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豆腐の角で怪我するぞ  作者: 惠美子
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LADY CHATTEREY’S HUSBAND

 イギリスの小説を読んでいて、貴族の敬称は難しいなあと感じます。LordとかSirとかLadyとかDameとか、爵位(タイトル)で呼ぶものなのか、敬称によってはファーストネームで呼ぶものか、ファミリーネームで呼ぶのか違うらしいです。

『チャタレイ夫人の恋人』の冒頭を読んでいくと、ヒロインはコンスタンス、そしてその夫はクリフォード・チャタレイといい、身分は准男爵(翻訳によっては従男爵、Baronet、男爵の下、騎士の上の爵位)で、クリフォード卿と日本語で訳されています。

 んでもって准男爵の妻だから、“Lady Chatterey”はチャタレイ令嬢でなく、チャタレイ令夫人になるそうで。スペンサー伯爵家のご令嬢だった女性が結婚前“Lady Diana”と呼ばれていたのとは格式が違うということなのでしょう。

 クリフォードは二男でしたが、長男が第一次世界大戦で戦死したので、跡継ぎなりました。しかし、今度はクリフォードが結婚後すぐに大戦に従軍して負傷、下半身の機能を失いました。クリフォードにほかの男のきょうだいはなく、ロンドンで暮らす独身の姉がいるばかり。

 チャタレイ家の領地には炭鉱があって、その収益があり、クリフォードは戦後小説家として活動しています。生活に困ることはありません。コンスタンスことコニーは夫の世話を熱心に続けて、疲労しました。そこはそれ富裕層の奥様です、奥様にご負担を掛けてはいけませんと医者も周囲も忠告し、住み込みの看護婦を雇い入れました。

 当時の有閑階級の考え方や、世襲の家柄の宿命として、醜聞にならない限り夫への貞淑を守らなくても表立った非難にならないことや、いずれ跡継ぎを決めなくてはならない必要があるので、クリフォードはコニーに子どもを生んでくれないかと言い出します。ミジンコじゃないので単性生殖は無理です。

 相手の男性はどうするのかとコニーは問います。クリフォードはコニーの選択に任せるし、どんな男か知らせなくてもいいと答えます。

 真剣な話だと理解できても、面白くない提案です。

 そんな中、コニーは森番をしているオリヴァー・メラーズと出会って……と、物語は展開していきます。

 実はコニー、クリフォードからの提案やメラーズの登場の前に、自邸に招待されていた劇作家のマイクリスと慇懃を通じています。コニー用の居間で二人で語り合っているうちに、マイクリスはひざまずいてコニーの足を抱き締め、コニーはかれにすべてを与えようと思うほど盛り上がります。

 昔の、伊藤整翻訳の『チャタレイ夫人の恋人』だと、ここで削除入ります。

 で、削除終わると、マイクリスは落ち着かない様子で、「あなたに嫌われているのでは」なんて言います。コニーはそんなことはないと優しく言います。

 削除された場面で一体どんなことがあったのか、気にしたり、もやもやと想像したりしたくなるでしょう。

 後年、伊藤礼が父の伊藤整の文章を補訳した形で新潮文庫から「完訳版」が出版されました。文庫本だと削除されていたのは六行で、何らどぎつい表現はありませんでした。

 その後のマイクリスとの関係がやがて冷めて解消、メラーズとの愛情の始まりや深まっていく経過、ワイセツと感じる方がどうかしているんじゃないかと思うくらい繊細で、自然な流れで描かれています。そりゃあまあ、はっきりした単語も使用していますし、あんたたちアダムとイブですかと言いたくなるシーンもありますが、恋愛は精神だけではなく、身体のつながりも必要だと作者のロレンスは伝えたいのだと察せられてきます。性愛はただ行えばいいというものではない、やさしさが不可欠と訴えています。

 わたしにとっては裁判でワイセツとされ削除された方がワイセツさを感じるという結果となりました。

 そしてチャタレイ夫人の夫は、面白くない提案や空虚な知性で妻の信頼と愛情を失いました。コニーは愛するメラーズとお腹に宿った命との新しい生活を求めて、チャタレイ家の屋敷ラグビー邸を出ていきました。

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