テイロンの浅野兄弟~姉妹再会
今回は裏日本編になります。
-カチン-
「…外傷無し、臓器及び脳のダメージ無し、心拍数正常、思念波異常無し、循環器系・代謝機能に異常無し、精神面の異常無し、…血液検査及びスキャンしても異常は見られない……、兄弟揃って頑丈な身体してるわね…」
340m級万能高速輸送艦テイロンの艦内で光牙、結依菜、雫石は身体検査を受け、女医に診断結果を言い渡される。
「…鍛えてますから」
光牙は淡白に言う。
「でも、異常無しと言っても無理は禁物よ、生き残りたいなら覚えておきなさい」
女医は妙な威圧感を出して光牙達に言う。
「承知」
光牙は威圧感に怯まず即答する。
「よし…良い子だ、壱岐大尉、浅野准尉達の作戦編入を許可します」
光牙の即答が気に入ったのか、女医は微笑んで許可を下す。
「了解した、では浅野光牙、浅野結依菜、浅野雫石の三名を我が隊の作戦に同行させます、准尉、軍曹、伍長、行くぞ」
「「…了解」」
「分か…」
-ツン-
「了解しました…」
結依菜は雫石を小突き、訂正させる。
-コッコッコッ-
-コォォォン-
壱岐大尉と光牙達が診療室から出て行く…
「しかし…凄いな、あの新入り共は…、バトルスーツ無しであんな戦闘に耐えられるなんざよ…」
光牙達が去った後、診療室の奥の椅子で凭れているラバンが言う。
「ミラルス中尉も十分凄いですよ、ああまでやられて傷一つ無い上に敵のZWを無理矢理奪って来るんですから…」
ラバンの隣に座る少年士官が言う。
「やられたら倍返しが常だろうが」
「はいはい…尊敬しますよ、…しかし、浅野准尉は初めてクラネオンⅢを起動させ、その際にN・E・O・N適性レベルが3をマーク、ガロツⅡを初めとする計14機のZWを撃墜する高い戦闘能力、対応の速さと戦場での冷静さ…とても素人とは思えませんね…」
少年士官が呆れつつ言い、ついで真顔になって光牙の上げた戦果を基に予想する。
「ああ、コクピット内には戻した痕跡や脂汗の跡、錯乱した様子も無かったしな…、どう見ても大戦の経験者だ」
クラネオンⅢのコクピット内の清掃をさせられていたラバンは、素人の痕跡が無いコクピットを思い出し、光牙達が素人ではない事を確信していた。
「まさかあの…」
ある憶測に辿り着いた少年士官は、それを口に出そうとするが…
「ノース!用がないならさっさと自分の持ち場につきなさい!」
-ガターン-
「は、はい!」
-コォォォン-
女医に一喝され、ノースは慌てて診療室から飛び出していく。
「ミラルス中尉もさっさとミーティングに参加する!」
「り、了解…!」
ラバンも一喝され、診療室から出ていく…。
-ガァン-
「痛っ!」
-ドスッ-
「痛た……馬鹿野郎!大事なブツに傷が付いたらどうすんだ!?」
「くぅ…勝久か…、この馬鹿野郎が、変なもんで道を塞ぐんじゃねえ!」
「野郎!失敬にも程があんだろ!コイツは…」
「いい加減にしなさい!!」
診療室から女医の大喝が飛ぶ。
-ビクゥ-
「「は、はいぃぃ!!」」
-ドタバタ-
女医の大喝に恐れを為したラバンと勝久は、慌てて去っていく。
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一方…
「光牙、結依菜、雫石、二年振りだな…無事で何よりだ…」
テイロンの通路にて、壱岐は光牙達に話しかける。
「壱岐さん…いや、壱岐大尉も御無事で何よりです」
光牙は親しみを込めつつも、慎みながら無事を喜ぶ。
「今は壱岐さんでも良い、しかし驚いたぞ…お前らがクラネオンⅢに乗っていたなんてな」
壱岐は微妙に笑いつつ言う。
「襲撃された時…逃げるのに夢中でした、逃げた先で偶然クラネオンⅢを発見してからは成り行きです」
光牙は襲撃された時から今までの経緯を簡潔に述べる。
「…昔の勘が働いたとは言え…軍の機密に触れた事は拙い、今回は鳳氏の助け舟があったから良いが…、普通なら銃殺刑だぞ」
壱岐は呆れつつも威厳を放って言う。
「そ…ムグッ!」
「…(黙りなさい雫石!)」
「…はい」
結依菜は、弁護しようとする雫石を抑え、光牙は素直に返事する。
「…まあいい、もうあんな無茶はするなよ」
「…了解」
光牙の決意を悟った壱岐は、しつこく言うのを止める。
「ふう、手続きと挨拶、テイロンの案内に身体検査で流石に疲れたろう…、命令があるまで自室で休め」
「……、了解」
壱岐は光牙達に休憩を促し、光牙は思案して返事する。
「…壱岐大尉、私の部屋は…?」
結依菜が疑問を口に出す。
「む…すまん…、軍曹の部屋は紅蓮のエースと同室としか伝えてなかったな…、案内しよう」
部屋の案内を忘れていた壱岐は、結依菜の言にギョッとなり、慌てて方向を変える。
「え?姉さんだけ僕達と別室なの?…壱岐おじ…ムッ」
「壱岐大尉だ、雫石…」
雫石の言に光牙は雫石の口を塞いで訂正する。
「ふう…光牙、まだ幼いとはいえ、雫石の癖が出ない様に躾ておいてくれ」
雫石の言に脱力した壱岐は、光牙に雫石の躾を頼み、体勢を立て直す。
「……、しっかりと躾ておきます…」
「はい、努力…します」
光牙も脱力し、雫石は赤面して頭を下げる。
「では…また後でな、行くぞ軍曹」
「「はい」」
壱岐と結依菜は別の通路を歩いていく…
通路にて…
「壱岐大尉」
「なんだ?」
「紅蓮のエースって…誰の事なんですか?」
結依菜はもう一つの疑問を口に出す。
「私の部下だが…、お前も光牙も雫石も良く知っている人物だよ」
結依菜の疑問に壱岐はニヤリと笑って答える。
「私達が…良く知っている…?」
壱岐の言を聞き、結依菜はある人物を思い浮かべる。
「そうだ、楽しみにしておきなさい」
「あ…はい」
ニヤリと笑う壱岐に対し、結依菜は明るく返事して壱岐について行く…
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-ゴォォォォ-
-ガキョォン-
-ギィィゥゥゥン-
-シュゥゥ-
「ネオンプラス4型、両方の倭機がテイロンに着艦!整備急げ!」
深紅とグレーのネオンプラス4型がテイロンの格納庫に着艦する。
-ピシュゥン-
「よっと」
-タッ-
-カチン-
-ダーン-
-ウゥゥゥゥン-
-ガゴン-
両方のネオンプラス4型のコクピットが開き、巽はリフトに乗って降り、弓菜はコクピットから飛び降りる。
「倭の姉御、お疲れ様ッス!」
「姐さん、お疲れ…グハァ!」
「あんたらは御姉様達の邪魔よ!とっととミラルス中尉の下に行きなさい!」
「ひでぇ!」
「性差別すんじゃねえよ!」
「御姉様~お疲れ様です~」
「「無視かよ!」」
「おう、野郎共に女郎共、しっかりと整備頼むよ!」
「はい!御姉様の為なら何でも頑張ります!」
「良い子達だ、任せたよ!」
「はぁい!」
弓菜の一声で整備士達が一斉に作業に取りかかる。
「巽様!」
「巽様ぁ」
「出迎え御苦労、また整備を任せる」
「はい!お任せ下さい!」
「巽様と弓菜御姉様の為なら大改造だってしちゃいます!」
「ふ、君達の頑張りが僕達の戦う力になる、任せるぞ」
「「はい!」」
巽の演出を見た整備士達も、一斉に作業に取りかかる…。
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「………」
-パサッ-
-ピコッ-
-ビッ-
-ボン-
「ふむ、二人とも御苦労であった…下がって良い」
「「ハッ」」
-ザシッ-
-ピシュゥン-
報告をし終えた弓菜と巽は、艦長に敬礼をした後、艦長室から退出する。
通路壁の自販機にて二人…
-ピッ-
-ガゴッ-
-シュッ-
「ったく、巽も良くやるね…」
-ピッ-
-ガゴッ-
「君程じゃないよ…」
-プスッ-
呆れた様子の弓菜と疲れた様子の巽が、自販機のジュースを買いながら言う。
-グビグビ-
「一気飲みは良くないぞ、弓菜…」
-グビッ-
-スッ-
「ぷはぁ~うめぇぇ~!」
-ベキョッ-
巽の言を気にせず、麦の炭酸飲料を一気飲みした弓菜は、空になった缶容器を握り潰す。
「全く…経済成長期の親父か、お前は…」
巽は呆れながら言う。
「ん〜〜、気にしない、気にしたら禿げるよ巽…」
-ポフ-
「…全く…」
弓菜は背伸びをしながら言い、巽にもたれ掛かる。
其処へ…
「あ!?お…お姉ちゃん!?」
-ガバッ-
「…!?ゆ…結依菜かい!?」
「………」
結依菜の声に反応した弓菜は飛び起き、巽は複雑な表情になる。
「生きてたんだね、お姉ちゃん…!」
「結依菜も良く生き延びたね…、また会えて嬉しいよ…!」
「お姉ちゃん…」
「結依菜…」
弓菜と結依菜は喜びの涙を流し、互いに抱き締めあう…
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蚊帳の外は…
「…(巽、姉妹の再会を邪魔してはいかん…、去るぞ)」
「…(…わかってます…、でもこれは貸しにしておきますよ、壱岐さん)」
「…(ふっふ、察しが良いな…巽)」
「…(そりゃ、前の大戦から部下やってますからね…)」
「…(では、行くぞ)」
-ササッ-
巽は壱岐に引き摺られ、小声で遣り取りしつつ、その場から退場していく…。
「……(偶には遠回りするか…)」
-コッ-
最寄りの自販機に来ていた艦長も踵を返し、その場から去っていく…。
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