陣屋の殿さま
雀が三羽揃って、「ウチの陣屋の殿サンは」と唄い出すと、横溝正史の『悪魔の手毬唄』の冒頭になりますね。
「陣屋」については厳密には様々な区別があるらしいのですが、近世史には疎いので、「陣屋」と聞くと、城無し大名のお屋敷を連想します。
江戸時代の初めに、山形は最上氏五十七万石が改易されてから、天領になったり、いろんな大名が代わる代わる転封されてきたりしていました。沿岸部に譜代の酒井氏、最上地方の新庄に戸沢氏が入ってきて、幕末まで治めています。山形に入ってくる大名に五十七万石なんて石高はもう与えられません。二十万石あたりから、転封の度に減らされ、幕末の山形藩の水野氏は五万石でした。
最上氏が五十七万石の時に整えた霞ヶ城は、それ以降入ってくる大名の格式に合いません。手入れもできなければ、連れてくる家臣団の人数も武家屋敷に相当する土地に見合いません。江戸中期には、お城が広すぎて手入れ出来ないからと、本丸ではなく、二の丸でお殿様が暮らしていたとも聞いています。冬になれば屋根の雪下ろしをしないと家屋が潰れる恐れがある地域でしたから、人手もないのに広い屋敷があっても痛むだけです。
最上氏の改易の後、上山や天童にもお大名が入りました。
上山は、今では観光用に上山城が復元されていますが、実は、一度壊れて江戸時代中には再建されておりませんでした。
そして、天童藩二万石は織田信長の二男・信雄の家系で、織田宗家でした。天童にお城はありません。織田氏は「陣屋の殿様」でした。元フィギュスケーターの織田信成とは家系が違うようです。家臣の内職に将棋の駒の作製を奨励したり、藩士の知り合いの画家の歌川広重に頼み込んで絵を描いてもらって、金策に利用したりと信長の子孫は苦労していたようです。山形県内に織田信長の子孫がいたと聞いても、へええと感じただけでした。だって二万石ですよ、徳川幕府が八百万石なのに、二万石。
戊辰戦争の折、山形藩も上山藩も天童藩も巻き込まれ、小藩ながらそれぞれ苦労しました。
『悪魔の手毬唄』の三番、娘が「器量よしだが小町で」あるという意味の歌詞を雀が唄います。初めて読んだ高校生の時は意味が解りませんでしたが、かなりの下ネタです。これを子供が唄っていたんですかね。ねぇ、「陣屋の殿様」。
