作戦開始〜海中潜行
淡路島上空…
「…淡路島上空か、難儀なのは此処からだな…」
壱岐はテイロンの地図を見ながら呟く。
「…壱岐大尉、高度と速度を維持、そろそろ沿岸部防衛隊の甲型紅花及び小型偵察機、そしてデジタル望遠の目に穴が開きます、投下ポイントの次はこのルートを通って下さい」
結依菜は掌握したZWや偵察機の索敵不可エリアのデータとテイロンの進路プランを調整しながら言う。
「わかった、…聞いたな?」
「あいさ」
壱岐はテイロンの操舵手の手越に言い、手越はテイロンの舵を切りながら返事する。
月明かりに照らされた雲からゆっくりと降下してきたテイロンは、結依菜が掌握した偵察機の動きに合わせて速度を調節しながら飛行。
陽動艦隊が四国反政府連盟の艦隊を誘引している隙に、結依菜の誘導を頼りに巧みに敵の網をすり抜け、一戦もせずに淡路島上空まで辿り着いていた。
「…やれやれ、掃除が終わったんで…少しは楽になりましたよ」
手越が首を鳴らしながら言う。
「…すまんな、苦労をかけた」
壱岐はため息混じりに操舵手に言う
「いやいや、これでやっと元通りに仕事できますし、おかげで軽い準備運動にはなりましたよっと」
手越は壱岐に言いながらテイロンの姿勢を整えていく。
テイロンは仮眠中の神楽坂に代わって壱岐が指揮を執っており、少し見ぬ間に艦内は少し落ち着きを取り戻していた。
伊丹空港跡から飛び立った後、ルシャスとヤコッゾが艦からZWを奪っての脱走を試みたが、壱岐は先手を打ってルシャス派を部屋に閉じ込め、二人の脱走を阻止。
追い詰められたルシャスは非常用の脱出カプセルを使って艦から脱出したが、置いてけぼりを食らったヤコッゾは霊司に拘束される。
ルシャスとヤコッゾに従っていた風体の良からぬ者達も拘束され、艦は元の状態に戻りつつあった。
「艦の進路に敵影無し、壱岐大尉、間も無く投下ポイントに差し掛ります」
テイロンのオペレーターが壱岐に伝える。
「…よし、作戦を開始する、光牙とラバンを出せ」
「了解、ミラルス中尉、浅野准尉の両名は換装が済み次第出撃して下さい」
壱岐の指示の後、オペレーターが待機中の光牙達に伝える。
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格納庫にて待機中の光牙達…
「勝久!ガロツⅢの換装が済んだぞ!俺もクラネオンⅢを弄らせてくれや!」
「こっちはすぐに終わる!それよりもお嬢と坊ちゃんの機体が最優先だ、お前はそっちに回ってくんな!」
テイロンの格納庫では鳳勝久らがZWの整備に換装作業にと忙しく動き回る…。
「…このゴツい装備は…?」
光牙はクラネオンⅢに取り付けられている装備を見て呟く。
クラネオンⅢの背部には甲羅の様な追加装甲と大型の酸素ボンベみたいなユニット、両腕脚にはクラネオンⅢの腕部を覆い隠せる程のゴツい追加装甲があり、それにはガトリングガンの様な穴が空いてある。
ハイブリッド・ライフルもボウガン型から銛の様なものがついたライフルに換装されていた。
「浅野、今回の作戦に合わせてクラネオンⅢには水中戦仕様のネービーを装着してあるんだ」
「ネービー…VNFSのプランにあったダイバークラネオンⅢですか?」
勝久の言に光牙はクラネオンⅢの換装形態を思い出す。
「そうだ、背中の甲羅みたいなのは移動時は頭部を覆うように展開してな、カメラはどっかで見た様なモノアイになるぜ、あと汚染魚の感覚器官をレーダーに転用してあるから水中での索敵能力は抜群、酸素ボンベみたいなのは大型クローアームとハイドロジェットも兼ねてある、それと両腕脚の追加装甲は多連装魚雷発射管と思念波障壁発生装置だ、それとハイブリッド・ライフルは見ての通り銛を発射するタイプだ、銛を発射してもしなくても偏光ビーム砲を発射できる様になってある、あと腰のプラズマ・シュナイダーは水中型の強力な奴に其々換装してある、何時もの装備とは勝手が違うから気をつけろよ!」
勝久はVNFSのプランを見ながら光牙に諸々の装備を説明する。
「…VNWS、イメージはアクアネオンと同じか、なら問題ない」
光牙はVNWSから流れてくる情報を読み取り、VNFSを介してダイバークラネオンⅢの装備箇所と動作感覚を把握。
ダイバークラネオンⅢのコクピット内にある脊椎シートが光牙の状態に合わせて常に最適な形に変化していく。
「そういや、水中戦は大丈夫か?」
「水中戦なら何度も経験しています、心配御無用」
「よし、行ってこい」
勝久の言に光牙は冷静な口調で答え、ダイバークラネオンⅢがZW射出用のデッキに運ばれていく。
「ラバンも水中戦は大丈夫だろうな!?」
「シートリムで何度も水中戦をやった事がある、それにガロツ系ZWには慣れてるから何とかならぁな!」
「ガロツⅢは防水処理と炸裂式ハープンと魚雷を追加しただけだからな!水中でFC装甲を当てにするなよ!対ZW魚雷を食らったらお陀仏だぜ!」
「わかってら、何とかやってやるさ」
「よし、行ってこい!」
淡路島の南の上空を飛ぶテイロンのハッチが開き、ダイバークラネオンⅢとガロツⅢ(水中戦仕様)が投下される。
投下された二機は減速した後、ゆっくりと着水…潜水していく。
「テイロン、旧徳島県に入るぞ」
「了解、テイロン転進」
壱岐の指示により、テイロンはゆっくりと方向転換しつつ、次なる目的地へと向かう。
「室戸沖にて四国反政府連盟の艦隊と交戦中の淡谷艦隊、徐々に旧和歌山方面に後退します」
「…淡谷提督が釣り出しに動いたか、そう時間はかけられんな」
友軍の動きに壱岐は若干の焦りを感じ呟く。
「海賊達の動きはどうなってる」
「瀬戸内海と室戸岬に密集したまま動きません」
壱岐の言にオペレーターが海賊の反応と布陣を地図に転送しながら言う。
「…場合によっては光牙達を囮にする、二人にそう伝えろ」
「了解、ミラルス中尉、浅野准尉、海賊の動きに注意、場合によっては二人が囮になって暴れてください」
壱岐は地図と敵味方の動きを睨みながら言い、オペレーターが光牙とラバンにそう伝える。
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「…だそうだ、一応警戒して進むぞ浅野」
「了解です」
ラバンは光牙のダイバークラネオンⅢの背部にガロツⅢを捕まらせて言い、光牙はダイバークラネオンⅢのコクピット内で各部チェックをしながら返事する。
-ビビッ-
「…ミラルス中尉、敵影…汚染魚が1、此方に向かって来ます」
光牙はダイバークラネオンⅢのレーダーに反応した汚染魚を見て言う。
「ちっ、無駄な戦闘は避けてえがな」
ラバンはガロツⅢの武装を構えながら言う。
「…待って下さい、汚染魚の器官に反応…コイツに俺の思念波を乗せてみます」
光牙はダイバークラネオンⅢに搭載されている汚染魚の器官を思念波動システムに繋ぎ、己の思念波を乗せて汚染魚に放つ。
「………」
「………」
光牙は無言で汚染魚と交信する。
『………』
-ゴボボ-
光牙の思念波を受けた汚染魚は進路を変え、ダイバークラネオンⅢとガロツⅢを避けていく。
「…意外と上手くいくもんだな、こりゃあ汎思念波動能力者の力か?」
ラバンは去っていく汚染魚を見て光牙に言う。
「…………、…そうだと良いのですが、やってしまったかも知れませんね…、早く此処から脱しましょう」
-ゴポ-
光牙は汚染魚に放った思念波の手応えに疑問を抱き、ラバンに早く離れる様に促しつつ、ダイバークラネオンⅢを少し加速させる。
「お、おい、何を急いでやがる…!」
「すいません、俺の思念波交信で敵に場所を知られたかもしれません」
急に加速したダイバークラネオンⅢにガロツⅢが振り落とされない様に捕まらせてつつ、ラバンは光牙に言う。
黒い海老の殻を被った漆黒の人魚の様なダイバークラネオンⅢとガロツⅢは海底に移動し、岩陰や海底に沈んだZWの残骸や戦艦の陰に隠れながら進む。
「………」
光牙は何かを感じ取ったのか、戦艦の残骸の中でダイバークラネオンⅢを静止させて広域索敵を開始する。
暫く経つと…ダイバークラネオンⅢのレーダーに海賊のZWであるシートリムとシーグリムが複数機とその母艦と思しき小型の潜水艦の反応が現れ、その先頭には先程の汚染魚が居た。
シートリムとシーグリムは汚染魚の誘導に従って光牙達が居た周囲を探し回る。
ダイバークラネオンⅢとガロツⅢのジャミングが効いているのか、シートリムやシーグリム、潜水艦や汚染魚の動きから、海賊達に捉えられた感じはしない。
「…流石海賊、汚染魚を改造して斥候に使っていたか…」
「チッ、すんなりとは通してくれなさそうだぜ、こりゃぁ」
光牙は感心した様に呟き、ラバンは舌打ちしながらガロツⅢの武装を構える。
「…とはいえ、戦端を開くにゃテイロンが遠過ぎる、どうせならベストなタイミングで仕掛けてえが…」
ラバンはテイロンの位置と徐々に近づいてくるシーグリム部隊を見ながら呟く。
「…兄さん、ミラルス中尉、あの部隊は私に任せて下さい、直ぐに穴を開けますから」
「…了解した」
テイロンの結依菜から通信が入り、光牙とラバンは結依菜を信じて脱出の機を待つ。
「…此れで良い筈です、早く脱出を」
「…ミラルス中尉、結依菜のジャミングが奴らに効いているようです、此処を抜け出しましょう」
「…分かった、敵は大丈夫か?」
結依菜の言を聞いた光牙はラバンに言い、ラバンは光牙と結依菜に確認する。
「…此れだけ視界が悪ければ…向こうの奴らは撒けるでしょうね、それに結依菜なら既に奴らの目を掌握している筈…、身を隠しながら移動しましょう」
「…わかった、行くぞ」
光牙の言を聞いたラバンは即座にガロツⅢの武装をしまい、ダイバークラネオンⅢの背にに掴まる。
-ゴポォ-
潜水艦とZWが少し目を逸らした隙を突くようにして、ダイバークラネオンⅢとガロツⅢが戦艦の残骸から脱出していく。
ダイバークラネオンⅢとガロツⅢが脱出した後に舞った砂煙りを捉えた小型潜水艦が再三にわたって広域探索波を放つが、既に結依菜によって掌握されていた小型潜水艦にダイバークラネオンⅢとガロツⅢを捉える事は不可能であった。




