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豆腐の角で怪我するぞ  作者: 惠美子
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人の往来と病の往来

 最近掲載した短編で、登場人物にタイムスリップした時に病気を持ち込んだら大変との台詞を喋らせました。

 いやあ、唐沢俊一の雑学の本でそういう話を読んだ覚えがあるんです。イギリスだったかどこかの国で秘境の取材に行った際に、クルーに風邪引きがいて、隔絶された環境にいた部族に風邪をうつして大変なことになったとか載っていました。

 川原泉の漫画『バビロンまで何マイル?』でも、タイムスリップした主役の女の子が風邪を引いていて、恐竜に風邪をうつして、当人はすぐに現代に戻ってきたので全く知らないのですが、それで恐竜が絶滅したというオチになっています。「小松左京の『復活の日』のMM88菌」のようにと説明が付いているのがまたツボです。

 実際問題、かなり真面目な話、古代日本で遣唐使が持ち込んだ天然痘が蔓延して、当時の奈良時代の政府高官が一気に亡くなったとか、ヨーロッパ人がアメリカ大陸に鉄砲と馬とともに天然痘を持ち込んだのでアメリカの先住民を弱体化させたとか、歴史上の事実があります。(19世紀や20世紀にパンデミックを引き起こしたコレラだって元はインドの風土病だったと言われています)

 また、逆にアメリカ大陸からヨーロッパに梅毒が持ち込まれたと言われています。これに関しては異説もあるので、よく解りません。ただ、中世から近世のヨーロッパのルネサンスと大航海時代、人の移動距離が延びたので、その分病も往来しました。日本にも鉄砲や煙草とともに梅毒がもたらされました。

『性病の世界史』(ビルギット・アダム 瀬野文教訳 草思社文庫)を読んでいて、アチャーと思いました。この本の作者は女性です。医学や科学よりも歴史的な面から描いており、内容は結構辛口です。

 各種の性病、花柳病、向こうの言い回しでは「ヴィーナスの病」と言われていました。アフロディテ、ヴィーナス、ウェヌス、呼び方はいいんですけど、いくら海の泡から生まれた美の女神が性愛も担当しているからって、酷いような気がします。

 そして男性側のダブルスタンダードをバシバシと叩いております。男性は他所で女性と遊んでいても、自分の家庭の女性陣には純潔や貞節を求めている。しかあし、自分の遊びでもらった「ヴィーナスの病」を妻にうつし、遂には母子感染で子どもにもうつしたら、意味ねぇだろうと。

 こういう本で代表格に叩かれる歴史上の人物は、イングランドのヘンリー8世です。ヘンリー8世の梅毒罹患の時期は明確でないものの、かなり若い頃だろうと推測されています。兄の未亡人キャサリン・オブ・アラゴンと結婚しても流産・死産を繰り返し、メアリー1世一人しか授からなかったのは、ヘンリー8世の病の所為だろうと述べています。

 その後も、離婚・結婚を繰り返し、それでもエリザベス1世とエドワード6世の二人しか授からなかった、妃たちが流産や死産をした、エドワードを儲けたジェイン・シーモアが産褥死した所以もそこにある、メアリーやエドワードの病弱の原因は先天性梅毒ではないか、との説。

 エラスムスが「ヴィーナスの病」に罹患した者を徹底的に批判し、去勢せよだの、火刑に処せだの書き残していましたが、後世の遺体調査で、エラスムスも梅毒に罹っていたとばれちゃったとは初耳でした。『痴愚神礼賛』の作者らしいといえばらしいです。

 ベートーベンの難聴は先天性梅毒の可能性があり、は、別の本でも読んだことがありましたが、この本でも指摘がありました。当然、ニーチェやモーパッサン、ハイネも紹介されています。

 肖像画には、その当時の流行や画家の癖が出るものですが、お医者さんが見ると、別の側面があって、おでこや鼻の形に、先天性梅毒の特徴が出ていると言われたりします。

 細菌学の発展や抗生物質の発見がなければそれまで完治しなかった病気、そして、感染経路が経路だからなかなか話題にしにくく、それでいて深刻な病気。

 新しい性病としてAIDSが紹介され、この本は終わります。

 日本で、また梅毒の感染患者が増加しているとニュースになりました。妊娠中の女性は母子感染の危険性もある病気です。妊婦健診で梅毒検査は風疹の抗体検査とともに必須です。

 人の往来でもたらされる病は性病だけでなく、様々な感染症があります。何年か前に、日本で麻疹が流行して、日本は麻疹の輸出国と批判されたこともありました。現在話題になっているのはデング熱でしょうか。

 飛行機が飛ぶ時代、道祖神も病の侵入を防ぎようがないでしょう。

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