盆地の育ち
水平線は見たことがあります。地平線は北海道を旅行していて、車での移動中、海沿いの道を走っていて、これも一種の地平線かな、くらいで平原のただ中で見た経験はありません。
中央公論社刊の『中欧怪奇紀行』という田中芳樹と赤城毅の対談本で、北ドイツは平ら、アウトバーンをずっと走っていても坂道がない、風景や地形の変化は南ドイツが面白いようなことを二人とも述べていました。
ちくま文庫の『快読シェイクスピア 増補版』の河合隼雄と松岡和子の対談でも、ヨーロッパの森は平らと話していました。日本の森といったら山を連想するが、ヨーロッパの森は平らなので、一度入り込み、道に迷うと出てこられなくなる、日本と違って下れば里に出られるかも知れないはない、森が無意識の象徴として夢や昔ばなしで語られるのはそのためだとのお話。
山形盆地で生まれ育って、見渡せば四方八方山があるのが原風景。地平線とまではいかなくても、視界を遮る山がない、特に海や湖があるわけでもない風景ってどんなものなのだろう、想像しようとしてもできないですねぇ。
PHP文庫の『日本史の謎は「地形」で解ける 文明・文化篇』の竹村公太郎は、なぜ日本が欧米列強の植民地化から逃れられたのかの理由の一つに、日本の地形を上げています。日本は山間部や湿地ばかりで、乾燥した平野がほとんどない、おまけにアメリカ合衆国をはじめ条約を交わしていた時期の安政年間、大地震が頻発していた、などなど魅力が乏しかったと示されています。その山々の所為なのか、日本の森林所有率は現在でも世界のトップ3に入るはずです。
中学の社会で、日本と大陸の河川は違う、洪水と聞いたら日本人は素早く逃げるが、たまたま来ていた留学生がのんびり構えていてびっくりしたとか、大陸の河川は向こう岸が見えないくらいだし、洪水となれば一ヶ月くらい掛かって水が来る、内陸に港があって貿易ができると習っていましたし、そういう知識は忘れず持っていますが、東日本大震災と同年に起こったタイのメコン川の洪水は収束するまで四、五ヶ月くらいかかったそうで、ニュース映像を観て、これまた想像を超えていたと吃驚していました。
お雇い外国人に治水の依頼をしたら、これは川ではなく滝だと言われたのはどこだったか忘れてしまいました。
平らな土地に、平らな森林、そんな場所を流れるがゆえに流れは緩やかな大河。
環境が全く違う。そうなれば考え方も全く違ってくるのかな、と思います。