最高の花婿
フランス映画の『最高の花婿』を観ました。2014年にフランスで制作された映画です。フランスはロワール地方の公証人を務めるヴェルヌイユ家はカトリック教徒で四人の美しい娘に恵まれて、『若草物語』のようなオハナシになるかと思えばさにあらず。
長女は法曹界に、二女は歯医者、三女は画家、四女はテレビ局の法務部と、中流のエリートとしてそれぞれ自立しています。親子といえどもそれぞれの人生、過干渉はいけません。しかし、結婚相手となると微妙な問題が出てきます。
「自由・平等・友愛」を掲げてのフランス革命を経てきた国は、かつて植民地をもった旧宗主国でもあります。移民も多くおります。
長女はアルジェリア系のイスラム教徒の国選弁護士と、二女はユダヤ教徒の事業家(劇中は失業中)と、三女は中国系の金融業者と結婚しました。それぞれ宗教が違うし、花嫁側が改宗した様子でもなく、現代風に市役所で人前の法律婚をしました。
花嫁側のご両親は結婚に大反対する訳にもいかず、でも釈然としないので、三女の結婚式の記念撮影でカメラマンから笑ってくださいと言われる始末。
二女に長男が誕生して、生後八日目の割礼式に立ちあって、引きつり気味。三女の許でご飯を食べましょうと誘われて、三女の婿から犬の肉の料理をと笑えない冗談を言われます。犬料理ではなかったのですが、豚が使えないのでダチョウの肉を使いましたと言われて、今度は長女と次女の婿たちもエキサイティング、喧々囂々、一荒れしてしまいます。
ヴェルヌイユ夫人はお医者さんに行って身体は健康そのものですと言われます。
「でも眠れないし、食欲が無くて……」
「体ではなくて心です。あなたはうつ病です。専門医を紹介しましょう」
そんな気にもなれなくて、教会で神父さんに懺悔すると、「あなたの悩みは婿たちでしょう。四女をカトリック教徒と結婚できるようにしなさい」と、神父はタブレット端末を操作しながら(オイコラ)気休めを言うのでした。
ところが、四女には真剣に付き合う恋人がいます。一年半同棲をして、遂にかれはひざまずいて結婚を申し込み、指輪を贈ります。
「クリスマスに一旦故郷に帰るから、それまでにご両親に結婚のことを話しておいて」
と恋人は飛行機に乗って、故国のコートジボワールに帰国していきました。
一方、ロワール地方、シノンのヴェルヌイユ家はクリスマス休暇だからと娘たちとその家族を招待しています。姑のヴェルヌイユ夫人は家族仲良く過せるようにと七面鳥を三羽分購入し、それぞれハラル、コーシャ(ユダヤ教の規定)、北京ダック風に料理してもてなします。くつろぎの気分も高まり、(イスラム教徒の婿は原理主義ではないと言い、お酒を嗜みます)男性陣はお酒を楽しみながら話し込みます。サッカーでの国歌が流れる時は、と話題が出ます。つい、舅は国歌が歌えるのかと言ってしまいますが、三人ともルーツは違えど国籍はフランスです。婿たちは高らかに「ラ・マルセイエーズ」を歌います。
長女と次女の婿たちは、イエス・キリストは預言者の一人であって神の子じゃないと言い合いつつも、三女の婿がミサに付き合って教会に行くと言うので、一人いい顔させるかと、全員でカトリック教会に向かいます。
家族はなんとかかんとか打ち解けつつあります。
姉夫婦たちが帰途についた後、四女が言います。結婚するわと。親はまず宗教は、と尋ねます。
「カトリックよ」
「まあ!」
「おお!」
「名前はシャルルというの」
「ド・ゴールと同じ名前だ」(父上はド・ゴール主義と自称しています)
「でも……」
「でも?」
「……、喜劇役者なの」
「そんなの構わないわ!」
両親はカトリック教徒と聞いて大喜びしてしまいます。四女はアフリカのコートジボワール人と説明できなくなってしまいました。
一方恋人も父親から、フランスの白人女性との結婚を反対されています。しかし、母親が賛成しているので、とにかく相手側と話をしてみよう、しかし、相手側に式の費用は全額負担させる、少しでも差別的な様子があったら結婚は取りやめだと、おやぢ、それは反対しているって意味だよね。
さて、その後四女は恋人をヴェルヌイユ夫妻に会わせます。帰途、夫妻は会話します。
「いい青年だわ。カトリックだし」
「頭の回転がいい、ユーモアもある。身のこなしもいい」
しばし沈黙。
「どうしてアフリカ系なんだ!」
知らせを受けた姉たちは両親の様子を見て驚愕します。父はストレス発散に薪割り、チェーンソーを持って庭木をガーガー切り倒し、母はうつが本格化したようにベッドに籠もり切り。
姉たちは妹に考え直したらと言うと、「自分たちを棚に上げて!」と言われます。婿たちはおかしな結託をして、シャルルの粗はないかと後を付けてみます。ほかの女性と歩いていると写真を撮ったら、シャルルの妹だと判明して、大失敗。
愛し合って結婚するのに姉も妹もないじゃない! こうして姉夫婦たちも賛成側にまわります。ヴェルヌイユ夫人は精神分析医にかかり、一人で喋って、分析医は、「それであなたはどう思いますか」しか言いませんが、夫人は大分落ち着いてきて、四女の結婚を受け入れようとします。
コートジボワールからシャルルの両親と妹がロワール地方にやってきました。始めから対決姿勢のおやぢたち。母親同士は現実を受け入れ、教会に行って打ち合わせなど忙しい様子。
挙式前日、ヴェルヌイユ氏は釣りに出掛けようとし、シャルルの父もサシで話がしたいと付いていきます。お互い結婚に反対だと解り、ここまで挙式の計画が進んでしまっているのでどうやって中止に追い込むか、店に入って一杯引っかけながら話し合います。一致した意見で盛り上がり、オオトラ二匹出来上がりました。
はい、欧米諸国では泥酔状態で街中を歩いていると警察に捕まります。(そのほかにも迷惑行為をしてしまいました)
父親が帰宅しないと家族はおろおろ、もしかしたらの気持ちに警察か病院、いや死体安置所に連絡を、やっているうちに警察に留置されていると判明。婿たちと婿予定者が警察に行くと、警察の担当者が理解不能の家族関係に帰れと告げてしまい、すごすご帰ってきます。
「明日には釈放されるよ」
酒飲んで、トラ箱に入れられて、なおも言い合いをしながら、少しづつ打ち解けていく二人。
ちょっとベタな結末ですが、ひとまずメデタシメデタシ。
打ち解ける前の婿ドノたちの互いの悪口が楽しいです。ジャッキー・チェン、シャイロック、カダフィ。でも案外ステレオタイプでもないのです。アルジェリア系のイスラム教徒はひげを伸ばしていないし、商売の方ではなく弁護士をしています。(お酒も飲むし)そして事業の企画が下手で融資をなかなか受けられないユダヤ教徒。喜劇を観劇中に相婿たちがお喋りばかりしているのに黙って観ていて、登場人物の中では一番空気の読める中国系。
映画の制作がパリのテロ事件の前なのが、かなしい。




