科学は誘惑するのか?
NHKのプレミアムで毎月最終木曜日に『フランケンシュタインの誘惑』を放送しています。五月に放送されたのは、オッペンハイマーを中心としたマンハッタン計画、原子爆弾の製造でした。丁度オバマ大統領が次の日に広島を訪問するというタイミング。
録画して後から観ましたが、真剣な内容なのに吹きそうになった瞬間がありました。原子爆弾の実験をして、その結果に科学者たちが唖然としていました。一人が絶望して叫びました。
「オッピィ、おれたちはくそったれになっちまった!」
オッピィってオッペンハイマーの略称、愛称だったのでしょう。しかし、宮城県の方言で、「おっぴ」、「おっぴちゃん」は曾祖父母を指します。言葉の響きで笑うのを止められませんでした。
しかし、物理学だけでなく、様々な分野の学者が集って原子爆弾を製造したのだと知って、やはり真剣に考え込まなければなりませんでした。理論の完成、設計図の作成、核物質の質量計算、濃縮の方法、爆薬の影響力の計算。一人の頭の中では完成できなかった代物だったのです。
アインシュタインは、毒ガス開発のハーバーともオッペンハイマーとも多少の交友があったのも皮肉なものです。アインシュタインが警告していても、開発自体は止められなかったのです。
フランケンシュタインは怪物ではなく、怪物を生み出した科学者の方。
純粋な探求心が、発見・発明を生み、その応用が続いていきます。キュリー夫妻が発見したラジウムなどの放射性物質だって、人体にどれくらい悪影響を及ぼすか未知数だったのでしょう。ただ、ピエール・キュリーは交通事故に遭わなくても、放射能の影響で早くに亡くなった可能性は否めません。マリー・キュリーもまた、放射能の影響による白内障や倦怠感に悩まされていたと伝わっていますし、研究ノートは高濃度の放射性物質が付着しているので厳重管理です。
来月の放送予定は「近代外科の祖」、ジョン・ハンターだそうです。18世紀のイギリスのお医者さんです。連載小説の中でも外科治療で参考にしている本の中にも出てくる人物です。
兄のウィリアムが医者で、解剖用の死体をジョンが手配しているうちに、兄より立派になっちゃったらしいです。探求心の強さや何より実践、という行動力の強さがあり、自分に淋病と梅毒を感染させて、その病状の観察をしていたそうです。まだ細菌学や抗生物質がない頃です。当時は不治の病だったのに、無茶するお医者さんです。
それでもこういうことに被験者募集をするよりましなのかも知れません。
誰だって未知の分野の実験は怖いですから。
誰ですか? 怖いと余計そそられると仰言っているのは?
参考にしていた本です。
『世にも奇妙な人体実験の歴史』、トレヴァー・ノートン著 赤根洋子訳 文藝春秋
『決してマネしないでください』 蛇蔵 講談社
『性病の世界史』 ビルギット・アダム 瀬野文教訳 草思社文庫




