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【第十六話】 世界を作り出した者たち


 世界最先端の何かを手に入れたいと思ったら、人々の行く先は必然的に帝都になる。

 最先端の技術を駆使した乗り物が走り、数秒で遠くの相手とやりとりできる通信端末が街のあちこちに設置され、お金さえあればそれらの持ち運び可能なものも手に入る。


 しかし、そんな科学の恩恵を受けられるのは都会の人間に限られる。

 田舎に住む人間の多くは皆、帝都の人間から一〇〇年遅れた生活をしている。

 都会から離れれば離れるほどその生活は自然に回帰する。

 それが世の中のセオリーだ。

 

しかし、今キトラの目の前にあるのはその定説を覆すとんでもないものだった。

 暗い洞窟の中で点滅する光源。

 ぼんやりと浮かび上がったその「装置」は、原始の森の真ん中にあるものと言うにはあまりにも似つかわしくないものだった。


「これが何だかわかるかね?」


 エオンは言った。

 プラジアーナもキトラも首を振った。


「分からないだろうね。まぁ、分かっちゃ困る。アタシたちの先祖は、これを一族以外には見せないように受け継いできたんだから」

「何のために?」

「これはね、アタシ達にとって神様なんだよ」


 エオンはそんな風に説明した。


「アンタたちも先祖の霊をお社や祭壇に祀ったりしているだろう。それと一緒だと思えばいい。だからこれに触れるのは、アーガの中でも特別な人間だけだ。『頭の悪い奴ら』はここへ入るのを許されていない」


 周りを見ると、さっきまで一緒にいたアーガ族の老人たちは一緒に来ていなかった。

 エオンの言う「頭の悪い奴ら」は恐らく、外の言語を理解しない者たちの事だろう。

 いつかユピテルが言っていたように、アーガの中ではそうした能力差が明確な身分になっているようだった。


「じゃあ、アンタ達にアーガの神様を少しだけ見せてやろうね」


 エオンはそう言うと、鳥の羽を束ねたもので四角い装置を丁寧に清め、オモンが大きな貝殻の中に入れて持ってきた水で手を洗った。

 その手をさらに強い匂いのする木の葉で清め、完全に穢れのない状態にする。

 この装置は一族の神であり、精密機器。

 いずれにせよ、汚い手で触ってはならないのだ。


「この世界は、真っ暗な宇宙に浮かぶ丸い大きな惑星。その周りを、月が回ってる。それはわかるかい」


 一通りの準備ができると、エオンはまずそんな話から始めた。

 子供の頃に習う基本的な天文学の話だ。

 キトラも他の者たちも当然同じように頷いた。


「はい。分かります」

「じゃあ、月には何がある?」


 エオンはキトラの方を見た。

 何だか、小学生の頃の授業に戻ったような質問。

 何と答えたらいいか分からず、キトラは無難な答えを選んだ。


「何って……クレーターとか」

「おや。月の人間が住んでるとは言わないんだね」

「それはおとぎ話ですから」


 キトラが真面目に答えると、周りの者たちが噴出した。

 エオンもクックッと喉の奥で音を立てる。

 何だか雰囲気も小学校の教室の中のような感じになってきた。

 

「おとぎ話ね。そうだろう。でもね、こう考えてごらん。そのおとぎ話はどこから来たんだい?」

「さぁ。誰かが作ったとか」

「その誰かは、話をゼロから作ったのかい? 何の話も元にしないで」

「それは、分からないですけど」

「ゼロから作る話もあるだろうね。母親が寝る前に子供に聞かせてやる話なんかはそうさ。でもね、そうじゃないのもある」


 エオンはそう言うと、装置の上の方に指先で触れた。

 すると、大きな機械音がして、洞窟の中に生暖かい風が吹き抜けた。

 目の前がパッと明るくなる。

 そこにあったのは、光を放つ大きな板――――「画面」だった。


「大きな通信端末みたいですね」

「さぁ。でも、アンタたちが知ってるものじゃないよ、多分」

「これは一体何なんですか?」

「さぁて、待ってな。口で説明するより見てもらった方が良い」


 画面は黄色っぽい色から青に変わり、その表面に様々な図柄が現れた。

 最新式の通信端末を前にすると、老人は往々にしてうろたえる。

 孫や周りの若者に説明させ、「えっ? えっ?」と言いながらとんちんかんな操作と同じ質問を繰り返す。

 それでも結局理解できずに結局全部誰かにやってもらう。

 そんな光景が常だ。

 しかし、エオンはこの訳の分からない装置を前に、何の迷いもなく手を動かしている。

 思わずキトラが「おばあちゃんなのにすごいね」と傍らのオモンに言うと、彼女は逆に変な顔をした。


「昔からいる者が詳しくて何がおかしい?」

「いや、オレ達の感覚だと、お年寄りは機械に弱いイメージがあるからさ」

「それは新しいものに馴染めないだけだろう。年寄りは物知りなものだ」

「ああ、そうか、君たちにとってはそうだよね。この機械は、君たちがここで生まれるずっとずっと昔からあるんだし」

「エオンは前の前の族長の連れ合い。だから偉い。何でもできる」


 前族長のシーガルテルはまだ十分に若いうちに亡くなった。

 だから、前々族長の妻エオンは最近まで彼の補佐的役割をしていたのだという。

 キトラが見てもちんぷんかんぷんなこの複雑な装置をいじるのもお手の物と言うわけだ。

 画面にはキトラ達の読むことのできないよく分からない文字が出ては消えた。

 アーガ族曰く、この世界を作ったものたちが使っていた文字。

 エオンはそれをすらすらと読み解き、次の操作へと進んでいく。

 そして、十分ほどしてようやく彼女の手が止まった。


「ええと、こいつだね」


 青い画面いっぱいに散らばった小さな絵表示。

 それらは家、鳥、人間、星や、その他よく分からない図形などを図示しており、その下に何か文字が書かれていた。

 エオンは目を凝らし、その文字を読んだ。

 一番端の絵を選んで指先で叩く。

 すると、画面に黒い四角が現れた。

 それをもう一度指で叩くと、その四角が画面いっぱいに広がる。

 そして、何かの文字表示が現れ、消える。

 同時に、画面いっぱいに青くて丸いものが映った。


「ほうら出た。ごらんよ」


 エオンはキトラ達の方を振り返った。

 そして、ぽかんと間の抜けた顔をする若者たちの顔を見て笑って見せた。

 皆、それが何なのか分からずに言葉を失っていた。


「何だと思う?」

「分かり……ません」

「これはね、この星なんだよ。アタシ達が住んでる、このちっぽけな星さ」

「星?」

「アタシ達が神様として扱ってるこれはね、ものすごく複雑な仕組みで月にある同じ四角いのと繋がってるのさ。そうして――――」


 エオンは黒い爪先で画面をコンコンと叩いた。


「そいつが月で見てる景色がこれさ。どうだい、きれいだろう」

 

 現在、最新の天文技術によりその姿が判明しているのは、月と太陽、そしてこの星の周りにある二十ほどの星である。

 それらは全て、地上にある高性能の天体望遠鏡により観測され、学者により研究結果として発表されたものだ。

 しかし、今まで星の外からこの星を見た者はいない。

 この世界の人間はまだ、宇宙に飛び立つ術を持たないのだ。


 画面に浮かぶ巨大な青い球体は、まるで大きな水の玉のように見えた。

 水の中にはミルクが混じり、渦をつくっては拡散して消え、また集まっては白く渦を作る。

 恐らくは、それが空を漂う雲なのだ。

 その底に沈み、ゆっくりと回るのが今自分たちが立つこの大陸。

 これがこの星の姿。

 キトラが呆然となっていると、テェアヘペロがぽつりと言葉を発した。


「これはまさしく、二代前の皇帝陛下が計画していた『軍事衛星』そのものだ」

「グンジエイセイ?」

「人の手で作られた人工の星を飛ばして、そこから地上を見るための装置だよ。あれは技術的に無理があると言われていたのに、どうしてここにこんなものが……」

「これが作られたのはうんと昔の事。この森が誕生し、アタシ達アーガの一族が住み始める前の事さ」


 装置をいじっていて足腰が疲れたのだろうか。

 エオンは傍に転がっていた大きな石に腰掛け、静かに語り始めた。

 アーガ族の言い伝えは、南州王家に伝わる歴史とよく似ていた。

 彼らにとってのこの世界は、とある一族がこの星にやってきたところから始まった。

 その一族は今はない遠い星に暮らす異星人――――アーガ族の言い伝えによれば、ルーデンス族の祖先であった。


「その頃のこの星は、草木も生えず、雨も降らない死んだ星だった。夜が来れば凍るように寒く、朝が来れば焼けるように暑かったというよ」

 

 生き物の住めないこの星に、異星人たちはまず「空」をつくった。

 そして、その空の下に北の大森林の元となる「森」をつくった。

 森ができると空に雲を浮かべ、最初の雨を降らせた。

 優しい雨に打たれ、森は少しずつ大きくなった。


「雨は森を育て、さらに『海』をつくった。森や海ができれば、そこで動物たちが生きられる。動物たちが生きられるなら、次に人が生きられるようになる」


 そうやって長い年月をかけ、星は命に溢れていった。

 アーガ族はその星に初めて送り込まれた一族であり、その頃から森に住んでいた。

 そして徐々に数を増やし、森を守る守り人となった。


「アタシ達の種族、『アーガ』はその時のリーダーの名だ」


 アーガは今のアーガ族と違い、女の長であった。

 彼女は一族全部の母として彼らを守り、森と如何にして共存していくかを教えた。

 そしてその教えはアーガ族の掟として語り継がれ、現代のアーガ族もその教えを守って生きている。

 エオンはそう語った。


「初代アーガとその仲間五人は、この星に生きられるように作られた一族だった。そして、他のピスカ、クウォール、セピア、ダーガーンの一族も同じ。ルーデンスの祖先によってこの星に送られた。何ていうかね、分かりやすく言えば、人工の生き物だったわけさ」

「そんな話は、信じられん」


 エオンの傍らで食い入るように画面を見つめていたエクウスが眉をひそめた。

 ここに来てからエオンに見せられ、語られたアーガ族の秘密。

 しかしそれを知ってもなお、エクウスにはエオンの話に納得がいかないようだった。


「ルーデンスの祖先が他の種族をつくっただと? どうやってそんな事ができたんだ?

 私はあまり勉強していないが、生き物は長い長い時間をかけて少しずつ進化するもののはずだ。誰かの手で簡単に造り出せるわけがない」

「オレも、そう思うな」

 バウアーも頷いた。

 彼もまた、そこまで高い学歴があるわけではない。

 しかし、世の中の「常識」くらいは心得ていた。


「科学院に勤めていた奴の話を聞いたことがある。今まで何人もの学者が人工で生命を生み出そうとしたけど、成功した奴は誰もいないらしいぜ」

「それは『今の』話さね」


 エオンはきっぱりと言った。

 今まで誰も知らなかったこの世界の「過去」を知るエオン。

 彼女は、現代人の常識では語ることのできない、別次元の概念で話をしていた。


「アタシがしてるのは、アンタたちの頭じゃとても追いつかないくらいの昔々の話だとお思い。その頃の技術はもう、何万年もの昔になくなっちまったんだよ。この世界の中に、僅かな『痕跡』を残すばっかりになってね」

「痕跡って?」

「分かるだろう。それがこの四角いのと、そいつさ」


 皺皺のエオンの指が示したのは、プラジアーナの腕だった。

 そこにはめられた銀の腕輪。

 そして「J‐3000」の表記。

 ここに来て、その正体がエオンの口から明らかになった。


「それは、アンタがこの星に初めてやってきた最初のピスカ族の長、『ピスキアーナ』の子孫であることを示すものなんだ。代々娘たちに受け継がれて、アンタがちょうど三〇〇〇番目の娘って事さ」

「お婆ちゃん、そのピスキアーナってもしかして……私たちがあの王墓から見つけた、王様のミイラなの?」

「そうよ」


 応えたのはオモンだった。

 オモンは腕に巻かれた動物の皮のブレスレットを外した。

 その下には、皮膚の上に傷をつくり、それを盛り上げて作られた「瘢痕〈はんこん〉」。

 プラジアーナと同じ文字数の、「J‐2991」の表記がその傷跡によって記されていた。


「これは、私が大人になる儀式を終えたときに母が付けたもの。代々、族長の血を継ぐ一番上の娘がこの印を継いでいるの。だから、本当は私じゃなかったはずなんだけど」


 オモンはそう言って悲しげな眼でエクウスを見た。

 エクウスは何も言わず、黙って目を伏せた。

 族長の娘の証であるそれはアーガ族においてその権力を示す。

 もしもエクウスが一族の外に出されなければ、彼女は今のオモンの立場に立っていた事だろう。


「同じものは、恐らく他の種族にもあるんじゃないかねぇ」


 姉妹の間に流れる気まずい空気に割って入るようにエオンが口を開いた。


「アタシ達にはこういう輪っかをつける習慣はないけど、外の者は逆に肌に傷を入れるのを嫌うだろう。だからなんか石だとか木だとか、そういうものにこの文字を付けて持ってるんじゃないかい?」

「確かにオレ、見ました」


 キトラは声を上げた。

 次期皇帝の皇女ノヴァ。

 幼い彼女の腕にも銀の腕輪とその文字はあった。

 するとプラジアーナが「私も」と口に出した。


「南州陸軍のミイレン大佐……あの人も同じのを持ってるのを見せてもらったの」

「ミイレン大佐が?」

「キトラとバウアーには黙ってて悪かったんだけど、ロロ副都心で二泊した時にミイレン大佐が内緒で私を呼び出して、この腕輪の話をしたの」


 彼女は南州の州都でセピア族のミイラにある腕輪を見て、その謎について興味を持っていた。

 そしてミイレンはプラジアーナと、他にも同じ腕輪を持つ者がいないかどうか調べてみる約束をしたという。

 ピスカ族のプラジアーナ、ルーデンス族のノヴァ、セピア族のミイレン、そしてアーガ族のオモン。

 彼女らがそれぞれ同じ文字と番号を持つという事は、他のクウォール族やダーガーン族にも同じものを持つ娘がいる可能性は確かにある。

 しかし、何故その事実をアーガ族だけが知っているのだろうか。

 キトラには改めてそんな疑問が浮かんできた。


「エオンさん、アーガ族って、一体何なんですか?」

「何だって、何さ」

「オレ達にとって、あなた達は謎が多い一族なんです。一見すると、ただ森を大事にする、自然と共に生きる一族にしか見えないけれど、こうして実際にここに来てみると、全く違ってる」


 一族の名誉を傷つけるような言い方にならないよう、キトラは慎重に言葉を選んだ。


「エオンさんはあなたたちの仕事を『世界のなりたち』を語り継ぐことだって言ってましたよね。その事をもう少し詳しく知りたいんです」

「アンタ、なんだか前に来たルーデンス族によく似てるね」


 エオンは立ち上がり、再びあの装置の傍に立った。

 前に来たルーデンス族とは、もしや。

 キトラがそう思っていると、エオンはやはりキトラの知っている名を口にした。


「名前は確か、ニトーって言ったかね」

「昔、あなた方の森を訪れた人ですね。その人は、オレの先生の先生です」

「ふむ。やっぱりそうかい」


 皺皺の黒い指が画面を叩く。

 星の映像が消え、再びあの青い画面に戻った。


「ニトーはまだ生きてるのかい?」

「いいえ。もう既にお亡くなりになっています」

「だろうね。アタシと会ったときにはもう結構な年だった」


 今度は何をしようとしているのだろうか。

 画面は暗くなり、エオンはそれをじっと見つめていた。

待機の状態になったようだ。


「ニトーが来たころはアタシの旦那が族長だったからね。あの人が厳しくてろくに何も教えられなかったけど、ニトーは最後まで結構しつこかったねぇ」

「先生の書いた本、少しだけど読みました。ニトー先生にアーガ族の事を教えたのは、エオンさんなんですか?」

「まぁ、そういうことになるかねぇ」


 エオンは懐かしそうな眼をした。

 警戒心の強いアーガ族と心を通わせ、ニトーは一年もの間その集落に滞在した。

 その時のことを、エオンはよく覚えていた。


「ニトーはまだ族長見習いだったシーガルテルに外の事をいろいろ教えてくれたからね。こっちからも何かお返ししなきゃ悪いじゃないか」

「お返し?」

「アーガの一族はね、生まれたときからこう教えられる。『もらったものは返せ、された事はし返せ』ってね」


 もらったものは返せ、とは相手から何か良い事をしてもらったらちゃんと礼をしろという意味。

 逆に、された事はし返せ、とはやられっぱなしにならず、相手から何かこちらの不利益になるようなことをされれば自分も報復せよという事だ。


「だから、アタシはあの人がいる間、旦那の目を盗んでアーガの一族の事を教えた。子供たちがどんなふうに育って、その中からどんな者が一族の中心になってくのか。男たちがどんな訓練を受けて、どうやって戦士になるのか。女たちは毎日何をしてるのか、どうやって一族に尽くすのか」


 ニトーはそれらを克明に記録した。

 その真剣な様子に、エオンも次第に信頼感を覚えていった。

 この男はアーガの一族を理解しようとしてくれている。

 そして、外の世界に伝えてくれようとしている。


 エオンはそう思い、彼に問うた。

 これからのアーガ族はどうあるべきなのか、と。


「アタシとシーガルテルはニトーをここへ連れて来た。ここにこれがあるって事を、他の種族にも伝えるべきかどうか聞いたんだ」

「先生は何と?」

「これは外に出してはいけないって言ったよ」


 ニトーはエオンに見せられた装置の前で首を振った。

 これは重大な事実だ。

 それは分かる。

 だが、この事実は外に出すべき事実ではない。

 この世界が人為的に造られた事。

 世界にいる大半の人種が人工生命体である事。

 それを受け入れられる者はいいだろう。

 だが、受け入れられない者も大勢いる。

 彼らは混乱するだろう。自分の存在を否定されたように思う者もいるかもしれない。

 そうなれば、確実に混乱が起きる。


 だから、自分はこれを見なかったことにする。

 このまま、アーガ族の穏やかで静かな日常だけを持って帰る。

 ニトーはそう言って森を去った。


「アタシ達は『世界の本当の姿』を外の人間に見せるべきではない。ニトーはそう言った。その後すぐ、アタシの旦那が死んでシーガルテルが族長になった。あの子はニトーの言うとおりにしたよ。だから、ニトー以外じゃアンタ達がこれを見せた最初の外の人間さ」


 キトラは言葉が出なかった。

 ニトーの選択は正しいと思った。

 プラジアーナはさっきからあの腕輪をぎゅっと片手で握りしめ、考え込んでいる。

 テェアヘペロもバウアーも複雑な表情だ。

 自分がどこから来たのか。

 どうやって生み出された生命なのか。

 その事実は、否応なく自分自身の根源に響く。


 ニトーの書いた本にはアーガ族が『創生の秘密』を継いでいるとのみ記されていた。

 それは、ニトーが本の中に隠したメッセージだったのだ。

 知りたいなら、アーガ族に会ってこい。

 そして、彼らの口から真実を知ってこい。

 彼はそうやって、世界の始まりに興味を持つ人間にのみアーガ族の森へと続く道を残した。


 皇帝はそれを見て、本が世界に流通する事を禁じた。

 恐らく、その本を見てニトーの思いに気づいたのだ。

そして、誰かが『創生の秘密』に興味を持ってしまう事を恐れたのだ。

 キトラ自身も衝撃を受けていた。

 だが、ここまで知ってしまったならもう最後まで見たい。

 その気持ちは、他の仲間も同じのようだった。


「それで……話は戻るんですが、アゴラテル殿が各地を戦士に襲わせた理由の事です」


 テェアヘペロが口を開いた。


「我々はずっと、アーガ族が爆発の原因を外の人間のせいだと思って報復をしているんだと思っていました。しかしエオン、あなたの話を聞いた後では何だか違うように思えてくる」

「うん。結論から言うとそうだね」


 エオンは頷いた。

 爆発は心無い外の人間が己の私利私欲のためにやったこと。

 アーガ族は当初、その結論の下に外の集落を襲うような行動に出たのだ。


「アタシ達だって初めはまたアンタたちの皇帝が酷い事をさせてるんだって本気で思ってた。復讐してやらなきゃってね。けど、戦士たちがあのミイラを、『六族の王』を持ち帰ってから話は変わった」

「アゴラテル殿は、どうしてミイラを集めさせているのですか?」

「それについては全く分からないよ。アタシ達だって、まさか初代の王がミイラになって残ってるなんて思わなかったもの。一体全体、どこであんなものがあるなんて知ったのか」

「一番初めに見つかったミイラは何族なのですか?」

「そこにいる子のご先祖様、ピスキアーナ様のだね。六つの翼がついた美しいご遺体だった。持ってきたのは確か……ルケンテルだ」


 ルケンテル。

 それはユピテルを殺し、ハシダテ集落のミイラを奪って逃げたあのアーガ族だ。

 最初がピスキアーナのミイラならば、アゴラテルはあのミイラをきっかけに「六族の王」の存在を知った可能性がある。

 だとすれば、アゴラテルの目的が当初の「報復」から「六族の王の捜索」へと途中で変わった可能性もある。

 もしや、そのきっかけを作ったのは自分たちなのではないか。

 キトラがそう思っていると、隣でバウアーが声を上げた。


「なんにせよ、向こうに直接聞くしかないよな。ミイラを奪った目的を確かめるにせよ、乱暴行為を止めるにせよ、もうそれしかない」

「やっぱり、そういうことになるかねぇ」


 エオンはため息をついた。

 出ていった者たちには接触したくない。

 そんな様子だった。

 

「実はね……アゴラテルたちはここを出ていく前、これ以上外の種族に手を出すなと言った賢い大人たちを何人も殺したんだ。理不尽に逆上して、暴れまわってね」

「族長が自分の仲間を……? そんな事が許されるのですか?」

「アーガの掟さ。誰も族長には逆らえない。挙句の果てに、アゴラテルはアタシ達全員亡き者にするとまで言い出してね。それをこの子が止めたのさ」

 

 オモンはその時のことを思い出したくないのか、黙って唇を噛んでいた。

 暴挙に出た父親をオモンは身体を張って止めた。

 もしも仲間を殺すなら自分を最初に殺せ。

 でなければ無念のままに死ななければならない仲間のために自害する、と。

 そう言って立ちはだかった娘に、流石のアゴラテルも手が出せなかった。


 族長による大量虐殺の危機は、一族の分断という形をとることで何とか防がれたのだ。

 もし、キトラ達が行けばアゴラテルは間違いなく乱暴な手で向かってくるだろう。

そうエオンは言った。


「アタシは正直、アゴラテルの気が済むまで待つしかないと思ってる。自分のやってることがおかしいって気づいて、ここに戻ってくるまでね」

「でも、そんなのいつになるか分からない!」


 オモンが声を上げた。

 彼女の唇は震えていた。

 今にも泣き出しそうな顔だった。


「アゴラテルに無理やり連れてかれた仲間だってたくさんいる! 乱暴な戦士たちに、弱い女たちが傷つけられてるかもしれない!」

「アンタは、自分の父親とこれ以上争いたいのかい?」


 エオンはオモンを悲しげな眼で見た。


「向こうにはアンタの母親や兄や弟だっている。家族と戦うことになるかもしれないんだよ?」

「だけど! このままなんて耐えられない! アーガ族は、いつだって一つだった! それがこんな事で……!」

「エオン」


 エクウスが二人の間に割って入った。

 そして、感情的になった二人を落ち着かせるように穏やかな口調で言った。


「私は北州の軍の人間だ。頭に血が上ったゲリラ兵と停戦の交渉をした経験もある。危険を感じたらすぐに撤退する。エオン、向こうの人間と話だけでもさせてくれないか」

「アンタがかい?」

「オモンはここのトップみたいなものなんだろう? 傷つけないように、この子は私が守る」

「でも、アンタは……」

「アゴラテルに会ってみたいんだ。この一族の族長だっていう、私の父親に」


 エクウスはハッキリとした声でそう言った。

そんな彼女の言葉に驚いた様子で、エオンは黙って目を伏せた。

 どうしたものか。

 答えはすぐには出せない様子だった。

 三人のそんな様子を見て、テェアヘペロが暫く考える時間を取ろうと言い出した。


「焦って動くとよくないですから、今夜一晩じっくり考えましょう。オモン、我々に今晩ここで過ごす許可をいただけますか?」

「もちろんだ。大事な客人として歓迎しよう」

「ありがとう。じゃあとりあえず、ノヴァ皇女とネイリア陛下からお預かりしてきたプレゼントがあるのでそれを……」


 煮詰まってしまうと物事の方針はまとまらない。

 テェアヘペロはそんな空気を察したらしい。

 大事な会議には、時として途中で頭を冷やす休憩時間も必要なのだ。


 その夜、キトラ達は戦士たちが使っていたという洞窟に案内された。

 自然の洞窟の床に乾いた草が分厚く敷き詰められ、その上に樹木の繊維を織って作られた布が敷いてある。

 森の中は温かいため、寝るためにはそれで十分なのだ。

 プラジアとエクウスは女や子供たちのいる洞窟に連れて行かれた。

 一族の衣食住は基本的に男女別々。

 食事も用意されたものを別々に食べるように言われた。


「はぁ……何か緊張した」


 バウアーは男三人だけになると、すぐに横になってしまった。

 自分の世界が変わってい舞う様な難しい話の連続に、アーガ族の中に起きている問題。

 今日一日で、すっかりくたびれた様子だった。


「それになぁんか、すごいアウェーな感じなんだもんな。みんなめちゃめちゃ警戒してるし」

「仕方ないよ。他の種族とほとんど会ったことない人たちなんだもん」

「そういや、キトラとプラジアが言ってたナントカ先生ってアーガ族なんだっけ?」

「ああ、うん、ユピテル先生ね。ここに来る前に亡くなっちゃったんだけど」

「男?」

「そうだけど、何で?」

「いやさ、アーガ族の女の人ってけっこういいな、って思って」

「へ?」


 キトラが振り返ると、バウアーは天井を向いたまま一人でニヤニヤしていた。

 ここには女の目が無い。

 それをいいことに、何だかいろいろ言い始めた。


「オレ、グラマーで色黒めのオンナが好みなんだよね。あとなんか開放的でワイルドな感じっていうか」

「バウアー、エクウスのカッコ見て文句言ってなかったっけ?」

「あいつ、あからさまに下品じゃん。オンナなのに下ネタ言い放題だし。そーじゃなくてあの、オモンさんみたいな清楚な子よ」

「……違いがよく分からないんですが」

「僕はプラジアみたいな子が好みかなぁ」


 二人で話していると、テェアヘペロが会話に入ってきた。

 淡白な面もあるが、彼も男。

 こういう話には興味津々のようだった。


「元気だし、明るいし、優しいし。ああいう子と付き合ったら楽しいだろうな。ねぇ、キトラ?」

「うーん……。テェアヘペロって、クウォールとルーデンスのハーフだよね? クウォールの女の子とか好きになったりしないの?」

「二人くらい付き合ったことあるよ。でも、他の種族と比べるとちょっと面倒くさいんだ」

「何で?」

「他の女の子だとメイクと髪だけで済むけど、クウォールの女の子って毎朝全身の毛をセットしてから出かけるんだよ」

「うわぁ」

「オシャレな子だと整髪料で巻いたりして毎朝最低でも三時間。デート中でもトイレ行くたびに毛のセットをして出て来るから一時間戻ってこない子とかいてさ」

「それはキツイかもね……」

 

 キトラは大学で全身の毛にパーマをかけたり、逆に縮毛強制をかけてサラサラにしている女のクウォール族を何人も見ていた。

 毛の手入れが大変そうだとは思っていたが、実際にそうらしい。

 それに付き合いきれないテェアヘペロの恋愛対象は専ら自分と同じハーフか他の種族。

 今はプラジアーナにかなり興味を示しているようだった。


「プラジアって、キトラと付き合ってるわけじゃないんだよね?」

「あ、うん、まぁ、そんな関係では……ないけど」

「じゃあ、僕がもらっちゃおうかな。一緒にいる間に口説いて、ついでに中央政府にもスカウトしようっと」


 テェアヘペロは実に軽々しくそんな事を言いだした。

 キトラの胸には、俄かに穏やかならざる感情が湧いてきた。

 プラジアーナと知り合って、まだ僅かな時間しか経っていない。

 他人が何かアクションを起こしたとしても、嫉妬する筋合いはないほどの浅い仲だ。

 だが、キトラはそれでもテェアヘペロがこのままプラジアに接近するのに無関心でいられそうになかった。


「でも、今はそんな事を話してる場合じゃないよ」


 話題を逸らすようにそう言って、キトラは背中に背負っていた双剣を降ろした。

 アゴラテルと接触するか、どうするか。

 それ如何によっては彼らと一戦交えなければいけない事態も想定される。

 今夜のうちにその対策を考えておかなければならないのだ。


「エオン達も、仲間同士で傷つけ合うのは避けたいと思ってる。でも、向こうはかなり狂暴化してるみたいだよね」

「僕たちが森に入ったことも、よく思わないかもしれないしね」


 テェアヘペロが頷いた。


「キトラはハシダテ集落でルケンテルっていうアーガ族の戦士と接触してるし、バウアーもコゴミで実際に戦ってるから、顔を覚えられてる可能性が高い」

「うん。プラジアの事に関しても、かなり警戒してるだろうしね。こっちの人にも、かなり話題になってたし」

「なぁ、皇帝陛下に相談してみたらいいんじゃないか?」


 横で寝転がっていたバウアーが不意に思いついた様子で顔をこちらに向けた。


「オレ寝てて話ししなかったけど、めちゃくちゃ気さくな人らしいじゃん。キトラの話だと、『いつでも相談して来い』って言ってたんだろ?」

「いや……それはどうだろう。ねぇ、テェアヘペロ」

「うーん、確かにちょっと緊張するなぁ」


 テェアヘペロはポリポリと頭を掻いた。

 傍らには通信機があり、皇帝ガイオスの直通番号も登録済みだ。

 確かに彼に相談すれば、いい知恵も持っているだろうし、話も早い。

 しかし、相手はこの世界の頂点に立つ男。

 キトラもテェアヘペロも思わず身構えてしまった。


「いつでもって言われてもねぇ。ノヴァ様みたいにいきなり連絡取れる立場の方だったらいいんだろうけど、僕は一介の軍人だし」

「怖いよねぇ……」

「何だよ、二人ともビビりだなぁ。『現地から報告があります』みたいな感じで話すりゃいいじゃねえか。向こうもこっちがどうなってるかきっと気にしてるぜ?」

「うーん、確かに」

「ほらほら、さっさとしろよテェアヘペロ! 早くしねえと陛下寝ちまうぞ?」


 バウアーに促され、テェアヘペロはしぶしぶ通信機を立ち上げた。

 出発前の話では、ガイオスはここからかなり近い場所にいるはずだ。

 テェアヘペロは大きく深呼吸し、リストからガイオスの番号を探した。

 そして通信を送ると、ものの数秒も立たないうちに相手が出た。

 画面に現れた男はテェアヘペロの顔を見ると、「よう」と言って笑って見せた。



『待ってたぜ、テェアヘペロ。通信場所が森の中になってるとこみると、無事に着いたらしいな』

「や、夜分遅くに失礼いたします、陛下。現在我々は、アーガ族のキャンプにおりまして……」

『そりゃよかった。少し時間がある。これまでの経過を報告してくれや』


 ガイオスはくつろいだ格好で、折り畳みベッドに寝そべっていた。

 また今夜もどこかの遠征先か。

テントに宿泊しているらしい。

 テェアヘペロが今までの事を簡単に説明すると、皇帝は起き上がり、難しい顔で腕を組んだ。


『なるほど。随分いろいろ聞けたんだな』

「はい。元族長の奥様がいろいろ話してくださいました」

『ニトー先生がこっちに持ち出さなかったアーガの秘密か……思った通り、あいつらの住処はただの森じゃなかったんだな』


 ガイオスの反応はキトラが予想していた通りだった。

 この世界の始まりについて、世間一般にはまだ知らされるべきではない。

 かつて師が下したその判断に、彼は皇帝として心から同意しているようだった。


『先生の本を発禁にしたとき、学者連中からは相当反発があった。今も再三解禁の要請があるしな。けどこうなると、今までニトー先生以外が森に近づかなかったのはやっぱ正解かもな』

「決してこの森で見聞きしたことは口外しません」

『そうしてくれやテェアヘペロ。キトラ、お前もな』

「はい、皇帝陛下」


 公権力からの一方的な出版物への制限。

 それに関して、キトラは若干まだ反発を感じていた。

 ニトーも最大限配慮した上であの本を執筆したはずである。

 それを教え子によって発売禁止にされた事に対し、生きていれば何らかの怒りや無念さを覚えたかもしれない。


 しかし、ここは静かに自分を抑える事にした。

 ガイオスはきっと、自分が思う何千倍もこの世界の事を考えて生きているのだ。

 彼の瞳を見ていると、不思議とそんな気持ちになった。


『アーガの一族が分断してんのは厄介だ。他の問題は後にして、それを先にかたづけにゃあな』


 ガイオスは言った。


『森で知ったことは後で帝都に入った後でゆっくり聞こう。テェアヘペロ、お前はどうするべきだと思う?』

「我々はアゴラテルの行為を止めるためにも、一度彼らと接触する必要があると考えています」

『うん。オレもそこにいたらそう考えるよ。そうじゃないと話が進まないもんな。だが』


 ガイオスは何かを考えるように天井を見上げた。


『慎重に行ってもらわないと、ちょっと厄介な事になるかもな』

「はっ。おっしゃる通りです」

『お前らが行って、下手に族長だの戦士軍団だのを刺激するのは困る。戦闘になったら終わりだと思え』


 キトラ達は皇帝から事態を収束するために派遣されたわけではない。

 何が起きているのを知りたい。

 そのために森に入ることを許されたに過ぎないのだ。

 ガイオスはその事について念を押した。

 アーガ族と外の社会との関係は普段から実にデリケートなものだ。


 しかも、今は問題が起きている真っ最中。

 ここはもっといろいろな事に関して経験がある専門の者が対応する必要がある。

 キトラ達のような若輩者が安易に関わっていい問題ではないのだ。


『できれば、お前らはここで一旦引き上げて帰って来た方がいいな。族長の娘のオモンって子の願いを聞いてやるにしろ、作戦を立て直してから北州の軍とも調整してそれからどうするか。それが普通の流れだ』

「はい、皇帝陛下」

『けど、だ。多分、それじゃきっと今回は解決しねえな』


 ガイオスは咳払いした。


『お前らが無事に森に入れたのは奇跡的だ。他の奴らが入ろうとすれば、うちの息子どもと同じ目に遭うかもしれん。急きょ、お前らをアーガ族との交渉役に任命する』

「えっ……陛下、それは」

『ここは対立することなく、何とか向こうを説得して乱暴を辞めてもらう方向で話をつけてもらわなきゃなんねえ。テェアヘペロ、お前、その大役を務める自信あるか?』


 突然の事に、テェアヘペロは一瞬黙ってしまった。

 しかし、これは命令である。

 すぐに姿勢を正すと、画面越しの皇帝に対し、深々と頭を垂れた。


「この任務、謹んでお受けいたします」

『よし、頑張れ。それからキトラ、お前もだ。テェアヘペロのサブを務めてやれ』

「かっ、畏まりました!」

『頼んだぞ。お前たちだけが頼りだ』


 通信を切った後も、二人はショックがおさまらなかった。

 アゴラテルに会いに行くつもりではいた。

 だが、それが皇帝の正式な使者として行くとなると意味が違ってくる。

 自分たちは世界の代表としてアーガ族の長に会わなければならなくなったのだ。

 キトラ達がどう動いて、何を言うか。

 それによって、何か大きなものが動く。

 そう思うと、今更ながら自分たちが負ってしまったものの重さを感じざるを得なかった。

 

 怖い。

 すごく怖いと思った。

 キトラもテェアヘペロも、その時強くそう感じていた。

 放心状態の二人を見て、バウアーはそっとその場を抜け出し、プラジアーナとエクウスを呼んできた。

 呆けている二人を見て、エクウスはため息をついた。


「バウアー。本当に、皇帝陛下からのご命令なのか?」

「うん……めっちゃ気さくなおっさんだったけど、画面に出てた人、マジで皇帝陛下だった」

「まさか我々に交渉の正式命令が出るとはな。こら二人とも! しっかりしないか!」


 エクウスはキトラとテェアヘペロの額を指で弾いた。

 固い爪での刺激の一撃。

 目から火が出るような痛みに、キトラは一気に我に返った。

 半泣きで上を見上げると、エクウスはやる気満々だった。


「皇帝陛下からご命令という事は、我々は命がけでこれを遂行しなければいけなくなったということだ。アゴラテルにこれ以上の蛮行を許してはいかん。今夜は寝ずに作戦会議だ!」

「なっ、何でエクウスが仕切ってんの……」

「文句があるなら貴様がしっかりやらんかテェアヘペロ! しゃきっとせんと股間にある無駄なものを引っこ抜くぞ!」

「いちいちその下ネタ必要!?」


 下品な一言は余計だったが、エクウスがその時二人に気合を入れてくれたことは結果的によかったと言える。

 テェアヘペロは自信のない表情を改め、正使としてアゴラテルに会いに行く覚悟を決めた。

 その夜、結局全員寝ずに話し合い、翌朝すぐにアゴラテルに会いに行く決定をした。

 この決定がどういう方向に進むのか。

 分かっている者は誰もいなかった。


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