第三部・魔界王国の野望編 (5_2)
もとの場所に戻ると、数匹の魔物が牢の中にいた。ワープから続けざまにトモエは剣をふるう。魔物たちはばたばたとその場に倒れこんだ。みねうちだったため、死んではいないだろう。
ソーホーはあたりをキョロキョロと見回した。他に誰もいないことを確認する。
「スミノフはどこだろう?」
「とりあえず、牢から出てみようか」
鉄格子の鍵は開いている。足元に倒れているスミノフの手下たちが開けたのだろう。トモエとソーホーは牢の外へと出た。目の前に階段があった。この地下室から出るための階段だろう。一段一段ゆっくりと、物音をたてないように上ってゆく。
「トモエ――」
ふいにソーホーが呼んだ。
「いつでも戦えるよう心の準備をしておいた方がいいぞ。我々はとっくに敵の陣地に足を踏み入れているのだ」
「とっくに分かってるよ、そんなこと」
トモエはソーホーを振り返った。大層なことをのたまう割に、彼の身体はガクガクと震えている。
「あなたこそそんなに震えてて、大丈夫なの?」
「馬鹿云うな。武者震いだ」
ソーホーはどこかで聞いたような返しをした。
トモエとソーホーは階段を上りきった。そんなふたりを、数十匹の魔物がぐるりと取り囲んでいた。
「うわ、やっぱり――」
ソーホーが脅えたように云った。じりじりと魔物たちが近づいてくる。トモエはキッと睨みをきかせながら、剣のつかを握った。
(来る……!)
トモエは身構えた。
「かかれえぇ!」
一匹の魔物の号令とともに、数十匹の魔物がいっせいに襲いかかってきた。
その時――、
『待てぃ!!』
どこかからドスのきいた声が城内に響いた。魔物たちは見事と云えるくらい、いっせいにぴたりと動きを止めた。どこかからズシンズシンと地響きがする。やがて姿を現したのは、身の丈3メートル近くあるであろう、巨大な魔物であった。全身はごつごつとした黒い皮膚で覆われ、四肢の一本一本が太くたくましい。
「ス、スミノフさま……!」
その姿を見るなり、魔物たちはいっせいにひれ伏した。
「あれがスミノフ……」
トモエは圧倒される思いであった。あまりに強そうな外観というのも、その理由ではあった。だがそれだけではない。その全身から、強力な負のオーラともいうべき、禍々しい邪念が放たれていたのだ。トモエの魔法少女としての眼力が、彼女自身に告げていた。コイツは強い――と。
「きさまら、たったふたりで乗り込んできたのか。褒めてやるぞ」
スミノフが喋るたび、壁や柱やそこらじゅうのものが振動する。そのために彼の声には、余計に威圧感を覚えた。
「そうだ。よくもディタを氷づけになどしてくれたな!」
ソーホーは負けじと云ったが、残念ながらその声はスミノフに比べてか細く、ひ弱に聞こえてしまうのは否めない。
フン、とスミノフは鼻で笑った。
「あれは、私の指示ではない。ディサローノの森にいたババアがやったのだ。まったく、あやつが余計な魔法をかけたせいで、私もディタ姫に好きに手出しすることができなくなってしまった――」
「なん、だと……?」
トモエもソーホーも耳を疑った。スミノフの言葉を真に受けるなら、ディタを氷づけにしたのは、他ならぬアマレットだということになる。
「アイツのしわざだったのか。まんまと騙された……!」
ソーホーは嘆かわしく呟いたが、気を取り直したらしく、ふたたびスミノフの方に向き直った。
「――それは残念だったな。しかも、ディタはもう我々が助けだしたぞ!」
しかし、スミノフは少しも戸惑う様子をみせない。
「そんなことはとるに足らん。またさらえばいいことだ。きさまらを葬り去った後でな」
スミノフは手をぐっと出し、指先に力をこめた。鋭く尖った爪がギラリと光った。
「たったふたりで乗り込んできたきさまらに敬意を表して、この私がじきじきに相手をしてやろう。ついてこい、存分に戦える場所に案内してやる」
スミノフは背を向け、歩きだした。これは、ついてゆくより外はないだろう。




