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第四部・破滅の救済編 (2_1)


 2



 アマレットの創ってくれた道を通り、ゲートを抜ければ、王宮のすぐ近くに出た。


「ソーホー!」


 叫び声がした。見れば、イエガーが血相を変えてこちらへと走ってくる。


「イエガー!」

 とソーホーも叫び返した。イエガーは走りながら改めてソーホーたちの方を見て、ぎょっとした。ソーホーの傍らには、トモエだけでなく、一体の魔物の姿があった。


「ソーホー、それは何だ?」


 イエガーは魔物を指さし、吐き捨てるように云った。


「こいつか? スミノフだ」


「これが……?」


 イエガーは驚いたような声をあげた。こんなに軟弱な風貌だったか? と思ったのだ。


「――だが、なぜお前がこいつと一緒にいる」


 イエガーは気を取り直し、さらに質問を重ねた。どうして、敵国の王を連れてきたのだという疑惑が出るのは、当然のことであった。


 ソーホーは誇らしげな口調で応えた。


「安心しろ。こやつは、我々が改心させてやった。罪を償いたいと自ら申し出てきたのだ」


(あなた、何もしてないけど――)


 トモエは心の中で思ったが、それでもあえて口にすることはしなかった。


「…………」


 イエガーはスミノフを険しい目で睨んでいた。スミノフも、弱々しいが毅然とした視線で彼を見つめ返す。イエガーは軽く息をついて、ソーホーへ向き直った。


「まあいい、こいつの話は後だ。お前、ディタを一体どうしたのだ」


「どうしたとは……」


「ディタは今、大変なことになっているぞ。お前、ディタを助けるという、あの約束はどうしたのだ!」


 イエガーは目をいからせていた。ソーホーの目の色が変わった。


「――ディタはどこにいるのだ?」


 ソーホーが訊いた矢先、

「ここよ――」


 空から声が聞こえた。見上げれば、ディタが宙に浮いていた。そのまま、黒い羽をひるがえして地に降り立った。


「……兵隊たちはどうした?」


 イエガーは緊迫した表情で云った。


「――ああ、私を取り囲んでいたあなたの犬たちね。鬱陶しいから、蹴散らしてあげたわ」


 ディタはものぐさそうに、長い髪をかきあげながら云った。トモエはまがまがしい情念が彼女の全身からほとばしるのを感じた。彼女からにじみ出る負のオーラはまるで、スモッグのように黒いもやを、空気中に放出しているかのようだった。


「ディタ、もうこんなことはよそう。君は人だ、魔物じゃない」


 ソーホーはディタに向かってそう云った。だが、トモエは感じていた。今の彼女の情念は、あまりに邪悪で、それは力を有していたころのスミノフよりも強い。


「……魔物も元をただせばその起源は人。それに、彼らは魔物になりたくてなったわけじゃない。人は生まれる場所を自分で選べないの。たまたま生まれ育った環境がそうだったってだけなのよ。それなのに、人々は、そんな者たちを偏見の目で見る。たまたま恵まれた環境や家系に生まれただけだっていうのにね。――それはあなただって同じよ、ソーホー」


 ディタはソーホーを睨みつけていた。


「そ、そんなことはないよ」


「そうかしら? たしかに私が人であった時には、あなたはとても優しい人だと思っていたわ。けれど、魔物のことを語る時、あなたはよくこう云った。『魔物のくせに』『魔物の分際で』。あなたも間違いなく、魔物を差別していたわ。他の人間と同じようにね」


 ディタの云うことについては、たしかに思いあたるふしがあった。魔界王国に赴いた際、ソーホーは憐れな少年に施したが、それ以上に魔物を下に見るような言葉を何度も発していたのだ。


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