第三部・魔界王国の野望編 (8_2)
「う、うう……」
そこへ、スミノフがよろめきながら上体を起こした。悪意の化身が抜け、目や表情に力はなく、身体はひとまわりどころか、ふたまわりも小さくなっている。ソーホーはそんな彼に怒りの目を向けた。
「き、きさま、まだ生きていたのか、ぶち殺してくれる!」
ソーホーは剣を抜き、スミノフに突き立てた。あまりの怒りで、ミストにスミノフは殺さないと約束していたことなど、すっかり忘れていた。スミノフは目を剥いたが、その場から逃げようとはせず、まっすぐに剣の切っ先を見つめていた。自分の状況をすでに理解しているようだ。
「待ちな。王さんはもはや、悪意の化身の脱け殻だ」
ドランブイがソーホーを制止した。
「それでも、ディタをあんな目にあわせたのはこいつだろ……!」
それでもソーホーの怒りは納まらない。
「私もおじいさんの云う通りだと思う。スミノフを殺しても意味はないよ」
ソーホーは引っ込みがつかず、しばらく剣を震えるほど強く握ったままでスミノフを睨みつけていた。スミノフは眼前に迫る剣の切っ先をまっすぐに見据えている。すでに覚悟はできているように。
「――――ッ」
ソーホーははたと剣を持つ腕を下ろした。潔いスミノフの態度に殺意を奪われてしまったのだ。
「……私はとんでもないことをしてしまっていたようだ」
スミノフはぽつりと云った。その声はか細く、以前のような威厳は失われている。そんなスミノフに対し、ドランブイは首を横に振った。
「王さんをそうさせていたのは、取り憑いていた悪意の化身のせいです。王さんが悪いわけじゃない」
スミノフはうつむきながら、弱々しく云った。
「だが、それでも私がしてしまったことがなくなるわけではない――。何とかして罪を償いたいが……」
「その前に――」
トモエがスミノフの言葉をさえぎった。
「おじいさんには、今回の出来事について、ちゃんと説明をしてもらいたいのだけれど」
「どういうこった?」
ドランブイは抑揚のない語調で訊き返した。
「ずっと不思議に思ってたんだ。だっておじいさん、色んなことを知りすぎているもの。もう事態はここまで来たんだから、隠しごとはなしにして、すべて話してくれてもいいんじゃない?」
ドランブイは観念したように目を閉じ、ふぅ、と息を吐いた。
「分かった。そろそろ種明かしをするとしようか――」




