未完成交響楽
シューベルトの失恋の史実を基にしたフィクションの映画に『未完成交響楽』があります。邦題が『未完成交響楽』で「未完成交響曲」ではありません。
亡き祖父の好きだった映画です。古い映画でモノクロ、名画劇場みたいな企画で、テレビ放映があった時に、祖父と一緒に観ました。
小学校の教師をしながら、作曲や演奏をしているシューベルト。シューベルトの才能を信じる友人たちや、質屋の娘さんがいて、楽しく暮らしています。ただ、音楽に熱中して我を忘れてしまうことがあり、小学生に九九の暗唱をさせているうちにインスピレーションを感じ、黒板に五線を引いて、作曲を始めてしまいます。子どもたちは九九を止めて、シューベルト先生の書いた曲を歌いだします。
ある時、貴族の夜会でのピアノの演奏の依頼が入ります。質屋の娘さんから夜会に着ていく服を借りて、シューベルトは夜会に向かいます。ちょっと哀しいのが、質札を外せないので、質札をぶら下げたまま夜会で挨拶してまわり、待機していなければならないところです。
シューベルトがピアノ演奏を始めます。演奏を聞いている一人の貴族の令嬢が、シューベルトの夜会での様子を聞かされて、つい大声で笑い出してしまいます。
嘲笑かと思ったシューベルトは演奏途中で席を立って、退場します。
なかなか音楽家としてうまくいいかないなぁ、と落ち込んでいる日々の中、とある貴族のお嬢様たちにピアノ教師をしてくれとの依頼がきます。シューベルトは承諾して、その貴族の邸宅に行きます。大方の予想どおり、貴族のお嬢様たちのお姉さんの方が、夜会で笑った女性です。妹娘はわたしはただのダシに使われたの、と姉のやりようにプンプンしています。
ギクシャクしながら、ピアノレッスン開始です。ピアノを弾きながら、わざと手が重なるようにしたり、貴族の令嬢は悪戯します。でもシューベルトの音楽に対する情熱や人柄を知り、令嬢は恋心を抱くようになります。令嬢はシューベルトの楽譜を手に取り、それを見て、「セレナーデ」を歌います。(小学生たちもこのご令嬢も、初見で歌を歌うとは、素晴らしい音感の持ち主だなぁというツッコミはなしです)「セレナーデ」の楽譜に質屋の娘の名前を見付けて令嬢はちょっとがっかり。
シューベルトはシューベルトで令嬢が夜会でのことを心から謝りたいと考えていたことと、まっすぐに自分を慕ってくれていることを知り、心を動かされます。
麦畑での二人のラブシーン。美しかったです。
しかし、令嬢が麦畑にスカーフを落としたことから、父親に二人の仲を知られてしまいます。貴族が、平民出の音楽教師と娘の仲を許すはずがなく、シューベルトは、悪いようにはしないから、などと誤魔化されるようにして屋敷から追い出されます。
なすすべなく落ち込むシューベルト。そこへ結婚の知らせが届きます。
シューベルトは夜会で弾いた曲を完成させて、令嬢の結婚式に出向きます。妹娘から事情を聞かされたシューベルトは、奥様はこの曲の完成を楽しみにされておりました、とピアノの演奏を始めました。しかし、令嬢は取り乱して泣き出し、結局演奏は中止されます。
「我が恋が終わらざるがごとく、この曲も終わらざるべし」と楽譜に書きこむと、シューベルトは楽譜を破り捨てます。傷心のシューベルトが歩いていくと、辻に聖母子の像が祀られています。「アヴェ・マリア」の音楽が流れ、映画は終わります。
ロマンチックで切なくて、素敵な映画でした。
ポップミュージックは好まないようでしたが、祖父は時々ピアノを弾いたり、クラッシックの曲を口ずさんだりしていました。
孫に語らなかったこともあるのでしょう、きっと美しくて切ないような憧れがあったのでしょう。でも、素敵な映画の思い出は、祖父と共有できました。




