ディオダディ館の幽霊会議
諸事情あって十九世紀のヨーロッパの歴史を勉強中です。
十九世紀のヨーロッパの架空の国を舞台としての物語を思い付いた時、頭の片隅にあったのが、『幻の城』(原題“ROWING WITH THE WIND”)という映画です。
「19世紀ロマンの時代
メアリーの創り出した幻想が
動き出し彼らの運命を決めた」
今を去ること二十数年前の映画なんですが、映画パンフレットの宣伝文句を覚えていたんですね。主人公はメアリー・シェリー、『フランケンシュタイン 或は現代のプロメテウス』の作者です。
脇役の詩人バイロン卿に若かったヒュー・グラントが出演しています。
バイロンが当時暮らしていたスイスのレマン湖の側のディオダディ館、別荘ですね、そこに、バイロンの侍医のポリドリ、詩人のシェリー、その妻メアリー・シェリーとメアリーの義妹でバイロンの愛人のクレアが集い、ある夜怪談の朗読会をしていました。ところが、その怪談が詰まらなかったそうです。各々もっと怖い話を書いてみようとバイロンが言い出し、ちゃんと書き上げたのがポリドリの『吸血鬼』、メアリーの『フランケンシュタイン』です。他の面々は手をつけたものの、形にならなかったらしいです。
「ヴァンパイア」の小説は、ブラム・ストーカーの『ドラキュラ』やレ・ファニュの『カーミラ』の方が有名ですが、それよりポリドリが先んじて発表しているのと、何より『フランケンシュタイン』の誕生に係わるエピソードとして、この夜の出来事は『ディオダディ館の幽霊会議』と呼ばれるようになったそうです。
故郷の小さな映画館で『幻の城』を鑑賞しました。
嵐の夜、雷鳴が轟き、重い鎖を引きずるような音、おお、怪物登場か、と体を固くしておりましたら、突然映像が途切れました。
映画館スタッフが直ぐに現れました、「フィルムが切れました。少々お待ちください」と伝えてくれました。
しばらくして、映画は再開されました。
映画は物悲しく、木枯らしの季節に相応しいしみじみとした内容でした。
イギリスとスペインの合作映画で、主要な登場人物がイギリスの俳優で固められていましたが、怪物がどう見てもスペイン人の顔立ちの大男なので、なんか違和感がありました。
その後、同じく『ディオダディ館の幽霊会議』を題材とした『ゴシック』という映画があると聞き、これはレンタルビデオ屋で借りてきて、自宅で弟と一緒に鑑賞しました。
何と言いましょうか。『幻の城』がお通夜のごとき静けさに満ちた作品であったとすると、『ゴシック』はランチキパーティーの様相でございます。
女性の顔がアップなって、口を大きく開けて悲鳴を上げる、のシーンで突然音声が消えました。
弟と二人、演出だろうか、と観続けていましたら、数秒後、間違いに気付きました。演出ではなく、ビデオテープの音声がその後二、三分消えていました。字幕の映画だったので、何を話しているかは解りましたが、演出と気が付くまで、何の効果だろうとじっと待っていたのも間抜けな話でございます。
『幻の城』といい、『ゴシック』といい、鑑賞中の事故が相次ぎ、フランケンシュタインの祟りだろうか、と感を強くしたのでした。
『ジャパネスク・ホラー』の特色として、水、が上げられますが、そんな評価が出るはるかな昔のこの二作品、水のイメージが強く出ています。
何せ『ディオダディ館の幽霊会議』の場所が湖畔の別荘ですし、その後、メアリーの夫をはじめ、多くの人々が水と関連する場所で亡くなっていくという悲劇が待ち受けているのです。
そして、フランケンシュタイン博士の創造した怪物も北の海に消えていくのです。
偶然とはいえ、物語を超える悲劇を生きた女性の物語。
こええなぁーと思いました。