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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編s

真白の檻

作者: 古水夕旧

初投稿にドキドキです!そしてそのお初がこれなのか!ということに自問自答しつつ。どうぞ、お豆腐メンタルなのでお手柔らかにお願いします。

タグには残酷描写に対する警告は置いときましたがどうなのでしょうか?

まぁとりあえず、お楽しみいただけたら幸いです!

どうぞ~~~!

 ただただ、この真っ白な空間で、僕だけがいまだに呼吸する存在であり、それ以外に動き出すものは居なくなっていた。そして、僕はそうなって初めて、心から彼女を愛することができた気がした。

 


 「愛してる」


 そう言って彼女は死んでいった、美しい顔を美しく歪めながら。彼女の細く長い指で握りしめられた鋭く研がれたナイフを、まるで責めるかのように見せつけながら首筋を横一線に引き抜いて、彼女は死んでいった。

 

 彼女の体は力を失い、手を伸ばす間もなく重力のままに崩れ落ちていった。

 真っ白な床の上に、真っ赤な彼女の血が赤い絨毯の様に広がっていく。

 

 その時、体中が喜びではじけ飛びそうだった。体の奥、心の内側からあふれ出てくる喜びで破裂してしまうのではないかと心配になるくらいに、心は弾んでいた。

 それはもちろん彼女が死んでしまったからではない。彼女が死んで嬉しいならさっさと殺していただろう?

 でもそうじゃない。

 心底、彼女を愛していた。それだけは間違ってなんかいやしない。

 ただ、彼女にはいつまでもこちらだけを見ていてほしかったんだ。輝かしい生を謳い躍動する彼女はもちろん美しい。いや、痛苦に歪もうが悲嘆にくれようが彼女は変わらず美しいがもっとも彼女が映えるのは活き活きと日の下で活動するときであろう。どんな人も彼女に目を奪われ彼女の目線を奪いたいと思うのだ。彼女の全てが僕のものであるというのに。

 彼女に向かう視線全てを遮るのは不可能だとわかっていた、だから僕は奪うことにした。その視線を集めてしまうどうしようもなく美しい彼女という存在を、視線から奪うことにしたのだ。

 奪って、そのまま閉じ込めた。美しい彼女に似合いの汚れのない四方八方全てが真白の檻の中に、彼女を。


 だから、これで終わり。


 彼女は目の前で、恋い慕うことを隠そうともしない眼で見つめながら自らの命を絶った。そう仕向けたはしたが、これほどまでに雄弁に語る目をするとは、それだけが予想外だった 。

 もう二度と他の存在をその目に映すこともない、そう何一つ。


 なんてくだらない展開、なんて救いのない終わり。気づけば、結局彼女の一人勝ちだった。


 僕はもう一度だけ倒れ伏す彼女に目をやった。

 そこには生前となんら変わらぬ美しさを謳う彼女の肢体がある。彼女の体は美しく禍々しい赤に染まっていた。

 僕はそっと彼女の頬に手を添える。今はもう冷たくなった、絹のように滑らかな肌、二度とは開かぬ唇に、僕は憐れみと愛しさをこめて優しく口づける。ああ、なんて冷たいのか。生前の彼女との違いに愕然とした。


 そして僕はその冷たさに彼女の存在の欠落を思い知った。

 いまだ彼女の体内から流れ出る赤のみが、彼女が温かかったことを示している。

 それならば、彼女の“中”はまだ熱を保っているのだろうか?彼女の臓腑もまた温かいのだろうか?そこに“彼女”はあるのだろうか?

 純然な興味と期待が思考を支配していく。


 彼女の右手に握られたナイフを抜き取り、彼女の細首の傷にそっと指を添わせる。まだ、血は生暖かくてなんだか嬉しい。

 そして、よりつよく彼女を感じるために、そのナイフで彼女の腹を深く深く正中に切り開いた。

 勢いのあまり、ぱっと血が飛び散った。


 彼女の“中”へと僕の手が伸びる。


 ああ、彼女はなんてあたたかいのだろう。




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