第三部・魔界王国の野望編 (9_1)
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この世界に伝わる云い伝えがあった。
何千年も以前の話である。そのころ、世界はひとつであった。神と呼ばれしひとりの男が世界をまとめ、その男の下で人々は平等に暮らしていた。
しかしある時、ひとりの人間に、もっといい暮らしがしたいという欲が出た。彼は、神に供物を捧げるのを拒み、それを自分の蓄えとし、別の者に自分の負担をおわせた。また、蓄えが増えると、今度は人々にもっといい暮らしをしないかと声をかけ、自分と同じような欲深い人間を集めていった。集団は次第に大きくなり、いつしか巨大なクニとなっていた。クニの者たちは神を敬う気持ちも忘れ、作物を他の貧しい者に分け与えることもせず、自分たちだけ楽しく暮らすようになった。
そのことに気づいた神は怒り、世界を二層に分け、そのクニの者たちを暗い下層の世界に閉じ込めてしまった。これによって、地上世界と地下世界に、世界は分断されてしまった。地上世界は恵まれた環境で清らかな人々が住む世界である。その一方で、地下世界は貧しくすさんだ心とよこしまな情念がはびこる世界であった――。
ただの云い伝えであるため、真偽のほどは定かではないが、地上世界と地下世界の現状を如実にあらわしている。云い換えれば、地上世界の人々が、魔物と化した地下世界の者たちを差別している理由には、この云い伝えが一端を担っていると云ってもいい。
だが、云い伝えはこれで終わりではなかった。世界を二極化した神は、こんな予言を残していたのだ。予言はこのように伝えられていた。これより数千年後のある日、世界の理を覆す大変な事態が起こる。混沌の先に待つものは破滅か、新たな理の構築であろう、と――。
この予言は、神に仕える一部の家系でしか知られておらず、アマレットとドランブイはその末裔であった。ドランブイの祖先は地下世界へと赴き、アマレットの祖先は魔法使いとして、地上世界から地下世界へつながるルートの門番となった。そうして、ふたつの世界の変遷を見ることで、予言の日に何が起こるのかを予測し、世界の破滅を防ぐ策がないかと考えていたのだ。
そして、神の予言の日。それがまさに今日この日であったのだ――。




