本を読んで怖かったこと
皆様は、本を読んで感動して涙したことがございますか。
小学生の時にありました。『幼い天使』という邦題でした。外国文学の、子ども向けのリライト作品なので、改題されている可能性がありますし、正式な題名、原題は知りません。悪戯好きで、いささか乱暴な性格の少年の一面だけで大人が個性を判断し、優しく面倒見の良いもう一つの面に気付いてやれなかったかなしいお話でした。
長じてから、サド侯爵の『美徳の不幸』を読んでいたら、気持ち悪くなってきました。双方の合意の上の演技、愛情がある、とはとても考えられない、虐待の数々。特権階級が庶民を自分の性癖の満足のために平気でいたぶる、それも死んでも構わないごとくの扱いに、すっかりげっそりしてしまったのです。
そしてなんと表現したらよいか解らない読書体験があります。日本三大奇書を皆様ご存知ですか? 夢野久作の『ドグラ・マグラ』、中井英夫の『虚無への供物』、小栗虫太郎の『黒死館殺人事件』なんだそうです。この三作品のうちまともに読んだのは『虚無への供物』で、『黒死館殺人事件』は読んだことがありません。
『ドグラ・マグラ』は1/4ほど読みましたが、怖くて残りを読んでいません。
学生時代の夏の夜、わたしは『ドグラ・マグラ』を手に取り読んでいました。この作品については、横溝正史がある対談で、久し振りに読んでみたらおかしくなった、俺の感受性もまだ衰えてないんだなぁと思った、とか言っていました。その横で奥様が、夜にガラスを割って怪我をした、首を吊ると言い出した、とか話に加わっていて、一体どんな話なんだとドキドキの期待。
ブウウゥゥンと時計の鳴る音から始まります。呉という名前の青年が目覚めて、あれこれと説明されたり、精神の問題に考えたりしていくのですが……。だいたい舞台が病院なんですよ。解放病棟という場所で。こういう言葉を出せば、解る人は解りますね。
1/4ほど読んで、夜も更けたし、続きを読もうかどうしようか、とふと顔を上げたら、扇風機が、ブウウゥゥンと回っているぢゃないですか。
既におかしくなっていたようです。扇風機に指を突っ込んで、指が千切れ、血が吹っ飛ぶのを見たいと欲してしまいました。
指を入れようとする気持ちと、必死にそれをとどめようとする自分。その夜は大変な思いをしました。
以後、『ドグラ・マグラ』は封印です。
その代わり、松田洋治、桂枝雀、室田日出夫の出演する映画を観ました。映画だけでも充分おかしくなります。
夢野久作は戦前に亡くなった方ですので、著作権は切れています。二年ほど前、電子書籍はどんなものか、パソコンに詳しい二男に訊いたら、無料の書籍を購入してみたが読み辛い、と返事がきました。どんな作品を選んだのさ、と重ねて尋ねたら『ドグラ・マグラ』の答え。紙媒体でも読むのが大変なんだから、デジタル画面では余計混乱するのでは、と感じるのですけど。ろくに読んでないようなので、ちょいと安心。
わたしにとって夜中に怪談を読んでて怖かった、というレベルではない体験でございます。




