光牙達の帰還
今回は裏日本編です。
裏日本地下、新四国地方にある大区画の中心にある館の様な建物の中にて…
「凶報が二、衛連が増援を送り、ハルツィス率いる白鷹隊と合流、表の北海道に軍勢を送り、CCTW部隊と交戦する前に北海道を制圧した模様…僅か5分でその全域を制圧したと。四国反政府連盟が治安警察の鎮圧隊を撃退、ジャウキル中将率いる政府軍本隊が本格的な四国征伐作戦を開始した様です」
仮面の人物が畳に膝をつけ、深々と頭を下げながら報告し、簾に映る人影が僅かに頷く。
「報告大儀、指示は追って出す故、持ち場につくが良い」
「ハッ」
簾に映る人影の言の後、仮面の人物はゆっくりと立ち上がり、一礼してからその場から去っていく。
「安芸代表では主戦派を抑えられんかったか…」
「…此度は極阿殲滅戦で悪名を挙げた皆殺しのジャウキルが指揮を執っておる、これでは四国の者達の運命は決まってしまったも同然じゃ…」
「ジャウキルは確かに有能だが、救い難いのは敵に対する冷酷さよ、降伏は必ず拒み、捕虜はその日の内に必ず処刑し、若者と女子供を優先して殺害する、道路、店、水道施設を徹底して潰し、余っている食糧と水は全て買い占め、補給を徹底して断つ…飢餓地獄を見て楽しむ様な奴じゃ」
「…安芸国繁を始めとする四国の者共は見せしめの為に悉くが殺し尽くされるであろう…」
「…今から我々が仲介に入っても、もう国繁もジャウキルも止まるまい、ならば…せめて民だけでも地下に避難させてやらねばならん」
「避難民の受け入れ先には何処を使う?農業区画に人を入れるか?」
「戯言を…、拡張したばかりの新たな区画を全て開放しようではないか」
「新区画を丸ごと開放か、確かにそこなら避難民が全員入るくらいの大きさはあるな、相手が相手だ、それで良かろう」
「ジャウキル中将が四国に上陸すれば…四国は血で染まらぬものは無い有様となろう、下手をすれば地下も皆殺しの対象になる。その前になんとしても民を…出来れば四国の者達を全員避難させるのだ」
「…時間制限つきで四国にある地下へのゲートを全て開放せよ、決して政府側に情報を漏らしてはならん」
「ハッ、直ちに手配いたします」
簾に映る人影達が一通りの議論を纏めると、外に待機していた者達が一斉に動き出す。
「…(…禽獣の脅威を除くなら身近の者を買収し、それに元凶の首を狩らせれば済むものを…、禽獣を満足させるのは餌のみ、その餌を奪えば其方に襲いかかるのは明白であろうが…、せいぜい励み、ジャウキルに高い授業料を払うが良いわ)」
会議の末席についていた鳳経久は、何処か遠い世界での出来事の様に語る者達を冷やかな眼で流し見しつつ思案する。
「…(…国繁、明日で今生の別れよな、家族の面倒は儂が代わりに見てやろう、最期まで戦うが良い)」
経久は裏日本の四国の旧高知県にある四国反政府連盟の本拠地を見ながら思案する。
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伊丹空港跡に寄港中のテイロンの格納庫にて…
「よぉし!退避は完了した、着艦していいぞ浅野!」
「…クラネオンⅢ、着艦します」
-ウゥゥゥゥゥゥン-
-ギィィィィン-
-ガシュゥゥゥン-
-ズゥゥン-
勝久の合図の後、光牙はクラネオンⅢを操縦してテイロンのZW発進口に向かわせ、ゆっくりと着艦させる。
着艦したクラネオンⅢは、ZW用のアームに掴まれて固定され、整備庫に運ばれる。
続いて弓菜の/ネオンプラス4型、結依菜のフライトネオンプラス4型、雫石のネオンプラス4型も順次着艦し、クラネオンⅢと同じく整備庫へと運ばれていく。
-ガギュゥゥゥゥン-
-ピシュゥン-
-バサァ-
-カン-
-コン-
整備庫に到達したクラネオンⅢのコクピットハッチが開かれ、其処から神父服姿の光牙が飛び出して装甲を蹴りながら着地する。
「よお!お疲れさん!無事でなによりだ!」
「そちらこそ無事でなによりです」
着地した光牙に勝久が声をかけるが、光牙は淡々と切り返す。
「整備は俺がキッチリやっておく、お前さんは姉弟と一緒に艦長に報告に行ってこい」
「…了解」
勝久は光牙の態度を気にせずに言い、光牙は冷淡に返事してその場から去っていく。
「………」
「………」
途中、すれ違った眼鏡の女性整備士に微笑みかけるが、そっぽを向かれ、隣に居たロングヘアの女性整備士に睨まれる。
通路を行き交うクルー達と風体の良からぬ輩達が光牙に冷たい視線を送り、中には露骨な敵意を向ける輩もいる。
「………」
光牙は各々の放つ冷たい視線や敵意など気にせず、わざとぶつかりにくる者や足を踏みにくる者達を回避しながら歩いていく。
「へっ、あれが雷光かよ、全然大したことねえじゃねえか」
「話にならねえクソ虫だぜ」
「いいや、ハナクソだぜありゃあ」
「「ギャハハハ!!」」
回避は光牙なりに気を遣ってのことだが、風体の良からぬ輩達は光牙を小者と侮り、彼方此方で嘲笑している。
「…(壱岐大尉と義兄上と姉上が居なければこの有様か、神楽坂艦長も随分と苦労しているだろうに…)」
光牙は聞こえてくる嘲笑など微塵も気にせず、神楽坂艦長に同情する。
-カッ-
「おぉ、久し振りだねぇ〜新人君」
「やっと帰ってきた」
通路を歩く光牙を見つけた一色文紀と佐久間穂が声をかける。
「ご無沙汰していました、弓菜姉上と結依菜と雫石も無事ですよ」
光牙は営業スマイルで言う。
「よ、良かったぁ〜…これでまた雫石君の姿が拝める…ふふ…」
「み…文紀、本音、本音」
「………、艦長室に向かうので先に失礼します」
「あ…、行っちゃった」
「文紀が本音漏らすから…」
穂は文紀の言に少々引き、光牙は淡々とした口調で言い、先に行ってしまう。
「「姉御ぉ!ご無事で!」」
「「結依菜ちゃぁん!!」」
「「雫石君だ!可愛い!!」」
光牙が通り過ぎた後、弓菜、結依菜、雫石は熱烈な歓迎を受けつつ通り過ぎて行き、光牙より十数分遅く艦長室に入ったという。
「チッ、なんだよありゃ!?」
「クソが、気に入らねえ…!」
風体の良からぬ輩達は居場所を失い、やむなく場所を変えていく。
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テイロン艦長室…
「四国征伐…ですか」
「聞いての通りだ、先の裏日本の沖縄、種子島の陥落により、四国反政府連盟の動きが活発化してな、その活動は我々の目に余る程になってきた」
白銀のZWとの交戦の後、無事にテイロンへと戻ってきた光牙達は、艦長である神楽坂に呼び出され、四国征伐の詳細を聞かされる。
「本部の要請を受けた治安警察が先に四国征伐に向かったが、安芸国繁ら四国反政府連盟のZW部隊の奇襲を受け、撃退されたそうだ、そこで本部から我々テイロン隊にも四国征伐に参加せよと要請が来た」
神楽坂は瀬戸内の地図と治安警察の交戦状態を見せながら言い、最後にテイロン隊と他の政府軍の諸隊の位置と進軍予想図を現しながら光牙達をみる。
「ふぅん…本部と他の奴等、アタシらに先鋒をやれってかい?」
諸隊の進軍予想図の消極さを見た弓菜は、呆れた様な口調で神楽坂に言う。
「…我等がやらずして誰がやる、ジャウキル中将は本隊を投入する時間を二時間程遅らせてくれた、…その二時間の内になんとかしろとのことだ、でなければ極阿の二の舞になるぞとの達しでもある」
「…ったく、良いようにこき使ってくれるね、あのエロジジイはさ!」
神楽坂は厳格な口調で言い、弓菜はやや怒気を含んだ口調で言い、左手の拳を握り締める。
「諸隊は腰抜け共の寄せ集め、本部は高みの見物客、客を飽きさせない様に派手なパフォーマンスを披露しないといけねえなぁ、神楽坂よぉ」
ヤコッゾは不気味な笑みを浮かべて言い、神楽坂はその言に眉をひくつかせる。
「ヤコッゾ、口を慎め」
「てめえが黙りな、無能がよ」
見兼ねた壱岐がヤコッゾに言うが、ヤコッゾは壱岐に挑発的な態度を取る。
「貴様…!」
「壱岐大尉、ヤコッゾ、もうやめよ」
挑発に乗りそうになった壱岐を見兼ね、神楽坂は呆れた様に二人を制す。
「なん…!」
「これ以上は戦場で働きを示してからにしてもらおうか、ヤコッゾ」
「…ぐっ…チィ!」
神楽坂の言に文句を付けかけたヤコッゾだったが、頭に青筋を浮かび上がらせた神楽坂の言に圧され、渋々引き下がる。
「…(ふん、こいつは所詮小者か)」
ルシャスは神楽坂に圧されたヤコッゾを冷めた目で見て思案する。
「………」
「………」
巽と光牙はルシャスとヤコッゾを冷やかな目で見ながら神楽坂と壱岐が落ち着くのを待つ。
「………」
弓菜は巽と光牙、結依菜にアイコンタクトをとった後に臨戦態勢を解き、壱岐と神楽坂に続きを促す。
「イニシャルZによると、四国反政府連盟は此処…旧高知県に本拠を置いている、此処を潰し、安芸国繁ら主力部隊を撃破する事が我等の任務になる」
-コン-
-コトコトコト-
神楽坂は淡々と述べ、旧高知県に敵に見立てた駒を置き…
「諸隊は本隊と連動する構えだ、此処は諸隊を陽動に使い、我等は隠密にて四国反政府連盟の本拠地である旧高知県に近づき、四国反政府連盟の本隊を急襲、一気に拠点を落とす」
-ガン-
神楽坂は敵に見立てた駒をテイロンに見立てた駒で弾き飛ばしながら言う。
「…相変わらず、無茶な作戦を立てますね、夜陰に紛れてとはいえ…このテイロンの巨体をどう隠すつもりですか?…いや…結依菜なら或いは…」
巽は眼鏡を直しながら言う。
「そうさね、アタシの妹なら」
弓菜も確信した様な口調で言う。
「そういうことだ、頼めるか、結依菜君」
「………」
神楽坂は結依菜に言い、結依菜は暫し思案する。
「………」
「………」
「………」
光牙は結依菜を見、結依菜は光牙に頷くや、光牙は視線を元に戻す。
「…四国反政府連盟の網の綻びは全部で129箇所、それらを上手く辿り、首尾良く偵察機に捕捉されずにいけば、最短距離で旧高知県上空にたどり着けます」
結依菜は端末を弄りながら言う。
「ただし、これは四国反政府連盟だけの場合です、防戦側には恐らく九州独立戦線、甲信守護同盟などの諸勢力からの援軍、そして電子援護もあると予測、そうなると綻びはこの十分の一の約12箇所のみになります」
結依菜は各方面からの支援効果を打ち込み、ルートを絞っていく。
「…テイロンは私達が先程交戦したエリアから速度を調整しつつ、このルートを通って旧高知県に入ってください、上手くいけば一戦もする事なく辿り着くことができます」
「淡路島から旧徳島県を経由して旧高知県に向かうのか、だが…この高度では四国反政府連盟の軍勢に気づかれたり、住民達が騒いだりするのではないか?」
結依菜の示したルートに神楽坂は懸念を示す。
「ある情報によると、四国反政府連盟も一枚岩ではありません、それに住民達は政府軍を恐れて皆地下に避難しているとか、戦意の無いレジスタンスも皆住民に紛れて地下に避難するでしょう。このルートはテイロンが通る前に住民が全て避難する見込みのあるルートです」
「む…そうか、ならば良い」
結依菜は住民の避難効率の比較を見せ、ルートの危険性の低さを示し、神楽坂は妙に納得した様に言う。
「…(…潮時か)」
ルシャスは結依菜と神楽坂を見て嫌気がさしたのか、勝手に部屋から去っていく。
「お、おい、待てよルシャス!」
ルシャスが去るや、ヤコッゾもその場から去っていく。
「………」
二人が去った後、艦長室が沈黙に包まれる。
「…考えは纏まった様だな」
壱岐は弓菜達を見て言う。
「…やるしかないね」
「ああ…」
弓菜と巽は意を決した様に言い、光牙と結依菜の方を見る。
「…結依菜」
「…うん」
弓菜と巽が此方を見るや、光牙は結依菜を見て言い、結依菜は静かに頷く。
「…倭中尉、浅野准尉、軍曹は作戦開始前に少し休んでおけ、連戦になるぞ」
「「はい」」
神楽坂はそれだけを言い、光牙達は退室していく。
「…ミラルス中尉は?」
「ガロツⅢで待機しています」
「…そうか」
神楽坂は壱岐に言い、ため息混じりに呟き、背もたれに凭れかかる。
「艦長も少しお休み下さい、四国征伐作戦の準備とジャウキル中将との交渉で丸二日眠っていないのですからな」
「…すまん、そうさせてもらう…」
壱岐の言に神楽坂は背もたれに凭れかかったまま眠りにつく。
政府軍の四国征伐作戦の開始時間まで後僅か。
壱岐の指揮の下、テイロン隊は静かに伊丹空港跡から飛び立っていく…。




