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第一部・神さまは気まぐれ!?編 (4)


 4



 修学旅行当日。


 3年生一同は、校庭に集合していた。


 J中学では、特例としてこういう旅行などの行事の時は、私服での参加が認められていた。よって、生徒たちは思い思いの服装をしている。


「トモエ」


 背中から声をかけられ、振り向いたトモエは面喰った。そこには、メイド服のようにフリフリのフリルのついた衣服に身を包んだ少女が立っていた。クラスメイトの高島アイラだ。今年の春に転入してきた、日本人とスコットランド人とのハーフである。


「……何、その格好」


 唖然となりながらトモエが訊くと、アイラは満面の笑みを浮かべて云った。


「ホラ、セッカク私服OKなんダモノ。張り切っちゃっタ」


 アイラはぶっ飛んだと云ってもいいくらい独特な性格の持ち主でもあった。転校初日のあの自己紹介は、トモエにとって今でも忘れがたい。


「だからって、コスプレして来なくても」


「コーユー時だからコソ、コスプレする価値ガあるノヨ」


「コスプレみたいなことは、戦う時に毎回してるじゃん」


 アイラはトモエと同じ、魔法少女なのだ。


 けれど、アイラは不満そうに唇をとがらせて、首を横に振った。


「あれハ、コスチュームプレイじゃナイ。“コスチュームバトル”ダヨ!」


 誰が上手いこと云えと――、とトモエは心で呟く。というか、上手くない。


「いいじゃナイ。ミンナこっちニ注目シテるシ」


 アイラは満面の笑みでハーイと周囲に向かって手を振ってみせた。


「呆れてるんじゃ……」

 と云いながら、トモエはあたりの様子をうかがった。けれど、たしかに悪目立ちしているといった様子ではなかった。むしろ、男子などは、嬉しそうにニヤニヤしている。改めてアイラの身なりを見やると、たしかに似合っているのだ。彼女の日本人離れした顔立ちと、長いブロンドの髪、そしてすらっとした身体に、その衣装はよくマッチしていた。


「ま、あんまりやりすぎないようにね」

 と、トモエは返した。この時点で、すでにやりすぎな気はしたが――。


 その後、先生からの話があって、バスの方へと移動になった。


 バスに乗り込み、先生の点呼が済めば、いよいよ出発だ。


 バスが走りだし、トモエたちは、過ぎ行く校舎を見送った。


 バスガイドが先頭に立ち、挨拶と簡単なお話をしているうちに、バスは高速道路に入った。そこからは個人個人の自由な時間になる。近くの座席の友人同士で喋っている生徒もいれば、スピーカーから流れているヒット曲に耳を傾ける者、リクライニングを倒し眠る者もいる。


 そんな中でトモエは、窓の淵に肘をつき、流れゆく外の風景を眺めていた。ふいに、かばんの中から場違いな電子音が聞こえてきた。この夏に父親から買ってもらった携帯電話が鳴きだしたようだ。メロディから、Eメールの着信であるとトモエには分かった。彼女はかばんの中から携帯電話を取り出した。今でいうところのガラケーというやつだ。開くと知り合いの大学生、日下 愛稀からのメールであった。



『トモちゃんへ。おみやげ楽しみにしてるよ☆ 私の分とまどかの分、両方買ってきてねー♪』



 見るなりトモエはすぐにホールドボタンを押し、携帯電話を閉じた。全力で無視することにしたのだ。それと同時に、おみやげを渡す人を列挙した彼女の脳内リストからも、日下 愛稀と三都まどか姉妹は除外された。


(そもそもおみやげを期待するのが間違いなんだ。私がひねくれ者だって、未だに知らないのかな)


 トモエはふふん、とひとり笑ってみせた。


「トモエ、誰からのメール?」


 ふいに、隣に座っていた金子 由梨が話しかけてきた。


「ううん。迷惑メール」


 トモエはそう云って、携帯電話をマナーモードに設定し、かばんの中にしまった。


(そういえば、お姉ちゃんに星夜のこと相談したことがあったな……)


 トモエはふと思い出した。愛稀と以前話した時のことを。その時の会話の内容は、トモエにとってはあまり思い出したくないものであった。しかし、彼女のそんな思いとは裏腹に、彼女の脳内では、記憶の淵から滲み出るがごとく、その時のことがよみがえってくる。あたりの情景、交わした言葉、そしてその際の自分の心境まで、鮮明に――。


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