は六列あるうちの廊下から数えて三番目の列の一番後ろから一個前の席だ。つまり後ろの方とはいえ四方を囲まれている。左サイドにピンクの髪留めをした女、前方に黒髪ロングの女、右サイドにスポーツ刈りの男、そして後方に……しまった、確認してない。ここは最悪のケースを考えて女ということにしておこう。

 「被害を最小限に抑えるには右斜め後ろの経路……しかしそれだと教卓まで逆方向を行くことになる……」

 「あの……えっと……大丈夫?」

 急に話しかけられて俺は大袈裟にびくついてしまった。話しかけてきたのは左サイドのピンクの髪留めをした女子で名前は……わからん、自分のことで精いっぱいで脳みそに自己紹介など入る余地がなかったのだから。もしかしなくても俺の考えが声に出てたのか?

 「な、なに?」

 「さっきからボソボソつぶやいてたから……体調悪いのかなって思って。私が先生に言おうか?」

 な、なんだと……。こんな女子がまだこの世界に生息していたのか? 面識などほとんどと言っていいほどないのに、今日会ったばかりの男子の体調を気にする女子。しかも後で噂になるかもしれないのにこの緊迫した空気の中で先生に助言をするだと? 天使か? それとも汚れを知らない天使か? あっ、意味一緒だったわ。

 「いや、大丈夫。ありがとう」

 「ううん、顔色も悪いよ」

 そう言うとピンクの髪留めをした天使は俺の顔を覗き込む動作モーションに入ったため俺の席に少し近づいた。

 ヤバい!

 「いや! ほんとに大丈夫だから!」

 緊急回避プログラムが作動したため俺の声は大音量で教室に響き渡った。しまった……やってしまった。周りの生徒は教卓の前で自己紹介をしている男子をそっちのけで全員が俺の方を凝視した。

 「お~い、なにもめてるんだ。静かにしろ」

 中年の担任教師が俺に言う。

 「す、すいません」

 机に視線をやりながらもピンクの髪留めの女子の反応を拝もうとしたが、『えっ、私なんで拒否られたの?』みたいな顔をしていた。すまん、天使の心を持った女子。これがトラウマにならないでくれよ。俺はなんとしても過ちを繰り返すわけにはいかないんだ。

 あの暗黒の中学生活を……。

 俺は股間をさりげなく確認する、よかった! なんとか大丈夫だ。

 そして無情にも時は過ぎ、もう考えつかない、思いついたのはこれだけだ!

 目の前の黒髪ロングの女子が自己紹介を終えて自分の席に着席する前、そう、黒板から歩き出す瞬間を狙って俺は廊下に飛び出した! 風になるんだ! そして教室の前の扉から颯爽と教室内に入り教卓の前へスピードスターのごとく到達した。ここまで三秒。その三秒は黒髪ロングの女子が教卓から自分の席に戻るまでの時間と同タイムだ。周りは教室内で動いている人間が二人いることから注意力が俺と黒髪ロングの女子に分散される。欠点は別に教室の外にいかなくていいと思われるところだが、そこは同じ列だから避けるためにあえて道を遠くしたと解釈すればいい。なんてハイセンスな作戦だよ俺。ちなみにこの動作の間はずっと猫背で動く。知らぬ間に勃起してしまった時のための保険のようなものだな。

 「えっと、立川。なんで教室から一回出たんだ? それに……腹でも痛いのか」

 爆弾が俺に投げ込まれてきた。投じたのはあろうことか健全な学校を築いていくのが職務のはずの中年の担任だ。シット! こんな所に爆弾魔が潜んでいたとは!

 「あ~……、あれです! さっき大声あげましたよね、実は緊張してて腹痛が、でも保健室レベルではないのでご安心を……。一度、廊下の乾いた空気を吸ってこの自己紹介に臨みたかったんです!」

 どわっ! と笑いが起こる教室。あれっ? ウケた?

 「そうか、ならいいんだが。それじゃビシッと自己紹介きめろよ」

 「はい」

 なんとか誤魔化せた……。けど少しハードルあがったな。ま、いいか。

 その後、当然ビシッと自己紹介を決めることもできずに、担任の「普通か!」の一言に再びクラス中が笑いに包まれて俺はペコリと一礼会釈して再び教室の外に出た。その俺の行動がまたウケたらしく教室の中で笑いが起こっていた。別に芸人じゃないんだからこれといって嬉しくないが悪い気持ちではない。さっさと自分の席に戻り……ん?

 俺の目の前に一人の女生徒が教室の後ろの引き戸から出てきた。この子は確か俺の後ろの席に座っていた……名前がわからん。

 「鳳蘭ほうらんエリカです……鳳蘭エリカです……」

 廊下の床に何度も自己紹介をする彼女。

 地毛だろうか。外から差し込める日の光を浴びて輝く金色の髪、ショートカットボブの髪型は今日のためにしてきたように思えるほど整っている。色白で清楚な顔立ちは他の男子生徒が放っておかないことを確信させる。この特殊体質を持っている俺だが不覚にも、この子には話しかけたいと思ってしまった。だって話しかけるきっかけはあるのだから。

 彼女が俺を避けるように通り過ぎたとき、咄嗟に振り向いて話しかけた。少し近づいたがこの距離感なら俺の息子は大丈夫だ。

 「あのさ、なんで君も俺と同じように」

 「えっ! ま、待って、近づかな……ダメ、我慢できない……ブっ! ブルルッルルルルルルルルルルっ!」

 凶器のような濁音が彼女のスカートから響き渡り、廊下は静寂に包まれる。

 おわかりいただけただろうか。

 いいや、わからない。わかりたくない。

 俺が話しかけて少し近づいた、その行為の中で彼女は確かにしてしまった。

 オナラを……だ。

 その瞬間、赤面した彼女は瞬間移動したかのような速さで教室の前の扉から中へ一目散に入室していった。

 我慢していたのか? いや、近づかないでってことは……まさか……。

 俺に気があるのか!? じゃなくて、俺と一緒で特殊体質なのか?

 「おい立川!」

 「へうっ!」

 背後から怒鳴り声が俺に変な声尾を出させた。声の主は担任の……名前がわからん。

 「ボケが長い。早く入れ」

 「はい……」

 俺は教室に入る。すると俺の前で放屁した彼女が顔を赤らめて黙り込んでしまっている。そして俺と目が合うともはや再起不能になり、見かねた担任が自分の席に戻るように言った。

 その際も彼女は一旦教室を出て俺と同じ行動をとった。

 これには教室の誰も笑わなかった。それが逆にクラスを不穏な空気にさせた。

 男子が近づくとオナラをする……まさかな。

 想像して俺は静かに一人笑った。


読んでいただきありがとうございます!

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RYO

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