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第三部・魔界王国の野望編 (9_2)


 古くからの云い伝えに端を発した今回の件の裏事情について、ドランブイはさらに話を続けていた。


「予言の日に近づくにつれ、色々と兆候が見えてきた。そしてそれは、実際の出来事として起こってきたのだ。俺とアマレットは、予言の前触れだと思ったね」


 スミノフ王がレイシー王国に攻めいったり、ディタ姫がさらわれたり……、と列挙していった後、ドランブイはふいにトモエを指さした。


「……お前さんが現れたりな」


「え、わ、私?」


 トモエは戸惑ったように云った。


「ああ。だが、これは希望の光かもしれねえとも思えた。破滅から世界を救う救世主となりうるかもしれん、とな」


 トモエからみてここにいる者たちがそうであるように、彼らからしてもトモエは異次元からの来訪者であった。このような時期に、そんなトモエが現れたことには、何か特別な意味があるのだと、ドランブイは思っていた。


「アマレットがディタを氷づけにしたのはなぜなのだ?」


 ソーホーが質問を投げかけた。ドランブイは答える。


「それは、この王さんやその手下たちがディタ姫を好き放題にすることを防ぐためだ。それに、お前さんら地上世界の人間も、おそれてうかつに攻め入ることができなくなるとも考えた。事態を激化するのを防ぐ目的があったんだよ。もちろん、ディタ姫も合意のうえだ」


「なんだって、ディタが……!?」


 ソーホーは素っ頓狂な声をあげた。ドランブイは頷いてみせる。


「そうだ。さっきも云ったが、姫さんはとても心の優しいお方だったらしく、しもじもにも色々と目をかけてくださったらしい。アマレットが直接、姫さんに話をさせていただく機会も何度かはあったってことだよ」


 次に質問を投げかけたのはトモエだった。


「じゃあ、おじいさんはどうして、ディタをここに連れて来たの? あなたなら、この中でディタが一番悪意の化身に見染められやすいことを、知っていたんじゃないの?」


「実をいえば、それも姫さんと打ち合わせ通りだった。この地下世界には、長い時間をかけてよこしまな情念が溜まりすぎている。分散してやらねえと、今回のことが解決しても、またすぐ新たな悲劇が起こるのは目に見えていた。もっとも、あれほどまでに力を発揮できるようになるとは、俺にも想定外だったが――」


「すべてはきさまたちが仕組んだことだったのか――」


 ソーホーは奥歯を噛みしめるように云った。ドランブイとアマレットのことを、よっぽど腹立たしく思っているのだろう。だが、目の前の老人に怒りをぶつけることは、もはや無意味であると理解しているようだった。その代わりに、嘆くように言葉を続けた。


「だが、ディタはそれほどまでに思い悩んでいたのだな。何てことだ、私はそんな彼女の気持ちを、まったく分かっていなかった……」


「悔やんでいても仕方がないよ」


 トモエはすっくと立ち上がった。ディタの飛んでいった方角を見上げる。


「ディタを止めに行かなきゃ」


 ディタを救うためにも、破滅から世界を救うためにも、戦う以外に道はない。


「私にも手伝わせてくれ」


 そう云ったのはスミノフだった。


「……きさまが?」


 ソーホーは訝しそうな目を彼に向ける。


「今回のことは私に責任がある。罪を償うためにも、私はディタ姫を救いたい」


「分かった」


 トモエは大きく頷いてみせた。


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