銀髪の探偵
横溝正史の創作した探偵は金田一耕助のほかに、由利先生がいます。
由利麟太郎、四十歳くらいで、浅黒い鋭角的な容貌ながら、見事な銀髪の持ち主。元警視庁の捜査課長で、ゆえあって退職。その後探偵になります。
主に戦前、横溝の探偵小説で活躍していたそうです。
父の蔵書の中に、推理小説の傑作集みたいなのがあって、それで由利先生ものの『蝶々殺人事件』を読みました。大分昔のことで、細かい所は忘れてしまっているのですが、金田一物のような地方の因習がらみではなく、都会的な印象の物語でした。
蝶々の題名が示すとおり、『マダム・バタフライ』の主役を務めるソプラノ歌手が殺されて、コントラバスのケースから発見されるのです。
まあ、曲者ぞろいのオペラ団の人たち、事件を引っかきまわす男装の麗人にしてアルト歌手。楽譜を使った暗号、ロープを使ったトリック。華やかな内容ばかり頭に残り、肝心の犯人が誰だか忘れてしまいました。
『蝶々殺人事件』は父の本だから仕方ないとして、確か由利先生ものの『真珠郎』は自宅にあったはず、と本棚をごそごそ。おーい、『真珠郎』はどこにある、と見付けてぱらぱらと読み返してみました。
古臭いとか、論理的でないとか言われてしまえばそれまでですが、けれんみたっぷりの探偵小説も悪くないなぁとひととき浸るのでした。
戦後、横溝正史は由利先生ものの『蝶々殺人事件』と、金田一耕助デビューの『本陣殺人事件』を書きました。その後は金田一耕助が主に活躍していきます。
金田一耕助のとぼけた点もいいですが、由利先生のニヒルでスマートな所も素敵だなぁ、と思います。横溝正史のお耽美が好きなんですね、わたし。