第一部・神さまは気まぐれ!?編 (3)
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路地に逃げ込んだ女子高生3人を待ちかまえていたのは、行き止まりであった。
高校からまっすぐ帰ることなく、彼女たちはゲーセンやファーストフード店で遊び呆け、門限を過ぎてもまだ夜の街を遊び回っていた。校則や家庭に縛りつけられるのが面倒で、また3人集まれば怖いものなどないと思っていた。そんな彼女たちに下された罰であろうか。彼女たちの目の前に姿を現したのは、学校の生活指導の教師でも、厳格な両親でもなく、見たこともないような得体のしれない姿をした化物であった。
壁を背にして立てば、その化物が宙に浮き、ヒューヒューと呼吸のような音をたてながら、こちらに近づいてくるのが見えた。スライムのような反流動体の身体がプルプルと揺れている。彼女たちは腰を抜かし、身を寄せ合ったまま震えていた。もはや、声を出すこともできなかった。
そこへ――、
スタッ、と目の前に降り立つ人影があった。がっちりとした赤いワンピースに身を包み、腰に剣をさしている。髪は切りたてなのか、肩のあたりで綺麗に切り揃えられていた。背格好からして、中学生くらいの少女のようだ。
少女は、女子高生たちの方を振り返った。
「動かないで。危ないから」
そこにいた少女。それはトモエだった。
ビュオォォォォォォ!
独特な音をたてながら、邪霊はスライムのような身体を揺らす。その身体から槍のように尖る物体が飛びだした。ガシィン! トモエは剣でそれを防ぐ。矢継ぎ早に槍を繰り出す邪霊。ガシン、ガシィン……! トモエは邪霊の攻撃を次々と防いでゆく。
「やっ!」
一瞬の隙をつき、トモエは手から爆風を飛ばした。槍は吹き飛ばされ、邪霊も一瞬たじろいだ。トモエは剣を構え、邪霊のもとへと突進する。
「やああああああ!」
ふいにニュル、という感触がした。
「はっ!」
邪霊の触手がトモエの手首に絡みついていた。触手がなぎ払われた。ドオォン! トモエは壁に激突する。パラパラと壁が崩れた。ニヤリ、と笑みを浮かべるがごとく、邪霊のスライムが上向きにひしゃげた。
トモエの剣は邪霊に奪い取られていた。邪霊は剣をトモエに向かって放り投げた。しかし、剣が壁に突き刺さった時、そこにトモエの姿はなかった。彼女は瞬時に邪霊の背後にワープしていたのだ。
「やあっ!」
彼女の手から伸びた赤色の二重螺旋が、邪霊の身体に絡みつく。
「はあぁぁぁっ!!」
トモエは勢いよく腕を引く。ブリュリュリュ――と気味の悪い音とともに、邪霊の身体が螺旋に引きちぎられた。トモエは螺旋を振りまわし、壁に刺さる剣を絡めとった。胸元の宝石が光る。剣を手に取ると、刃が緑の炎に包まれた。
「たあああああっ!」
剣が邪霊を斬り裂いた。
ギュワアアアアアア! という軋むような音がして、邪霊は崩壊し、四方へと散った。その破片が、女子高生たちの顔や衣服にもベタベタと飛んだ。
「浄化完了。邪悪なものに侵されし憐れな者よ。せめて魂は安らかに眠りたまえ」
トモエは唱え終わると変身を解き、未だ脅えた目で震えている女子高生たちの方へと歩いた。
「あれは人々の悪い心によって生み出された悪意の化身。そしてあれは、邪な心を持った人を襲いやすいの。だから、これからは清らかな心で生きることをおすすめするよ」
トモエはそう云って、踵を返し、歩きだした。
「ね、ねえ……!」
女子高生のひとりがトモエを呼び止めた。
「あんた、何者なの? 教えて」
トモエは女子高生たちを振り返り、ゆっくりと口を開いた。
「魔法少女・鶴洲トモエ」