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孤独の狐神

森の中。


2人の子供が逃げていた。


得体のしれない何かから。


追ってくる“何か”は、考えていた。


“どうすれば、バケモノの親玉の元へとたどり着けるのか”と。


2人の子供を追っていた“何か”は、数日前に人間の前に現れたあの子供だった。


その子供が追いかけている二人は、コトダマ族だ。


泣きそうな男の子があかと呼ばれ、必死にあかの手をひいている女の子があおと呼ばれた。


「あか!!はやくはしろう!!まだおいかけてくるよ!!」


「うん………っ!」


2人は何処かへ向かっていた。


「はやく、ししょうのところまでいかなきゃ…!」


「ししょー、たすけて…っ」


師匠、と呼ばれる誰か。


森の奥へ奥へと進むたびに少しずつ強くなる、神聖で歪んだような気配。


追う子供は笑んだ。


きっとこの先には“神”がいるのだろう。


目的の神でも違う神でもどちらでもよかった。


ただ、一人でも減らせれば、それで。



――そして、森が唐突に開けた。



光の射す広い場所…そこを双子が駆け抜けた。


追う子供も後に続こうとして、真ん中で、止まった。


止まらざるを得なかった。


先程までいなかった男が、上から降って来たのだ。


気配もなく、かすかに鈴の音を鳴らして、ふわり、と。


光に照らされる髪色は、狐の色…と、真っ白な色。


目は、布が覆っていて見えない。


唯一見える口元は、不機嫌そうに結ばれていた。


「…なんの用だ、こんなところに」


警戒した声が聞こえた。


それを聞き流しながら、あの双子を探す。


…が、どうやらすでに逃げた後だったようだ。


ため息をつきながら振り返る。


目無しの“カミサマ”はじぃっと此方を見て(?)いた。


「……やぁ、こんにちは。良い天気だね」


追う子供は当たり障りのない言葉を発する。


でも、カミサマは顔を歪ませた。


どうやら望んでいない言葉だったらしい。


「オ前は……」


次の言葉を発するよりも先に。


追う子供は発した。


宣戦布告を。


「はじめまして。()はフィーニス。或る一族を滅ぼしに来たよ。」


子供…フィーニスは、薄らと嗤った。


カミサマ少しだけ身震いをした後、小さく問う。


「…ボくは病狐(ヤコ)。……或る一族って?」


フィーニスは笑う、嗤う。


「君達だよ。君達……“コトダマ族”を、滅ぼすんだ!!!」


フィーニスはガチリ、と体勢を低くする。


手に構えたのは…長い針だ。


銀に鈍く光っている。


「…仕方ないな……止めないといけないな……倒されるわけには、なぁ…」


ヤコは、空を見るように顔を上へ向け、すぐに戻した。


姿が黒く包まれる。


黒が晴れた時にはすでに、そこには人ではない姿があった。


服は黒く染まり、4つの狐の尾が揺らめいている。


姿そのものも狐に変わっているのに、両腕は、漆黒に固められたヒトの腕だった。


顔には上半分の狐の面を被っている。


ニヤリ、と笑った気がした。


「……“さぁ始めようか?かかってこい、小童”」


空気が冷たくなる。


ツイ、と扇が向けられる。


寒い。


それでも、フィーニスはにたりと笑って見せる。


「死合、はじめ!」


けたけたと、狂ったように。



最初に、フィーニスは一度、針を投げた。


それをヤコは扇ではじき、自らの黒い手でつかむ。


じわり、と黒は針をも浸食した。


フィーニスは、相手が“何”をつかさどるコトダマ族なのか、観察しながら考えた。


針が侵食されたという事は、毒や酸に近いモノかもしれない、と、頭をまわす。


そして、別の針をまた構える。


もう一度投げようとして、動きを止めた。


くらり、と視界が揺れる。


頭が急速に回らなくなる。


熱い。


寒いはずだったのに、あつい。


風が冷たくて気持ちがいい…とまで何とか考えて、はっとする。


相手は、風上にいる。


そして、自分は風下だ。


風はあちらから流れる。


急激な体調の変化、浸食される針、風の流れ…色々と組み合わせて、わかったのは――


「きみ、は…病を、司ってる、コトダマ族、だな……!!!」


ぎろり、と睨みつける。


そして、針を杖の代わりにしながら立ち上がる。


高熱でフラフラとしながらも、自らの足と針で、しっかりと大地を踏みしめて。


「…………“ザンネン、ばれたか”」


ヤコは、ケタケタと笑った。


まだ、自身には影響がない、とでもいう様に。


「そう、だから、ゲームオーバーだよ」


言いながら、杖にしていない方……いつの間にか隠し持っていた、少し短い針を投げた。


「……“無駄だと分からないのか”」


ヤコは、素手でつかもうとした。


この大きさなら手の中ですぐに侵食されて砕け散る――そう、思っていた。


だが、砕けなかった。


針は深く、突き刺さる。


ヤコは目を丸くした。


突き刺さった針は浸食の兆しを見せない。


じくじくと痛みを訴えてくる。


引き抜こうとする前に、フィーニスは長い針を投げる。


それは反対の手に刺さり、地面と縫い付けた。


痛みが、また増す。


じわじわ、じくじく。


僅かに顔をゆがめるが、言葉は洩らさなかった。


ただ、辛そうな息をつく。


フィーニスはふらふらと近寄り、杖代わりにしていた針を喉元へ向ける。


「…言い残す事でもある??」


ヤコは、嗤った。


嗤いながら、痛みに顔をゆがめつつ、言う。


「……“兎穴(トケツ)!伝えられる全員に伝えておけ!!≪終わり≫が襲ってきた、と!”」


言い終わると同時に、フィーニスは喉を貫く。


森のどこかで、何かが穴を掘る音が聞こえた。


だが、無視した。


今は、少し休養せねばならなかった。


フィーニスはヤコをちらりと一瞥した後、フラフラと森の中へ消えていった。





残されたヤコは、ただ、空を眺めた。


流れていく雲は速い。


もうすぐ、天気が崩れるようだ。


カラカラ、と割れた声で笑う。


ごぼごぼ、と喉に開けられた穴から血が溢れていく。


形作っていたモノが失われていく。


風にさらわれて、≪ヤコ≫を構成していた色とりどりの折り紙が空の彼方へ消える。


「…………“生きる、という約束、はたせなか、った、な…すまな、い……”」


誰かの名を呼ぼうと開いた口は、その名を呼べず、そのまま全身が、消えた。



その場に残ったのは、小さな鶴の折り紙と…赤い血だまりだけだった。

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