第四部・破滅の救済編 (2_2)
「そ、それは……」
ソーホーは返答に窮した。ディタは続ける。
「私ね、幼いころからずっと考えてきたの。なぜ世界はふたつに分断されているのか。どうして魔物は差別されているのか。でもね、そんなことを云っても、誰にも相手にしてもらえなかった。むしろ、そんなことを考える方がおかしいと云われたわ。でも、私はずっと思ってきた。地上世界に住む人々が清らかなのだったら、どうしてもっと気づかってあげないのかなって。それで、私気づいたの。人は魔物を差別するけど、そんな人も魔物と同じように、あさましい存在なんだって。自分の醜さを隠すために、もっと醜い存在を自分たちの了見で作り上げていたのだって」
だからね、これは罰なのよ――。ディタはそうつけ加えた。
「……罰?」
「そう、自分の醜さを他者になすりつけていたことの」
ソーホーがなだめるように云った。
「ディタ、君はそんなことのできる人間じゃないはずだ。どうか思いとどまって――」
「黙りなさい!」
ソーホーの言葉を遮るように、ディタはすごんだ。その刹那、彼女の身体からものすごい気迫を感じた。トモエたちは、ひとりでに身がまえた。それからすぐ、彼女はうすら笑いを浮かべた。
「そうだ、まずはあなたたちにも分からせてあげるわ。自分がどれほどあさましい人間なのかを――」
ディタはひとりひとりの顔をゆっくりと舐めるように眺めてゆく。ソーホー、イエガー、スミノフ、そしてトモエ――。そしてディタの視線は、その中のひとりをロックオンした。
「まずは――トモエさん、あなたに決めた!」
瞬間、目の前からディタの姿が消えた。その刹那、トモエはすぐ背後に強烈な魔の気配を感じた。ぬっと目の前に現れた、長く鋭い爪がギラリと光る。ディタが腕を回してきたのだ。トモエは身震いした。ディタはその手でトモエの顎をつかみ、自分の方へと引き寄せた。そして豊満な胸を背中に押しあててくる。
「やめて、放して!」
じたばたするトモエを、ディタはより強い力で押さえつけ放さない。
「いい子にして――」
彼女はどす黒い声でささやいた口で、トモエの耳をくわえ、舐めた。トモエは急激な脱力感に見舞われ、抵抗できなくなる。
「見せてもらうわよ。あなたの心の内側を――」
ディタの息吹がトモエの耳に伝わり、それは彼女の胸の中へとすとんと落ちた。その時、トモエの心の中にある感情が湧き起こり、泡になって浮かんでくるのを感じた。それは、彼女が自分でも見ないようにしていた、いうなれば影の部分であった。そしてそれは、背中からディタの乳房を通じ、彼女の心へと伝わってゆく。
「ほぅら、正義の味方を気取ってるあなたでも、心の奥底はこんなにも醜いのよ」
ディタのささやきが遠くに感じた。目の前が真っ暗になった。トモエの意識は今、自分自身の心の闇へと誘われてゆくのだった。




