第三部・魔界王国の野望編 (6_2)
瞬間、スミノフの姿が消えた。
(うしろ……!)
突然の気配に振り返ったその刹那、鋭い爪がトモエの背中をとらえた。
「ギャッ――!!」
トモエは叫んで、前につんのめった。片足を前に出して踏みとどまり、腰の剣を抜き振り向きざまにふるう。
ガキイィィン――!
スミノフは爪で刃を受け止めた。そのまま剣の切っ先を握り、上下に勢いよく振った。トモエは浮き上がり、直後地面へと叩きつけられた。剣を引き抜こうとするも、スミノフの指はそれを離そうとしない。
「ふんっ!」
スミノフは衝撃波を繰り出した。トモエは飛ばされ、壁に激突した。
――トモエ、大丈夫?――
頭にイチコの声が響いた。
「ヤバい、アイツ強すぎる……」
――トモエ、臆するでない――
今度はマオの声がした。
「どうすればいいかな?」
――奴のパワーの源が何なのか考えてみよ――
「パワーの源……?」
トモエは少し考えて、はっとした。
「悪意の化身……!?」
――そうじゃ。あやつの心は、完全に悪意の化身に支配されておる。それがあやつの強さの源じゃ。むろん、あやつ自体も弱くはないのじゃろうが、悪意の化身に支配されることで、強さが格段に上がっておる――
「なるほどね――」
トモエは立ち上がった。スミノフから受けた背中の傷が痛む。かなりの深手のはずだ。けれど、手当てをしている余裕などはあるはずもない。
「ほう、まだ立ち上がるか」
スミノフは嬉しそうであった。トモエは辛うじて手放さなかった剣をふたたび構える。
「マオにイチコ、力を貸してよ!」
胸元の石が緑に光った。それは拡がって、全身を覆うオーラとなる。
「はああああああっ!」
トモエはスミノフめがけて突進した。
「愚かな……!」
スミノフは腕を横に開き、トモエめがけて思い切り薙いだ。鋭い爪がトモエの首筋に迫る。その時――、
「はっ」
トモエのてのひらから緑色の光が放たれた。
「うっ?」と、喰らったスミノフは一瞬ひるんだ。途端に、攻撃に勢いがなくなった。トモエはそれをさっとかわして、ジャンプした。
「やあああああああ!」
全体重をかけ、スミノフの肩めがけて剣を振り下ろす。ズバアッ――と、傷口から緑色の血が噴き出した。
「ぐわあああっ! キ、キサマ……!!」
スミノフは先ほどとは違う方の手で、パンチを繰り出してくる。トモエはオーラを纏った刃でそれを受け止めた。パワーがすっとしぼむのを感じた。そして拳をするりとかわし、スミノフのふところに潜り込む。
「たあああああああっ!」
トモエは脇腹めがけて刃を突き刺した。
「ぐ、ぐふっ……」
スミノフはたまらずその場に倒れた。
「やっぱり思った通り。浄化の力で悪意のパワーを一時的に抑えてやれば、こちらにも反撃の余地はある」
状況は有利になったかに見えたが、マオは深刻そうな口調でトモエに云った。
――じゃがトモエよ、まだ安心するな。あやつまだ死んではおらん――
「分かってるよ」
トモエは落ち着いたトーンで返す。
スミノフは小刻みに震えながらもゆっくりと起き上がった。
「キ、キサマ、許さんぞ……!」
その顔は、怒りで醜く歪んでいた。




