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豆腐の角で怪我するぞ  作者: 惠美子
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眠り姫の起こし方

 先日、『昔ばなしが語る子どもの成長』という題の、小澤俊夫氏講演会に行ってきました。小澤俊夫氏はドイツ文学者で口承伝承文学の研究者です。色々と楽しいお話を聞かせていただきました。

「ディズニーのアニメではなく、元のお話を読んでください」

 と仰言っていました。わたしはディズニーのおとぎ話のアニメを観ていないので、アメリカナイズされているのか、ふうんと思いました。

「グリムの『灰かぶり』は母親のお墓に行って、舞踏会に行きたいと願うと、小鳥がドレスや靴を与えてくれる。これは母の化身でもある」と、解説をしてくださいました。

 ああ、仙女が出てきて魔法を使うのはグリムじゃなくて、ペロー童話だった、思い出しました。

 グリム童話とペロー童話、似ているようで、似ていません。

 グリムの『灰かぶり姫』は、継母やその娘二人にいじめられ、舞踏会に連れていって欲しいと伝えると、豆を灰の中にぶちまけて、拾えたら連れていってやると言います。娘は鳥たちの助けで豆を拾い終えますが、連れていってくれない、娘が実母の墓でお願いすると、鳥たちがドレスや金の靴を持ってきてくれます。舞踏会は一回だけではなく、三日目には王子が城の階段にピッチを塗っていたために、娘は靴の片方を残していきます。継母は娘たちに足の一部を切って、靴を無理矢理はかせます。しかし、血が出ていると鳥が知らせます。灰だらけの娘が靴を履いて、見事王子と結婚式の日、義理の姉たちは付き添っていったら、鳥に目玉をくり抜かれます。

 ペローの方は、豆拾いもお墓参りもありません。親代わりの仙女が出てきます。サンドリヨンが虐待されているのだから、はじめから自分の家に引き取ってやればいいのに、舞踏会に行けなくて泣いているところに現れます。カボチャやネズミを持ってこさせて、馬車をしたてあげ、ドレスとガラスの靴を用意してやりました。ビビディなんとかぁはこっちの方です。王子様は階段に何も細工はしませんでした。ガラスの靴を持って、足の合う乙女を探させます。義理の姉たちは足を切らないし、サンドリヨンの引き立てで大貴族と結婚する結末付きです。

『赤ずきん』も狼に食べられてしまう所までは一緒ですが、ペローはグリムと違って、そこでおしまい、狩人に助けられません。

 ペローの『眠りの森の美女』は、眠りについて百年目に王子様がやってきて、跪くと、キスしないでも目を覚ましました。こうして二人は結婚しましたが、王子の母親が人食い鬼の設定で、王子が王位を継いでから戦争に出掛けている間に、眠り姫の間に生まれた子ども二人と眠り姫を食べようとするのです(嫁はともかく、孫ですよ)。料理人の気転や王の帰還で助かりますが、王の母は自ら命を断ちます。

 グリムの『いばら姫』は王子が姫にキスして目覚め、城の中もみな目覚め、二人は結婚してめでたしめでたし。意外と短いです。

 おとぎ話のパロディの『政治的にもっと正しいおとぎ話』の中に、「眠れる森の平均以上に魅力的な人」が載せられています。姫の誕生の祝いの席に招待されなかった十三人目の女性魔術クラブのメンバーから、「男性に頼らなければならないような、結婚こそが幸福と希望する、退屈な女になれ」といった言葉を掛けられます。まだ祝福を与えていなかった十二番目の女性が、「思春期に百年の眠りにつく。百年のうちに男性の意識も変わるでしょうから」と祝福します。で、百年の眠りが終わる頃、一人の王子が城にやってきます。王子は伝説のお姫様を探しにきたのではなく、自己啓発のために旅をしていたのでした。王子は姫を瞑想の師と思い込んで、足にキスをします。姫は目覚めて、まず目覚めた時の口臭を取ろうと口を動かします。

 姫は王子様が迎えに来てくれたと喜びますが、王子の方はナンノコトヤラ、世俗的なことは言わないで、この世にさだめはない、とすれ違うままでした。とっぴんさん助河童の屁。

 眠り姫を起こすのにキスだけでは済まなかったとなるのは、フェミニズムの視点から描かれた松本侑子の『罪深い姫のおとぎ話』。王子様は姫の外見だけに恋をしたので、百年前の知識で生きる姫に退屈し、姫は姫で両親が亡くなると話の合う人間がいなくなり、孤独となりました、と締めくくられます。

 同じようにキスだけでは済まなかった上に、SMファンタジーの始まりとなる、映画『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』の原作者アン・ライスの『スリーピング・ビューティ・シリーズ』があります。調理道具の木べらでお尻叩いちゃうあたりが、洋モノなのかと思います。これ以上はアダルトな内容なので、ここではご紹介できかねます。

 眠り姫は何故眠るのか、糸紡ぎの紡は何の象徴か、色々と説がございます。あんまり突き詰めて考えてすぎて、かえって面白くなくなっているような気がします。

 原点に帰って、童話集を読むのが一番なのでしょう。

 あ、そうそう、イタリアの『ペンタメローネ』の中の「日と月のターリア」で、ターリア姫が糸紡ぎで指にトゲを刺して眠りについていると、他所の王様が狩りの途中に屋敷に入り込んで、眠っているターリア姫の恋をして、悪戯して帰っていってしまいます。ターリア姫は眠ったまま双子を出産し、その赤ちゃんがお乳を吸おうとして、指のトゲを吸い出して、姫はやっと目覚めます。王様が思い出してターリア姫を訪れると目覚めている上に、可愛い子どもまで、と喜ぶのですが、王様には妻が既にいたから大騒動。完全に王様が悪いのですが、怒って当然の王妃が悪役になり、鬼のような復讐を試みますが露見して死刑、一応めでたしめでたしとなるのでした。この場合、王妃様のすることは極端だけど、同情できるのでした。お気の毒です。

参考

『長靴をはいた猫』 シャルル・ペロー 澁澤龍彦訳 河出文庫

『グリム童話』(上・下) 池内紀訳 ちくま文庫

『政治的にもっと正しいおとぎ話』 ジェームズ・フィン・ガーナー 翻訳デーブ・スペクター&田口佐紀子 DHC刊

『罪深い姫のおとぎ話』 松本侑子 角川書店

『スリーピング・ビューティ』1~3 アン・ライス 柿沼瑛子訳 扶桑社ミステリー文庫

『ペンタメローネ』(上・下) ジャンバティスタ・バジーレ 杉山洋子/三宅忠明訳 ちくま文庫

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