Love is not to say sorry.
わたしが中学生か高校生だったある日曜日、新聞のテレビ番組欄を見てみたら、昼過ぎから映画『ある愛の詩』の放映があると載っていました。この時間テレビ観るからね、と家族に宣言しました。
時間になると、興味無さそうな男性陣は自室に引っ込み、わたしと何故か母が並んでテレビの前に座っておりました。
時間になって、映画の始まり始まり。男性が肩を落として座り込み、「ジェニーは死んでしまった。彼の女が好きだったのはモーツァルトとビートルズ、それに僕」とモノローグ。回想の形ですか。大学で知り合ったオリバーとジェニファー、恋に落ち、諍いあり、「愛とは後悔しないことよ」の台詞あり。周囲の友人やジェニーの父の理解は得られても、オリバーの父は大企業の経営者で、貧しいイタリア移民の娘との結婚を許しません。勘当されても愛する女性と一緒になる、と二人は結婚。記憶が曖昧ですが、確かジェニーは音楽の勉強だか留学を諦め、オリバーを支えようとします。やがてジェニーの体調が崩れ……。
難病ものの純愛ドラマなわけです。ジェニーは天に召され、お葬式にオリバーのお父さんがやってきて言います。
「済まないことをした」
「愛とは後悔しないことです」
息子の言葉に父親はかなり驚いた顔をしていました。
そしてまた冒頭のモノローグが繰り返され、映画は終わります。切なく甘いメロディ。日本語吹き替えは三浦友和と山口百恵でした。その後原作の小説も読んでいます。
映画の内容と、ヒロイン役の女優の眉の太さが印象に残ります。
それ以上に、お葬式での親子の遣り取りは記憶に残っています。息子の言葉に父は何を感じ取ってあんな表情をしたのか。
疑問が氷解したのはつい最近。内田樹さんという学者で合気道の道場主の方のご本、『子どもは判ってくれない』(文春文庫)の中で、「目からウロコの愛の心得」という章があって、その印象深い場面の解説をされていました。
英語で、オリバーはこう言ったのです。
“Love is not to say sorry.”
“sorry”と言っているとーちゃんに向かってかなりキツイ言葉です。吹き替えや翻訳本ではそのニュアンスが解らないから、父親の意外な表情の意味するところが解らなかったのです。父が済まないと言うのは、愛ではなかったからだと、オリバーは訣別を告げていると説明されていました。
愛に惜しむところがあってはならない、後で謝るような気持ちにならないように全力を注がなければ愛ではない。
とはいってもここまで特定の人物を深く愛していると言い切れる自信のある方が何人いるでしょうか。
これはよくできたオハナシだから、と誤魔化しなしに考えたいものです。