本当の自分なんてありゃしない
岩崎都麻絵(以下都麻絵) 「新入社員でもないくせに筆者の惠美子が五月病だとヘタレているの
で、あたしこと岩崎都麻絵が今回代筆します」
惠美子 「ちょっと待ちなさい。だれが代筆していいと言ったのよ。だいたいあなたわた
の別ペンネームなんだから、とうとう気が触れちゃったと思われるでしょうが」
都麻絵 「いいじゃない、あなた元々メンヘラの引き籠り女も同然なんだから」
惠美子 「良くな~い! 人事異動で良人の単身赴任が解消されたのと、長男の大学卒業
と就職で、二人とも自宅からの通勤になったから、まだ生活パターンになれてい
ないだけですう」
都麻絵 「それをあんた、旦那に五月病だって泣きついてなかった?」
惠美子 「家族揃ってのお出掛けが楽しみの良人になかなかペースを合わせられないから
そういう方便を使ったのよ。それに学生の帰宅時間と勤め人の帰宅時間って違う
し、洗濯物や食事の量やらガラリと違うのよ。メンヘラなりに努力しているの」
都麻絵 「そこはあんたの家庭の事情でしょうが。旦那の単身赴任中に楽し過ぎたんじゃ
ないの? だあれもそんなもの読みたくないから」
惠美子 「ああ、はいはい」
都麻絵 「はいは一回」
惠美子 「へえへえ。しかし、変なサブタイトル考えたね」
都麻絵 「どっちも同一人の頭の中の人格だからね。前にさ、NHKの番組で……」
惠美子 「人のこと言えないけど、NHKしかテレビ観ていないのかしらね」
都麻絵 「受信料払っているし、CMがないのが好みらしいよ、この人の」
惠美子 「それで?」
都麻絵 「うん、それでね、ふなっしーと阿川佐和子の対談番組を観ていて、ふなっしー
に阿川佐和子が『ふなっしーは何人いるの?』と訊いたのよ。なんて答えたか覚
えている?」
惠美子 「ふなっしーは『そんな阿川さんが何人いるみたいなオカルトなことを』とか言
っていたよね、そしたら『ん~、あたしね三人いるの』としらっと答えてた」
都麻絵 「なかなか秀逸な答えだと思ったわ。素の自分ってのはあるかも知れないけれど、
本当のあたしはこれです、なんて言えるものなんてないと常々思っているのよ」
惠美子 「そりゃああなたはそうでしょうね」
都麻絵 「あらあんたはどうなのよ」
惠美子 「退職したら二人になったけど、最近また一人増えた」
都麻絵 「あたしのことね」
惠美子 「人格の解離とかそういうもんじゃなくて、母親の顔、姑に対する嫁の顔、娘
の顔、妻の顔、自分の趣味を追求しようとする時の顔、その時その時の顔と心
情が自然と出てきてしまう。演技って訳じゃなく」
都麻絵 「あんたはお利巧さんの顔をしているのが昔から上手だったから」
惠美子 「悪意を感じる言い方だわ」
都麻絵 「あたしはあんたと違った発想して書くためのペンネームというか別人格だから
自然にそうなるの。諦めてちょうだいな」
惠美子 「あなたの名前でまた何か書くかどうかは未定でしょう」
都麻絵 「そうよ。だから売名行為をしてみたの。あんたにはできないでしょ」
惠美子 「知らないわ」
都麻絵 「そうやってお澄まししていなさいな、いっつも泣きをみてるでしょ。そのうち
また遊びに来てやるから」(退場)
惠美子 「来てやるからって上から目線で言うものだわ。あなたが結構おセンチなセン
スの持ち主だって知っているのに、偉そうね。
しかし、今回の話って宣伝なの? それとも人格の不思議さのことなの?
なかなか筆が進まないからって迷走しているんじゃない?」




