イチニチメ 1時間目
1時間目。体育。
いきなりの運動に、正直気が滅入る。
「はい、じゃあ早速始めるぞ。グラウンド10周!!早くしろ!!」
マジかよ...
「ねえ、君。」
走っていると、髪が薄茶色の爽やかな好青年っぽい奴に声をかけられる。
「なんですか」
「そんなブスっとしないでよ~」
ずっとにこにこしているな、こいつ
「まず名乗らせてね。僕は澤田 翔太。2-Cの学級委員長なんだ。よろしく~」
「はあ...」
あいまいに返事をする。
「でさ、狩野君はなんでこの町に来たの?」
「...」
理由。それは__
「まあ、事情があるだろうけどさ、」
澤田が続ける。
「気楽にいきなよ。なんてったってここは、2-Cなんだからさ^^」
そう言うと澤田は俺を追い越していった。
気楽に...か。
__俺に気楽なんて、一生訪れやしないだろうな。
うぇっ...なんか、気持ち悪りぃ...
座り込んでしまった俺の肩を支える...誰だ...
「アンタナンテ、生マレテコナクテヨカッタ。」
「アンタガ存在スルコトデ、ドレダケノ人ガ苦シンデイルカ分カル?」
「ネエ、何デ死ナナイノ?」
「早ク死ンデヨ、ゴミ。」
「...っはっ!」
今となっては懐かしい、あの夢を見た。
__あの『悪夢』を。
「大丈夫ですか?汗びっしょりですよ?」
いきなり現れた女子。
「っうわっ!?」
動揺してしまう。
制服を着ているから、この学校の生徒なのは確かだ。
しかし、こんな顔、見ていない。
「あ、すみません。つい...」
そう言ってはにかむ女子。
...何を謝っているのかは、よくわからないが。
ここはどうやら、保健室らしい。
そして、カーテンで隔離されているベッドに、俺は寝ていた。
おそらく、あのまま倒れて、運ばれたんだろう。
目の前にいる女子も、めっきり喋らなくなってしまい、沈黙が流れる。
「俺は狩野 龍牙。君は?」
たまらず沈黙を破る。
「へっ!?あ、ええと...鹿野 美菜穂と言います...」
...同じ読みの苗字なのか。
「クラスはどこなんだ?」
「...2-C...です...」
「え?僕も2-Cだけど...?」
鹿野美菜穂なんていなかった。
「う、ううっ..す、すみませんっ!!」ダッ
そのままカーテンの後ろに消えていってしまった。
「あ、狩野君、目、覚めた?」
今度は女性が現れた。
「は、はあ。」
誰だこの人。
「あ、ゴメンゴメン~誰か分かんないよね~私は保健室の先生。樋口です~」
えらく能天気そうな樋口先生は、俺のことはお構いなしに語りだした。
「さっきはびっくりした?美菜穂はねぇ、ちょっと今は教室にはいかないの。」
「...なんでですか」
「美菜穂は持病がひどくて、さらにイジメられっ子でね。今は休戦中なの。だから、保健室にきてるの。よく手伝ってくれて、先生助かっちゃってるんだ~」
イジメられっ子...か。
__俺によく似てるな。
「狩野君、仲良くしてあげてね。」
「はあ。」
キーンコーンカーンコーン
「あ、1時間目終わったね。上がれる?」
「はい。大丈夫です。」
「いつでもきてね~」
保健室にいつも来るのはダメだと思うが。
そう思いながらも、俺は、保健室を出た。そのとき
「...また来てね!」
鹿野が小さい声で言う。
「おう。」
俺もそう返事した。