姉妹再会~出撃
「そうかい…、結依菜も大変だったね」
麦の炭酸飲料を飲みつつ、弓菜は結依菜の頭を撫でながら言う。
「お姉ちゃんこそ…」
弓菜に頭を撫でられつつ…結依菜は涙を拭いながら言う。
「アタシは大丈夫だ、ほらアタシの部屋に行くよ」
-ヒョイ-
「ひゃ…!?」
弓菜は結依菜を軽々とお姫様抱っこして歩きだす。
「お…お姉ちゃん!一人で歩けるってばぁ!?」
結依菜は恥ずかしさの余り、弓菜の腕の中で暴れ出すが、弓菜はビクともしない。
「はは!こうしてると昔を思い出すね!結依菜!」
「っ…!」
腕の中で可愛く暴れる結依菜を見て、弓菜はある一場面を思い出すと、結依菜は絶句して一気に赤面する。
「昔はよく眠れないとか言ってアタシの布団に潜り込んできたもんだ」
-スリスリ-
「みゅぅ…」
弓菜は言いつつ、結依菜の頬に頬擦りをし、結依菜は過去の行動の恥ずかしさで声をあげる。
「さあて、久し振りに姉ちゃんと洗いっこしようか」
「うぅぅ…」
弓菜は結依菜をお姫様抱っこしながら自室へと向かっていく…
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-シュン-
「25、26、27、28…」
「……………」
自室で雫石は腕立て伏せをし、光牙は瞑想している。
「30、次は…」
「腹筋30回、それが終わったら風呂だ」
「はい、1、2、3…」
光牙の指示に従い、雫石は腹筋運動を開始する。
-ピーン-
「浅野、直ぐに格納庫へ来てくれ、クラネオン?の調整を手伝って欲しい」
「直ぐに向かいます」
「済まんな」
勝久からの通信が入り、光牙はすぐさま格納庫に向かう。
-コォン-
「いってらっしゃい…兄さん…10、11、12…」
光牙が出て行き、雫石は腹筋運動をしながら見送る。
-ピシュゥン-
-タッ-
-ササッ-
「…(行ったよ)」
-ササッ-
「…(ふふん、恒例のイベントの下準備♪)」
-ピシュゥン-
謎の二人組がドアを開けて侵入する。
「…!?」
「う」
「29、30…あ、お疲れ様です」
ドアを開けて侵入した二人組は、腹筋運動を終えたばかりの雫石とかち合って驚く。
「あ、兄さんなら格納庫に行きました、用件なら代わりに僕が」
雫石は屈託の無い笑顔で言う。
「…いや、少し挨拶回りに寄っただけだからいいよ」
「…また後で寄るから宜しくね!」
二人組は雫石の笑顔を可愛いと思いつつ、外身を取り繕う。
「はい、兄さんと会ったら伝えておきます」
「おう、頼むよ」
「頑張ってね」
「はい!」
-ピシュゥン-
二人組は部屋から去っていく…。
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「う~ん、可愛い…!」
「汚れてない所がまたそそるわぁ~」
二人組は目に焼き付いた雫石の笑顔と仕草を思い、ニヤニヤしながら歩いていく…。
「何にやついてんだよお前ら…」
通路で黒いパイロットスーツ姿の少年がニヤニヤしてる二人組を見て声をかける。
「あれ?アンタ生きてたの?」
-グサッ-
「私はてっきり霊安室に行ってると思ってたけど…」
-ザクッ-
「うぅ……渾名が黒き幽霊だからって、その扱いはねえだろ…」
二人組の言に黒いパイロットスーツ姿の少年は半泣き状態になりながら言う。
「存在感無いじゃん、アンタ」
-グサッ-
「学校じゃ何時も欠席扱いだったしね、シャドー君」
-グサッ-
二人組ははっきりと言い、黒いパイロットスーツ姿の少年は更に追い討ちを喰らう。
「……俺って…一体…」
シャドーこと…黒川・シャドゥ・霊司は落ち込み、壁にもたれかかる。
「ヘタレめ、勿体無い…」
「あぅ…残念な子…」
二人組は落ち込み世界へトリップした霊司を見て言い、その場を去っていく。
-ドン-
「うわっ!?」
「!?」
雫石が落ち込んでいる霊司にぶつかる。
「あれ?すいません!影だと思いました!ごめんなさい!」
-ズドン-
「ぐはっ!」
雫石の言にトドメを刺された霊司は、ショックの余り卒倒してしまう。
「ああ!すいません!大丈夫ですか!?」
-ガクガク-
「………」
雫石は卒倒した霊司を揺さぶるが、霊司の反応は無い。
「意識が…医務室へ運ばないと…!」
-ヒョイ-
-タッ-
雫石は霊司を軽々と背負い、廊下を走っていく。
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テイロンの廊下にて…
「…あれか?あの浅野の弟ってのは…」
くわえ煙草に赤髪の人物が雫石を見て言う。
「そうだ、鳳の爺が気紛れでお前より上に置いた奴だ…」
髭面の小太りハゲが苦虫を噛み潰した様な表情で言う。
「兄の方は黒き迅雷だっけか…?…んじゃ、迅雷の弟さんはどんな隠し玉もってんのかなぁ?ちっとばかり遊んでくるぜ!」
赤髪の人物は不敵に笑い、廊下を移動する。
「へっ、顔はやめとけよ?…女共がうるせえ」
「ケッ、其処で待ってな、直ぐにヤキをぶちこんできてやる」
「ひひ、頼むぜ」
赤髪の人物が雫石に近付こうとするが…
-コツ-
「あの…そこの壁伝いの先輩方…僕に何か用ですか?」
「…(…コイツ!?)」
直感的に悪意を捉えた雫石は、歩みを止めて赤髪の人物の方向へ振り返る。
「……!?」
先程とは違う…雫石の鋭い眼光が赤髪の人物を射る。
「………」
「………」
雫石の鋭い眼光と赤髪の眼光がぶつかる。
睨み合いが暫く続いた後…
「特に用が無いのでしたら…、僕はここで失礼させていただきます」
「………」
-タッ-
年不相応の凄まじい覚悟を宿した鋭い眼光に射られた赤髪の人物は、驚きのあまり声が出ず、雫石が立ち去るまでの間…その場に立ち尽くしていた…。
「おい、ルシャス…」
「………」
「ルシャス!」
赤髪の人物…ルシャスは、雫石の眼光から何かを感じ取ったのか、ハゲを無視して立ち去る。
ハゲの人物は地団駄を踏みながらルシャスに悪態をつくが、無視される。
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…医務室にて
-ピシュン-
「あ…すいません、気絶した人を診てもらえないでしょうか?」
「ご苦労様、そこに置いといて」
「はい」
-ギシッ-
-ス-
雫石は医務室に入り、気絶した霊司をベッドに寝かせる。
「ふ…ん、何時もの症状ね…暫く放っておけば目を覚ますわ」
「何時もの症状…?」
「疲労よ」
「そう…なんですか」
霊司の容態を診た女医の言に、雫石は申し訳無さそうな表情をする。
「雫石君の所為じゃないわ、霊司の事は気にしない」
「でも…」
女医の言に雫石は納得がいかない感じである。
雫石が何か言いかけたその時…
-シャッ-
「雫石君、黒川少尉の運搬お疲れ様!」
「あ…はい?」
金髪の少女がカーテンを開いて雫石を労い、少し驚いた雫石は生返事をする。
「雫石君、そんな幽霊なんか捨てて俺専属の被験体にならないか?…サービスするぞ?」
「へ?…い、いえ…遠慮します…」
続いて眼鏡に金髪の医師が雫石に被験体になるように誘い、困惑した雫石は慌てて断りを入れる。
-ツイ-
「残念だ…」
-ジュッ-
医師は指で眼鏡のズレを直しながら言い、煙草の火を消す。
「もう、パパったら…!」
「お…親子…」
「ああ、鏡珠は俺の娘だ、手出したら地獄見るから覚えとけよ」
医師は雫石に微笑みかけつつ、さり気なく脅しをいれる。
「いえ…その…僕は…」
「まあ、俺の娘は君の姉さん二人に匹敵するくらい可愛いし発育も良いからな…、…夜のオカズにする位なら多目に見るよ?」
困惑する雫石をよそに医師は娘自慢を続け、最後に雫石の耳元で囁く。
「…あ…い!…そ…その…僕、し…失礼しましたぁ!!」
-ダッ-
-ピシュン-
医師の囁きに過剰反応を示した雫石は、顔を真っ赤にして医務室から飛び出てしまう。
「おやおや、年相応に健康的で宜しい」
雫石の過剰反応を見た医師は、面白そうな口調で言う。
「ちょっ…パパ、雫石君に何て言ったの?」
「年頃の現象について」
「…はぁ…」
医師の言を聞いたミラスは、溜め息をつき、霊司を診ていた女医は呆れる。
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格納庫では…
-ピシュン-
-ガゴン-
「浅野、これから戦闘シミュレーションをしてもらう、準備は良いな?」
「了解、どうぞ」
「よし、始めるぞ!」
-ヴゥゥン-
-ウゥゥゥゥゥン-
やけにテンションの高い勝久がクラネオンⅢのシミュレーションを開始する。
「さあ、敵は我が軍でも屈指のエース、倭弓菜のネオンプラス4型、シチュエーションは単独での遭遇戦…どうする?」
-ガシッ-
-ウゥゥン-
「…問題ない、速攻で片付ける」
勝久の言に光牙はレバーパネルとスライドアクセルを動かしつつ無表情で答える。
「大した自信だが、ただの相手だと思わねえ方が…」
光牙の言に勝久は驚きつつ忠告を入れようとするが…
-バシュゥウ-
-ズガァン-
-ズガァン-
-バシュウ-
-ズバァッ-
-ヴゥゥン-
-チュドォォォォン-
-ピンポーン-
-ピシュン-
「…この程度じゃ、エースの実力もたかが知れてるな…」
「な…なぁぁ!!?」
瞬時に5機のネオンプラス4型を撃墜した光牙が呟き、勝久は驚きのあまり口をパクパクさせる。
「5機のネオンプラス4型の全滅までのタイム…4秒23…新記録です」
「あ…有り得ない…、私達が整備した御姉様の美しいネオンプラス4型が…こうも簡単に…」
「ミンミン、どうどう…落ち着いて…」
他のクルー達も光牙とクラネオンⅢの電光石火の戦いぶりを見て唖然としている。
-チュィィン-
「み…認めない…、こんな…どこの馬の骨とも知れない奴に…!」
多目的ドライバーを持った眼鏡の女性整備士は、屈辱感から顔面蒼白にしつつ爆発寸前になるが…
「ミンミン、ミルク味の飴ちゃんだよ?良い子良い子」
「………」
三つ編みの女性整備士に宥められ、好物のミルク味の飴ちゃんを頬張った眼鏡の女性整備士は大人しく引き下がる。
「………」
光牙は笑顔とジェスチャーで三つ編みの女性整備士に礼を伝えるが、無視される。
「浅野、次のシミュレーションをやるぞ!今度はとっておきの奴を流してやるぜ!」
「了解」
我に返り、光牙の適性の高さに興奮した勝久は、高ランクのシミュレーションデータを編集してクラネオンⅢに流す。
-ピンポーン-
「次だ」
-ピンポーン-
「これはどうだ」
-ピンポーン-
勝久の流したシミュレーションデータは悉く光牙にクリアされ、テイロンのシミュレーション戦闘の記録が次々と塗り替えられていく…。
光牙の実力の凄さにクルー達が唖然とする中…
-ビィィィィン-
「!!?」
「総員第一戦闘配備!繰り返す、総員第一戦闘配備!」
-ダダッ-
突然「紅」の警戒音が鳴り響き、テイロンのクルー達は迅速に行動する。
-ビィィィィン-
「パイロットはZWに搭乗して待機!各員は速やかに持ち場に付いて下さい!」
オペレーターが慌ただしく言い、艦内は騒然とする。
「浅野!シミュレーションは中断だ!実戦に入るぞ!モード系統を切り替えろ!」
「了解!」
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室内にて弓菜と結依菜…
「お姉ちゃん、私も行く!」
「よし、結依菜はアタシのサポートだ、行くよ!」
「はい!」
風呂上がりの弓菜と結依菜は、警戒音が鳴り響くなり迅速に着替えて部屋を出る。
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廊下にて雫石…
-ビィィィィィ-
-ズゥゥン-
「うわっ!?か…格納庫に行かないと!」
-ガシッ-
「こっちだ!」
「巽さん!?」
「俺も居るぞ?」
「壱岐おじ…いえ大尉!?」
-クラッ-
「戦闘配備中にその呼び方は止めてくれ…」
「すいません!」
「…(浅野姉弟か…これで勝己が居れば無敵になるのだが…)」
壱岐が雫石に脱力する中、巽は嘗ての事を思案しつつ雫石の手を引いて格納庫へと疾走していく。
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