To say Goodbye is to die a little
去年レイモンド・チャンドラー原作の『長いお別れ』をNHKで戦後の日本に置き換えての『ロング・グッドバイ』の題でドラマが放映されました。フィリップ・マーロウは増沢磐二の名前になり、演じるは浅野忠信。
レイモンド・チャンドラーについては、ハードボイルドの作家で、十八歳年上の妻を熱愛していたくらいしか知らなかったですね。
予備知識なしでドラマを観ました。戦後、GHQの占領が終わった頃のまだ復興途上で、流石にGIさんはいないけれども、なんとなく無国籍な印象を与える昏く煤けた東京。
戦後の日本を回復させようと掛け声の大きい実業家で、今度選挙に出ると表明している原田平蔵が柄本明で素晴らしい怪演振りでした。その原田平蔵の二女が女優で、その夫が原田保、綾野剛が演じていました。
大雨の中、車から片足を出して酔いつぶれているところを妻から放り出され、増沢に拾われました。その後、増沢磐二と原田(旧姓城崎)保は友情を深め、バーでギムレットを飲みます。そんな中、保の妻が殺されます。
「横浜まで送ってください。台湾に逃げます」
増沢の許に保がやってきます。増沢は保を横浜港に連れて行きます。
「僕はあなたのような人間になりたかった。警察に行くべきだと思うのなら呼び止めてください。僕は従います」
増沢は保が歩むのを見て、背を向け歩き出します。そして車に乗り込む。
ああ、その気配を感じ取った時の保の表情。
まあ、ドラマを観た人も、原作を知っている人も、あとはご存知の通りの展開と結末でございます。
どーにも困ったことに、わたしは浅野忠信が赤塚不二夫に扮した映画を観たことないはずなのに、「これでいーのだ」と言っているような姿が浮かんでくるのと、小説家の妻で美貌の女性(原作のアイリーン)を演じるのは小雪なのですが、薄幸のヒロイン役が小雪ではなく、綾野剛に観えてきてしまうのでした。
その後、ともに早川書房で出版されている清水俊二翻訳の『長いお別れ』と、司城志朗の『ロング・グッドバイ[東京篇]』を読みました。
有名な「さよなら」に関する言葉、レイモンド・チャンドラーの原作ではフランス人の言葉となっています。司城志朗版では、漢詩の中の言葉「人生足別離」、井伏鱒二が訳した言葉が引用されています。ドラマ自体で増沢磐二が言っていないと思って録画を見直したら、探偵自身は言っていないけれど、ドラマ冒頭でキャバレーの歌姫が歌っていました。
“To say Goodbye is to die a little.”
この”a little”を「わずかのあいだ」か、「少しずつ」か、どう訳すかなんでしょうね。フランス語のではどう綴るのか知らないのですが。
“au revoir”と”adieu”とフランス語にも別れの言葉が二つあり、“au revoir”は「また会いましょう」の意味で、”adieu”は永訣の時に使う「さようなら」。”adieu”は語感として英語の”farewell”に近いのかな、と思います。
欧米人が夏目漱石の『こころ』を読むと同性愛かと感じるそうですが、わたしは『長いお別れ』を読んで、ハードボイルドだか男同士の友情だかより同性愛なのでは、と感じました。フィリップ・マーロウは女性と絡む場面がありましたが、それよかテリーとの友情が大事なようでしたもの。
ドラマのほかの見どころは、闇医者に小籔千豊、ナースのエド・はるみ、チンピラ役にサングラスなしのレイザーラモンHGが出てたあたりですかねぇ。




