第三部・魔界王国の野望編 (5_1)
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移動した先でトモエが目にしたものは、氷づけにされた美少女の姿であった。テーマパークで目にしたのと同じ姿――、ディタであることは間違いないようだ。
「ディタ――」
ソーホーは息をのんだ。
「こんな姿になって可哀想に……。何をしておる。はやくディタを助け出せ」
焦った様子でソーホーはトモエを促した。
「あ、うん」
トモエは手を開き、ドランブイから渡された石を眺めた。魔力をこめると、石は緑色に輝き、光の塊が氷へと飛び移った。少しずつ氷は光の粒となりながら、空中へと消えてゆく。やがて氷も光も消え失せ、何にも束縛されないディタの姿が残った。
ふいに、ディタの足がガクッとなった。
「あ……ああ」
軽く呻いて倒れ込む彼女を、トモエとソーホーは抱え込んだ。ふたりは、ディタを近くのベッドへと座らせた。
「大丈夫か?」
ソーホーが心配そうに訊いた。ディタは額を押さえてしばらくうずくまっていたが、やがてトモエたちの方を見上げ、キョトンとした目をしばたかせた。
「ソーホー……、あとトモエさんでしたわね。助けに来てくれたんですね」
その顔が嬉しそうにほころんだ。
「無事でよかった。けど、怖かったろう。もう大丈夫だ」
「あなたが助けてに来てくれるって信じてた」
ディタははにかむように云った。ソーホーも彼女に微笑み返す。しばらくふたりは見つめ合っていた。その矢先――、
ガタンッ!
という音が響いた。はっと見ると、鉄格子の向こうから、魔物がこちらにやって来るのが見えた。魔物はトモエたちの姿を見て、はっとその動きを止めた。
「オマエ! ドコカラキタ!?」
魔物は叫んだ。
「やばっ。いったん退こう!」
トモエは云って、ソーホーの手をとった。
「何してんの。はやくディタの手をとって!」
魔物の方を見たままボーッとしていたソーホーにトモエは叫んだ。
ソーホーははっとなって、すかさずディタの手を握る。トモエはワープの能力を発動させた。3人は瞬時に、地下道へと戻った。まだそこにはドランブイがいた。
「おぅ、さっき別れたばかりだってのに、もう戻ってきたのか」
「呑気に構えてる場合じゃない。スミノフの手下に見つかった!」
「ほぅ、そりゃやべえな」
意外にも平然とした口調で彼は応えた。まるで、こうなることを予期していたと思えるくらいに――。
「とにかく、あなたたちは一刻も早く安全なところへ」
トモエはぐっと背筋を伸ばし、天井を見上げた。
「お前さんは?」
「私は奴らと戦ってくる」
ふいに、ソーホーが云った。
「私も行くぞ!」
「あなたはディタのそばにいてやって」
トモエはそう云ったが、
「いや、ディタをこんな目に遭わせた奴らだ。ひと泡吹かせてやらんと気がすまん」
とソーホーはきっぱりと応えた。どうやら決意は固いらしい。
「――分かった。おじいさん、ディタを安全な場所に連れていってくれる?」
「ああ、任せておけ」
ドランブイは答えた。
「ソーホー、気をつけて」
ディタはソーホーに心配そうな眼差しを向けていた。
「大丈夫だ。心配するな」
余計な心配をかけまいとするような、優しい口調であった。




