File1 I Dead メトロポリスの伝説
施されたアスファルト道路の上で騒音が交差する。見上げれば、立体交差したコンクリ質の空中回廊と、水槽のように全面ガラス張でできた無数の超高層ビルが広がる大空を遮断し、目の前には鬱陶しい程の他人の群が蠢いている。何の感情もなく、ただただ目的地へと向かっていく、服を着た機械のような有機物の群れ。
今日は平日の朝。多くのサラリーマンや学生たちが行くべき場所へと足を一定のリズムを刻んで運ぶ。こうした単純作業が毎日行われるのだ。
(……邪魔くさいなぁ、こいつら)
目の前から進んでくる人間たちを睨めつけるように鬱陶しくそう思い、両耳につけていたヘッドフォンの音量を少し上げる。
この社会と自分とを隔離するために。
日付、十一月九日。
時刻、七時五六分三三秒。
気温、十二度。比較的高め。
湿度、六三%。ほぼ平均値。
気圧、一〇七三ヘクトパスカル。
雲量、二オクタ。雲が散在。
肩か背中辺りまでの長さがある茶色いストレートの髪。化粧は必要ない程度のデフォルトが整った顔立ち。耳を丸ごと覆うほどの大きくて機械的なヘッドフォン。すらっとした脚を包む黒いレギンス。その華奢な身体には二段フリルパーカーが羽織られている。右手首にはリスト型の高性能携帯情報端末が装着されている。
自画自賛かもしれないが、客観的に見れば私はそのような姿だろう。
好きなアーティストのエレクトリックに近いロック調の曲をヘッドホン型音楽機器で聞きながら、環状歩道橋がある環状交差点の中央真上に高く浮遊している全面モニターの球体を横目に見る。二〇枚はあるだろうスクエアパネルモニターのそれぞれに流れるように報道している気象情報や広告、ちょっとしたニュース。電磁力という無駄なコストを使って浮遊している受信塔。ボールに近い大型ドローンに見える気もするが、空に固定されたまま、映像を流し続けている。音声はない。
(昼ちょっと降るのか……その前に帰ればいいか)
ガラス張りの大木の森を縫うように滑走する懸垂式ケーブルモノレールが頭上を通る。宇宙エレベーターに利用されているダイヤモンドナノフィラメント素材はここでも活かされている。
私の横をドラム缶ほどの大きさをした円筒型のドローンが通り過ぎる。一家に一台は置いてあるロボット掃除機の一種で、街中の塵を対象としているが、どうもこればかりは邪魔くさくて仕方がない。ぶつかりそうになったらセンサーで止まるから安全は確かなのだろうけど。
そう思いつつ、前から歩いてくる学生ぐらいの歳にみえる通行人を避ける。腕時計型の情報端末機から投影された立体投影キーボードで何を夢中に打ち込んでるんだか。ちゃんと前見て歩けっての、と私は無表情を保ちつつ、少し苛立った。舌打ちする。
ファッション店の前に設置されている映像看板も素通り。スクロールして上から流れてくる流行ファッション情報は私にはどうでもいいことだった。
丁度小腹がすいてきたとき、食堂店を見つける。朝なのか、あまり中には客がいないようだが、サラリーマンの姿がちらりと見える。木製の板に鉄粉塗料で塗りたくられた食堂店の入口看板に『学生割引10%OFF *大盛りや以下のメニューは対象外とします』とチョークで書いてあるのを私はつまらなさそうに見下した。
(もう私には関係ないことだもんね……)
そして、その看板の内容を五秒もせずに忘れ去った。
ある理由で退学した私は、もうどこかの大学や専門学校に受験する気も、就職する気もなかった。今はやさしい両親のすねをかじって生きている。こんな人間として最低な自分の面倒を見てくれているだけでもありがたいとは思っている。
退学してから約二年、やっていることはEネットで色々な口コミサイトやSNS、動画投稿サイト等を閲覧したり、幾つかのオンラインゲームをなんとなくやっているぐらいだ。運動不足と出不精を解消するために最近は外を出歩いて世間の情報収集、人間観察など、自分にとって興味のないことをしているときが多くなってきた。しかし、現実の世界よりもHMD式のヴァーチャルゲームの世界の方が断然楽しいことに変わりはなかった。
こんなニート生活をするぐらいなら働けばいいのにと思う自分もいる。しかし、思うだけで、それ以上は足を踏み出せなかった。人と接するのが苦手、というより人間自体が苦手だ。昔はそうでもなかったのだが、それを始め、なにもかもやりたくないという怠惰に溺れている。
とにかく、現実逃避に浸っていた。
そのことについても、"あのときのこと"についても家族はどう思っているのか。今のニートみたいな生活を、いや、私という人物をどう思っているのか。親の仕事に大きな支障を与えた娘を本心ではどう感じ取っているのか。
きっと私の将来を楽しみにしていたのだろう。その期待が大きい分、それを失った落胆も大きいことだろう。
私はとうに両親の心境も知っている。
だから辛い。
だから、自分は不必要だってことを把握しているのだ。
「はぁ……」
誰にも気づかれないくらいの小さな溜息をつきながら、ふと目に留まった古い自販機に足を運んだ。
どれにしようかな。
私は自販機に展示されているように並んだ多種多様のジュースを目で選ぶ。
結果、こんな寒い季節なのにもかかわらず、「つめた~い」リストの「エルギニン」という炭酸入り栄養ドリンク(眠気すっきり作用)を選び、ボタンを押した。
そのとき、自販機からゲームセンターのゲーム台のようなリズムの整った音が鳴る。恒例のナンバースロットだ。自販機のデジタル表示画面にスロット式でデジタルな数字が回る。
当然の結果を知っていながらも、もしかしたらという人間の性によって結果的にそのスロットの結末を待つ。
すると、今まで聞いたことがない音が鳴った。まさかのアタリのファンファーレだった。ゲームのガチャでもあまり運は良くない方なのに。
「あ、当たった! やった……!」
思わず感動し、声を出してしまう。はっとした私は辺りを見渡して急激に恥ずかしみを感じた。だが通行人は誰もその様子に目すら向けていなかった。それを自己解析して勝手に納得した私は心の中で安心し、もう一本の缶ジュースを選び、取り出す。
「あのー、すみませ――」
「ひゃいっ!」
突然声をかけられ、変な甲高い声を発してしまった。同時に手に持った二つの缶を落とす。
振り向くと五〇代のおじさんとおばさんが優しそうな表情且つ何かを聞きたそうな表情で私を見ていた。
五三歳と五一歳の老夫婦か。ここに来たばかりの観光客。ああ、ここの市にあるオーヴェンゲール美術館に行きたいと。
道を訊きたいなら携帯端末機使えば……なるほど、丁度不具合を起こしていて起動できないのか。共に機械操作苦手――もそうだけど検索やインストールが先入観として難しいと手つかず状態。それで尋ねたわけか。
「あの、そ、それならここから……あ、いや、な、なんでもないです、はい」
「……?」
二人の夫婦は不思議そうな顔をしていた。
他人との会話に緊張しながらも、ギクシャクに訊く。
自分のコミュニケーション障害を本気で恨んだ瞬間を実感した。
「え、えぇっと、ど、どどうかなされみゃしたか」
震えすぎた自分の声に情けを感じる。ちょっと泣きそうになった。
それでも、ありがたいことに聞き取ってくれたようで、笑顔で対応してくれた。こんな風ににっこり笑えたらいいなと思いながら話を聞く。
「いやぁ、オーヴェンゲール美術館に行きたいんだけど、道がわからなくてね。すまないが、教えてもらえないかな。知ってたらでいいんだけど、ここの近くかい」
当然の予想通り。ここから美術館への最短距離を身振り手振りでギクシャクしながらも丁寧に教えた。そして、専用のセンターで端末の修理をするようアドバイスしておいた。
故障していたことを知っていたことに対して少々驚いてはいたが、ありがとね、とおじさんはそう言って、そばにいたおばさんと二人で駅へと向かっていった。その背中を見送った後、ふたつ落した缶を拾う。
「……いいことするって、こんなに気持ちいいもんなんだなー」
ほっとしながらそう呟いたとき、
「そこのヘッドホン付けた茶髪のアンタ。ちょっといいか」
「……っ!!!」
ひぅっ、と息が喉へ入り込んでいく音が明確に聞こえる程、私は驚いて急激に息を吸ってしまった。背筋も再びピンと伸び、しゃきっとしてしまった。これがコミュ障の極みだと思うと少し治さなきゃならないなと思ったりする私であった。
ヘッドホンつけていて茶髪で女、声のベクトルはこっちに向いている。明らか私を呼んでいる。あと視線が痛い。迷信なのに痛い。
ギギギ、と私は相手の姿を確認するために錆びたネジを回すようにゆっくりと振り返る。せめて警察でないことを願うばかりだ。何かしたわけでも……ないけど。
「な、なな、なんでしょ――」
背後から警察のように声をかけた人物。
もう縁がなかったであろう展開。
イケメンがそこにいた。
あまり三次元の男子に興味ない私でも納得のいく「イケてるメンズ」だった。学校のクラスに一人はいるかいないかの割合の整った顔立ちの明るい好青年。
フードを収納している黒い革ジャンの下の白いアンダーからでも、筋肉質であることが十分に見て分かった。ベルトのバックルをのぞかせた、チェーンのついたジーンズの長さも長く感じた辺り、羨ましいことに脚も長い。
黒いフィンガーレスに銀のリングネックレス、そして手首のリング型携帯情報端末。ツンツンヘアーに近く、しかし無造作に整った髪はカラーを施していない黒。推定一八〇cm前後。一五〇cm台の私の前では大人に近い。
漫画で見たことあったなと思ったのは一瞬で、その容姿は爽やかな好青年であると同時に不良にもあてはめられる。
「鳴園奏宴で合ってるよな、アンタの名前」
「っ!」
人に不慣れであり、かっこいい好青年+明らか不審という危険信号で負の走性が起こり、とうとうその場から走って逃げてしまった。
「あっ、ちょっ! おい待てって!」
「おい」って言った! 絶対不良だ! 絶対チャラ男だ!
もしかしてこれがナンパか! お父さん世代でさえ死語と化している「ナンパ」ってやつか! 軟派と同義で女性を誘惑するあのナンパだ!
しかも焦っていて言ってたことあんまり頭に入ってないけど私の名前言ったよねあの口から。鳴園奏宴って確かに言っていた。どうして知っているんだ。
とにかく必死に走った。一割の歓喜と三割の期待と六割の恐怖で私は運動不足ので動かない身体を無理矢理走らせた。腓腹筋や前脛骨筋をはじめ、脚部に疲労が溜まっていく。カルシウムが――蓄積されたリン酸と結合する実感があるのはおそらく世界中で私だけだろうと大脳の隅っこで考えていた。
私は硬派だ。あんなネックレス付き黒髪ピアスのチャラ男属性に色気出してホイホイついていけばどんな目に遭うか。
それ以前に、出す色気もないけど。
「ぜぇ……はぁ……えふっ、げほっ……」
女性らしからぬ息切れをするが、吸っては吐く空気の急流に喉がむず痒くなり、喘息のように咳き込んでしまう。走ったのは本当に久しぶりだ。明日は筋肉痛不可避に違いない。
なんとか振り切れたようで、とりあえずほっとする。
「な、なんか怖かったぁ……」
突然のナンパで、しかも中々のイケメン。しかし今どきナンパする男なんてとっくに自然選択で絶滅していたかと思っていたが、まだ生き残っていたか。
人混みをするするとかき分け、子どもたちの遊ぶ公園を走り抜け、ビルの路地裏の角で私は力尽きた。実写を模した3Dゲームでよく操作しているキャラクターがスタミナ切れで走れなくなることに苛立ちを感じてはいたけど、キャラクターさん、ごめんなさい。あなたの気持ち、よく理解しました。
息切れをしながら壁に背をつけ、へたり込む。見上げた空は狭苦しい。
「……ここってどこだっけ」
焦ったりパニックになるとすぐこれだ。安直な考えで行動する上に記憶もあまりない。過度に疲れたおかげで頭も働かない。酸素が足りない。糖が欲しい。
「……ふぅ」
私は息を吐き、ポケットに左手を入れる。
こういうときのための小型端末のGPS《Global Positioning System》だ。衛星だけでなく、この国の首都にある大企業「Sky-LINE」の巨大電波塔によって空間座標として自分の現在地を表示してくれると同時に、自宅までのルート案内もしてくれる。タップ操作でアプリケーションソフトを展開させる。
この端末「Ivision」は法律上、義務教育を受け始める満六歳以上の国民全員が所持していなければならないと決められている。一応様々なデザインもあり、また買い替えもできる。しかし紛失した場合は二四時間以内に役所に連絡しなければ罰金となる。どこか不便にも感じるのは私だけではないはずだ。
「検索……っと」
電話やアースネット、音楽やゲーム等、多種多様のアプリケーションを備えたそれは、この時代でいう存在証明証と同義。電子財布や学生証等の会員証、何もかもがこの手のひらサイズの端末に入っている。個人情報の塊。もう一人の自分と例えてもいいほどだ。
似たような機能機種は他にもあり、手首型、眼鏡型などが一般的だが、それでも、このカードのような端末は最悪所持だけでもしていなければならない。
立体映像として浮き出てきたマップとライン引きされたルートは、私が今日歩いてきたルート履歴と自宅までの最短ルートの二種類だった。私の家はこの都会から二キロほど離れている。気まぐれとはいえ、外出するどころか、ここまでの長い距離を散歩したのは初めてだ。もちろん走ったことも。
ビル裏に無造作に置かれていた自転車や捨てられていた換気扇を横目に、ルート通り私は家に帰ろうとした。
歩いて数時間。ルート通りとはいいつつも寄り道を何度かしてきたので、予定帰宅時刻よりは大分遅くなっている。秋の肌寒い風が吹き、紅葉の街路樹は葉を擦り合わせる音を奏でる。マフラーでもしてくればよかった。
もうすぐ昼だ。家に着く頃に雨が降ってくるだろう。先程かいた汗が引いてきて、少し身震いをする。
街乗り用の公共自転車を無料レンタルしたいところだが、こういう時に限って見当たらないし、ルート近くにもない。バス停も同様、ルート沿いに隣接してないという運の悪さ。皮肉にもこの端末は私の運動不足解消に対して非常に良い貢献をしている。
しかし、エスカレーター付きの地下道を抜けたところで、私は違和感を覚える。
「……」
本当にこのルートで合っているのか?
この完璧主義時代、とまではいかないものの、技術の正確さ、精巧さは企業の書類契約よりも高く保証できる。特にこの国の科学技術・機械技術を疑う方がどうかしていると精神異常を訴えるほどだ。
それでも、私は疑った。ひねくれ者でも、精神異常者でも"断じてない"が、ちゃんと根拠はある。
私の方が正確だからだ。
「――っ、うそ、圏外?」
途端、端末が強制終了を表示し、私にネット接続エラーを告げた。つまりをいえば圏外である。
世界中のどこだって、特にこんな都会の中で圏外が起きるなんて普通はありえない。ありえないが、現に端末の液晶にはエラーアイコンが付いている。
あまり考えたくないが、故障かもしれない。ほぼ引き籠っていたし……いや関係ないか。
一番考えられるのは電波妨害だった。
外部と接続できない端末はほぼ使い物にならない。しかし一時的なものだろうと考えたが、先程の違和感はこれだけではなかった。
「……え」
不意に、不気味に思ったことがある。
静かだ。
端末から思わず顔を上げるその速さはゆっくりだった。違和感から確信に変わった瞬間。
肌寒かった風が感じない。地に転がっていた落葉も動いていない。
音が聞こえない。ヘッドホンから流れる音楽さえも、その振動すら感じない。
決して感覚が失ったわけではない。自分の呼吸は聞こえていた。心臓の鼓動の感覚はあった。
そして……人の気配がない。
人はいる。この目に見えている。
しかし、いる気がしない。
人に興味を失うと物と同然だと聞いたことがあったが、それでもこれはおかしい。
やっぱり自分の感覚がおかしくなっているのか。太陽の光でさえ眩しさを感じない。秋とはいえ、紫外線をこの目で全く感じないのも変な話だ。
同じ景色。しかし何かが違う。読めていた情景が読めなくなった焦燥感。理解していた世界が間違っていた困惑。
こうなった原因は不明。ドーパミンの過剰分泌による統合失調症、所謂ただの私の精神異常かもしれない。
あのときのように。
「……」
焦ってはいた。恐怖もあった。しかし、それ以上のことはない。気のせいだと信じて、私は頭に入っていた帰宅へのルートを敢えて端末の案内には従わずに、自分の思考のみで進もうとした。
『――』
無音に生じた複数の声。哄笑とは違う。しかし断続的呼気はある。クスクスと嘲笑に近い。
それは何処から聞こえたかもわからない。違う。耳元から聞こえた。思わず引き下がりながらきょろきょろと辺りを見回す。
誰もいない。
景色は相変わらず――ではなかった。
私を無視するように、関心の無いように歩いていた通行人が立ち止まり、全員が私を見ている。四方八方から視線を強く感じる。そこに熱などはない。とても冷たい。
見たことがあった。蔑み以上の何か。とても形容し難い嫌悪の目。
そう、あのときのみんなの目と一緒だ。
心が潰されそうだ。滲み出る冷や汗が気持ち悪い。
「……ちがう」
これは幻覚だ。勝手に私が思い込んでいるだけ。被害妄想が激しいだけ。この嘲る笑いも、ゴミでも見るかのような冷たい目も、この隔離された感覚も全部、私の妄想だ。
『――じゃあ、確かめてみる?』
「……え?」
子供の声だった。
今の声は何だったんだと考えた同時、辺りのモニターや自動車の窓、ビルの全面ガラスが一斉に粉砕した。多角形の結晶と化した複層ガラスは豪雨のようにアスファルトの大地に降り注ぐ。
思わず声を上げ、身を伏せてしまう。約千メートルも超えた高さから降り注ぐ雨粒よりは低い場所から降るとはいえ、避けようもないガラスの雨は液体の雨よりも重たく、冷たく、痛かった。
降り止み、辺りは雪よりも透明で煌びやかな結晶に覆われていた。私は屈んだ姿勢から起き上がり、突然の状況に困惑していた。ジャリ、と煌めきが撒き散らされた地面を踏む。
超音波? 空震? それとも……。
様々な仮説を立てようとも、突飛すぎて焦っている。これも妄想だと信じたいが、私を蔑んでいた目の群れは恐怖の色へと変わり、散乱していた。
高性能端末を見ても、腕につけていたリスト型の高性能携帯端末情報機もネット接続エラーどころか、起動すらしなかった。
「っ、なんで!」
叫び、冷静さも保っていられなくなる。
逃げなきゃ。ここから出たい。帰りたい!
当然、今のわけのわからない状況から脱却したかった。走ろうと硝子の砂漠に足を踏み込む。
class Hello
{
static Void main() { echo("Hello, Foolish WORLD!") }
}
001100100011010010001110010001100101011101111000100101001010110101001010101110010101010010110110010101001010100101010101011111001010010111001001011010000001011011110101001010110101001011001010101001101010010101010101000101001001010010000101010001001110101100101010000100101010010001010010100101010010100010100001111100101001001000100100101011010010101010100010001010101010100010001001001001010010100101001010101001010010
module imaginary EarthWork.if(transTGTUCTGTCUUTTCGTUCGTUTGGCGTUGCGTTGTCUTTUGTGUCGTGCUCGUGCTGTUGCTGUUUGTUGCTGUTUUTGUCGUTUUGTUCUTGGTUCGTUTGUUTCGTGGCCCGCGCUTUTCUTUGUC///makeKGMYDIKKMGYGYYDGDDGYGKMKGYDIIKMKKYGGDGDYGDMGYMDYKMGYDGYKMGYDIKMGYYKMKGYGDDGYGDMKKMGYKMDGYKMGYKDYDDDYKMKKKYKGGYKIIKMIKDGIKYMGYDGMKYGDKMMKMYGDGGYGDYKIKMGYIIKGYDGKMIKYKGDYDIMI)MoTher Ovary DinNerDInNerdiNNeR!
Dem,
*5413・28.:a=From wiesbaden.de01.b=Prop45832.⊃:ATOMAS:NO,SIGN*NNN=a+C1=bx+3y
*110.365.3110.45550:and *1220.123.472;Prop
5600 GOTO:3000
5792 :
5081 AEM Vector.Word//Owww.htps//%1%5%7%6%3%4%9%0%2%8%4%4%4%9%0%8%
5990 ARM
5102 AMM
5098 RER
5010 :
5823 PRINT"A1!K6!";
5330 W=E+2m:IF W<T THEN W=I+14
5734 FOR MEIEN TO 2:PRINT"ME"
5001 continue continue.:LET'S;Keep
5234 import quantum Data(1+M)
5098 import human Data(qCHCuPOFeFNZn)
5678 import Anti Us Base
5410 import We are Base Inter Matrix
5900 import Black Base Data
5800 import Unknown-NO DATA-SoRry MOther-Fandum
5724 nextfile(D5!G6!"See you People")
5888 data Network n=s2=MIN:Earth.:66703
5003 {sintrices::!(N.From(Open c)),!(T.Gean(Er=x)),#(over;or-PAX56)Unim}
5703 Artix-Inc![down],Who?You Meien Kanae![de]Isee O.K
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Emotion control progress:Fear phase 6 -> finished
exit(X=meien.KANAE);delete;See You!
「……っ!?」
網膜に染み込まれ、頭に流れ込んでくるプログラム言語と機械言語。いや、そんな規律正しいものではない。
それは無茶苦茶なものだった。人の考えた言語と機械の考えた言語を真似して乱暴に振り回している。まるで言語が成立していない。とても目を向けられない、赤子の興奮状態に等しかった。
それが大脳に侵食し、煩く響く。思わず立ち止まり、目を閉じても、耳を塞いでも、流れ込んでくる。処理しようもない、解読できない言語は処理機関に詰まり、パンクしそうになる。
ふと目を開けると、見たこともない数式が雨のように一定の速度で降ってきている。地面に染み込む記号。網膜に焼き付けられる回路基板模様の空間。しかし視界に映る正常な景色はまだ把握できる。
「なんなのよ……なんなのよ一体!」
これは私の頭の中だけの出来事。夢だ、夢に違いない。これも妄想だ。私の病気が原因なんだ。私は遅い足で再び走り続けようとした。
私の後ろから何かが飛んできた。一瞬だけ映った大きな影。強い風を感じる程の近距離で私の頭上を何かが通る。というよりは転がっていった。
「バス……?」
頭上を通り過ぎ、その巨躯を打ち付けるように正面先のアスファルト道路まで転がった一台のバス。塗装が剥がれ、底部が大きく凹んでいる。まるで大きな鉄球をぶつけたような凹みだった。
「嘘でしょ……」
いくら妄想でも、ゲーム脳でも、自分をここまで追い詰めるようなことは――。
金切り声。甲高い悲鳴のような音が傍で聞こえたとき、私の身体は宙に浮いていた。自由に浮かんでいたのならまだよかった。巨大な何かに轢かれたような衝撃。しかし突風に突き飛ばされるような物理的実感のなさ。浸透した衝撃は、骨髄を振動させ、血流を一時的に狂わせる。
金切り声は鳴き止まない。私を突き飛ばした正体も解らない。
角度がほぼないとはいえ、放物線状に飛ばされた私の身体は硝子の砂漠の結晶粒子を舞い上がらせながら転がる。ヘッドホン型の音楽プレーヤーが取れる。空地面空地面空地面空地面……目まぐるしく転換する景色に思考がついていかず、痛みと死だけを考えていた。
交差点の真ん中あたりで、やっとのことで転がる身体は止まる。粉末化されたガラスは皮膚を切り裂くことはなかった。
声が出なくなるほどの激痛……もなかった。
打撲のような痛みはあるものの、気を保っていられる程度だった。副腎皮質ホルモンが過剰分泌されているからか、と考えたが、私にとってそんなことはどうでもよかった。生きていること自体が奇跡だ。
何に接触したかはわからないが、衝突地点から十五メートル程飛ばされている。そこに車といったものはない。なにもなかった。
が、視界の先に一瞬だけ何かが見えた。透明のオーロラが大気中で揺らいだような空間変動。そう見えたということは、光の進路が直進ではなかったということ。
何かがいる。それは明らかだった。
しかしわからない。
「……っ」
乱れた呼吸。この息苦しさは何かおかしい。
動悸、息切れ、眩暈……空気が薄い。酸素濃度が少なくなっている。おそらく濃度は十八%ほど。高山にいるみたいだ。
そして重力が増したかのような動き辛さ。全身が錆びついたというよりは空気抵抗によるもの。その重たく感じる抵抗力は海の中にいるようだった。それでも網膜には無数の数列や機械言語が流れ込んでくる。
硝子の砂漠が吹き上がる。強い風、違う、衝撃波だ。しかし音波は聞こえないし、波面が垂直でも斜めでもない。膨張波を伴うような自然界の圧縮波でもない。通常として発生できる不連続変化ではないことは明らかだった。
地面やビルの中から破裂し、粉砕する様はどちらかといえば高圧窒素による圧縮ガスの破裂だと考えられたが、誰が何の為に道路やビルの内部に液体窒素を流し込んだというのか。
上空から衝撃波が生じて初めて、窒素ガスによるものでないと混乱した頭で理解できた。
強い圧力と風を感じるそれは先ほど私を吹き飛ばしたものと同じもの。それがあちこちで絶え間なく起きている。金切り声もこれによるものなのか。
「どうなってんの……これ……」
もう呆然とその光景を見るしかなかった。もはやその光景がスローモーションにさえ見える。
ゲームじゃない。これは現実。仮想だとしても、もう少し魅せるものがある。
ただ、球形に放射し拡散するショックウェーブのような気流が突発的に空間に発生しているだけ。ガラスの粉末や砕けたアスファルト、自動車やビルの片鱗が気流に従って舞い上がっているだけ。何かの高密度な大気成分が流れ込み、劇的な気圧の変化と酸素濃度が低下しただけ。網膜に記号と数字が分子配列のように巣を張っているだけ。
冷静に見ればそれだけのこと。しかし、そうなった理由は知る由もない。発生した波が私にぶつかり、立とうにも立てず、また先程の衝突を恐れていたため、動きようもなかった。この状況でさえも思考回路が廻ることに唯一の安堵と、苛立ちを覚えた。
しかし、それが続くはずもなく、酸素欠乏の脳は、もう考えることもできなかった。眩暈が起き、崩壊しかけた世界を映す視界は朧げに静まっていく。
「ったく……いつか来ると思ってたけど、ちょっとタイミングってものがあるだろ」
「え……っ」
後ろから声が聞こえた。
正常な若い男性の声。シャリ、シャリ……と、硝子の砂漠を歩いてくる音が近づいてくる。朦朧としていた意識が僅かに帰ってくる。
「ここまで簡単に領域に迷い込むのもそういない。運がいいなアンタ」
聞いたことがあったけど、知らない声質。でも記憶には鮮明に残っている。最近――今日だ。
私はへたり込んだまま、振り返る。
黒い革ジャンに白いアンダー、チェーンのついたジーンズ、高身長でツンツンとした黒い髪。
一瞬だけ誰だと思ったが、ハッと思い出した。
「……あ! あんたはあの時のチャラ男!」
指さして私は声を上げてしまった。男は苦笑交じりに顔を引きつった。
「なんだよその呼び名……俺そんな風に見えたのかよ」
よかった。この際チャラ男でもなんでもいい。この金切り声しか聞こえない、誰もいない異常空間に同じ人間がいるだけでも大分違う。崩れそうになった精神が元に戻りつつあった。
「そんなことよりもアレ! あの衝撃波の嵐は何なの!? あの浮かんでいる訳わからない文字羅列は何!? そんな余裕な顔してんだから何か知ってるんでしょ!」
酸素濃度がさらに低下したのか、頭痛が激しくなり、吐き気が生じる。私の顔はおそらく蒼白に染まっていることだろう。失神するのも時間の問題だ。
息苦しくも堪え、少しきつく訊いてしまったが、男は「まったく知らんというわけでもねぇけど」と目の前の光景を見る。
いや、というかこの男も見えているの?
「灯台下暗しって言葉知ってるか」
「……は?」
突然何をいっているんだこのチャラ男は。私のすぐそこに原因……まさか私に問題があるとでもいうのかこの男は。
私の青白い顔色を窺った男は察したのか、何の表情も変えることなく、
「気づけたなら、覚悟はできてるよな」
私の眉間に拳銃を向け、
「――え」
撃った。